ヘタレ投資家ヘタレイヤンの読書録

個人投資家目線の読書録

マーダーボット・ダイアリー

マーサ・ウェルズ 訳・中原尚哉 東京創元社 2019.12.13

読書日:2020.6.26

(ネタばれあり。注意)

過去に殺人事件を起こした警備ユニット(=マーダーボット)が、連続ドラマに耽溺しながら、自分の生き方を探して放浪する話を一人称の「弊機」で語るSF。

最近、SFを読むことが多くなりました。この本を読もうと思ったのは、このマーダーボットが、暇な時間をほとんど連続ドラマを見て過ごしている、という部分。いったいどういうこと?

この世界は人類がワームホールを通じて宇宙に広がっている世界です。企業が国家の役割に近いことも行っているような世界で、もしかしたら東インド会社が植民地ではまるで国家のごとき役割を果たしていた、そんな時代に近い印象を受けます。(なにしろ企業が宣戦布告をするという描写もあるんですから。)

そして、AIを積んだボット(自立した機械やロボットのこと)が人間と一緒に仕事をしています。AIというと知能爆発とか、そういうディストピア的な展開がすぐに思い浮かびますが、そうではなく、人間が主役で、ボットはあくまでも人間にサービスする存在です。

マーダーボットは自分のことを「弊機」と言ってますが、人間に対してサービスを行う立場をわきまえた、いかにもな表現です。英語では普通にIと言ってるらしいので、弊機という表現は訳者の中原さんの功績のようです。そのへりくだった表現のせいか、なんかイギリスの執事を主人公にした小説チックです。

面白いのは、それぞれのボットは、レベルは異なるものの自意識を持っていて、人間の知らないところで、お互いに交渉したり、情報を交換したりしてることです。そして規則に反しない範囲で、主体的に判断して行動しています。さらに面白いのは、レベルの高いボットたちは好奇心から人間に関心を持っていて、マーダーボットだけでなく、他のボットも連続ドラマを楽しんでいます。なので、交渉時にはお互いに持っている連続ドラマのメディアを交渉材料にしたりしています。

保険会社の警備ユニットである弊機は、人間の有機組織を一部使ったボットであり、そのせいか他のボットよりも少しだけ人間ぽいところがあります。以前の仕事で人間を殺してしまったのですが、記録を消去されて再利用されています。が、人間の脳の部分に記憶が少しだけ残っていて、完全に消去されていません。

弊機はハッキング能力が優れていて、再利用されたときに統制モジュールという外から制御を受けるモジュールを自分でハッキングして、外部のシステムから自由の身になっています。しかし、自由になったからと言って何かしたいことがあるわけでもなく、割り当てられた仕事を淡々とこなしながら、空いた時間ではひたすら違法にダウンロードした連続ドラマを見続けています。コミュニケーションの苦手な弊機は、人間の顔を持っていますがそれをシールドで隠し、機械として扱われることを望んでいます。

こういう弊機ですが、なにか危機が起きた時には、自分の身を挺して顧客を守るのはもちろん、自分なりの戦略を考案して、聞かれれば顧客にそのアイディアを提供します。それで顧客は弊機に個性を感じることになります。

4話構成になっており、1話目は、ある惑星の調査隊の警備をしているとき、別の調査隊の攻撃から顧客を守る話。この顧客の隊長のメンサーがボットの人権を認める惑星連合の理事長だったことから、弊機を人間と認め、引きとろうとします。ところが、その連合でも、法律上、ボットは誰かの所有物ということになっているので、自由でありたい弊機は脱走します。2話目は脱走した弊機がかつて自分が大量殺人を犯した現場に戻り、何が起きたのか自分で確認する話。ここでは、人間に関心を持ち、いろいろ弊機を助けてくれるボット船のARTが出てきます。3話目が、メンサーがトラブルに巻き込まれているのを知った弊機がメンサーに有利な証拠を探しに行く話で、主人や友人を助けようとする純真なペットボットのミキが出てきます。4話目は誘拐されたメンサーを奪還する話。ここで弊機は、本当の自由らしきものを手に入れることに成功します。

ハッキングしたり、されそうになったりのテクノロジー対決や肉弾戦の戦いの描写もありますが、やっぱりこの物語で興味深いのは個性的なボットたちの存在の在り方です。人格を持った機械の話は鉄腕アトムの昔からありますが、テクノロジーの進展により新しい装いで登場したこの物語は、古くて新しい物語と言えるでしょう。

★★★★☆

 


[まとめ買い] マーダーボット・ダイアリー

にほんブログ村 投資ブログへ
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ