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個人投資家目線の読書録

マーダーボット・ダイアリー ネットワークエフェクト

マーサ・ウェルズ 訳・中原尚哉 東京創元社 2021.10.15
読書日:2022.1.15

幣機」の一人称で語る、マーダーボットシリーズの初長編。

いや、去年読んだマーダーボット・ダイアリーがあまりに面白かったので、続編を楽しみにしていました。でもこの長編はそれなりだったかな。

前作で幣機を預かることになったプリザベーション連合の議長メンサーの娘アメナの警護をしていた弊機が、アメナとともに前作の第2話にでてきたART(アスホール・リサーチ・トランスポート、不愉快千万な調査船)に乗った灰色の肌のヒューマノイドに拉致され、弊機は休眠状態のARTを再起動させて復活させるとともに、囚われたARTの乗組員を救出する、というのがお話の概要。

お話の展開にはちょっと強引なところもあるんだけど、本シリーズの最大の魅力は、人間の有機体を使いつつほぼ機械の幣機が異常に内省的で、幣機の独特の思考が存分に語られているところなので、とくに気にするほどでもありません。

弊機は人間ではないのですが、連続ドラマに耽溺していて、その膨大なドラマを参照して人間の心を推察していきます。(でもときどきどう回答していいかわからずに、メモリー内の定型文で回答したりするところもあります)。また警備ユニットには限られた知識しかないので、そのような欠けた部分(たとえばワームホールで起きることとか)も連続ドラマのなかの知識で補っています。ただし自分がどう感じているかという部分についてはけっこう明確で、たいていうんざりしたり、退屈したりしています。

いっぽうで、この世界はなぜか企業活動が中心で、そのせいか、契約ということに誰もが異常にこだわってます。「契約でそうなっています」と答えると、誰もがそれで納得したりします。ただ、どうも政府や裁判所などの強制力は弱いみたいで(というか、ほぼない?)、契約を破ったとしてもそれを強制することはできなさそうなので、これは単に企業文化として伝承されているだけなのかもしれません。

そのせいもあるのか、企業には人権という概念が乏しくて、人間がものとしてカウントされて、ほぼ奴隷売買みたいな状態になっている場合もあります。プリザベーション連合では人権意識は高く弊機のようなアンドロイドにまで及んでいて、アメナなどは弊機について聞かれたら「弊機を所有していると相手に言ってください」とアドバイスを受けても、そう解答することに抵抗を感じたりしています。まあ、だから自由を求める弊機はプリザベーション連合に滞在することにしてたんだけど。

こうした世界観と弊機のキャラがみごとに一致しているところが魅力で、こうまで弊機のキャラが立ってると、いくらでも話が膨らみそう。このお話の最後で、弊機はARTの誘いを受けて、プリザベーション連合を離れて一緒に次のミッションをこなすことにしたから、次はこの話になるんでしょうね。

ネットワークエフェクトという題名の由来はよくわからなかりませんでした。自分のコピーをキルウェアのマーダーボット2.0として相手の船に送り込んだりしているから、そういう自分の意識をネット上にコピーすることを言っているのかもしれないし、弊機自身の仲間のネットワークの広がりのことを言っているのかもしれない。

アクションシーンもこのシリーズは秀逸だけど、今回は最初から最後までアクションシーンの連続。弊機、忙しいなあ。

★★★☆☆

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