ヘタレ投資家ヘタレイヤンの読書録

個人投資家目線の読書録

荒潮

陳楸帆(チェン・チウファン、スタンリー・チェン) 中原尚哉・訳 早川書房 2020.1.20
読書日:2020.2.26

(ネタばれあり。注意)

前にも言ったが、そもそも小説はあまり読まないし、ましてやSFはほとんど読まない。だが最近、中国のSFにはまりつつあるようだ。やはり欧米にはない別の発想があるような気がして、気になるのだ。なので、三体の劉慈欣が激賞した中国の超新星、と聞いてさっそく読むことにしたのである。

結論を言えば、悪くはないのだが超新星というにはどうかな、という感じだった。ネタはなんだかどこかにあるようなものを寄せ集めたような感じがするし、フラッシュバックの多い展開ももどかしかったし、おまけにクライマックスをハリウッド映画みたいなアクションで埋めたのもあまり感心しない。しかし、中国っぽい感じがよく出てたし、情緒がある文章は上手で まあプロなんだから当たり前かもしれないが、ちょっと嫉妬を覚えたくらい。物語よりも文章で読まされた気がする。(翻訳がよかったのかもしれないが)。

物語の舞台は中国の広東省汕頭市の沖にあるシリコン島と呼ばれる島で、この島は世界中から廃品が集められ、リサイクルすることで経済がまわっている。当然、仕事の内容はきつくて汚く健康に悪いので、外から出稼ぎにきた人々が地元の島民からゴミ人間と言われてながらも生業にしている。リサイクル事業は羅(ルオ)、陳(チェン)、林(リン)の三家に牛耳られており、そこに外資のテラグリーン社のスコットがからもうとしている。一方ゴミ人間たちの方も、李文(リー・ウェン)というリーダーが現れて、団結して支配者一族に対抗しようとしている、というのが設定。

ゴミ人間の少女、米米(ミーミー)はこの島に出稼ぎに来ているが、羅家の男たちに襲われているところを、この島の出身で、いまはテラグリーン社の通訳に雇われている陳開宗(チェン・カイゾン)に救われ、恋に落ちる。

前半はこのような状況説明や、登場人物の過去に触れていて、なかなか話が展開しないが、文章が良くて、ところどころに特徴的なギミックやトリビア的な知識、あるいは近未来の生活の様子(電子的な麻薬の話とか)がまぶされており、あまり飽きずに読み進めることができる。作者はIT企業に勤めていたので、ネットやエレクトロニクス関係、あるいはライフサイエンス関連の知識が豊富で、まるでベンチャー・キャピタルの話を聞いてるような気もしないでもない。

話が展開するのは後半からで、米米が殺されそうになり、覚醒するところからである。

ここからネタばれだが、ゴミの中に米国がひそかに開発したウィルスか、あるいは特殊な化学物質のようなものが紛れ込んでおり、米米がそれに汚染されていたのだ。それは脳内に金属の粒子を配置して、電子回路へのアクセスを可能にする。この結果、米米はロボットの制御回路やネットに自在にアクセスできるようになる。

というわけで、米米攻殻機動隊草薙素子みたいな存在になるのだ。彼女はゴミ人間たちの女神になる。大陸の汕頭市のネットワークを攻撃するのだが、ちょうど台風が到来したときに行うなど、状況設定もなかなか叙情的。

最後は米米の価値を理解したテラグリーン社のスコットと開宗による米米の取り合いになる。米米はもともとの人格と草薙素子化した人格に分裂しており、もともとの人格は草薙素子的人格の攻撃的なもくろみを恐れ、開宗に自分を殺してくれと頼む。開宗のはなった電磁パルスにより脳内の金属が反応し脳がやられて米米は低知能の状態になる。

だが、草薙素子化した米米の方は衛星軌道のサーバに自分の人格をアップロードして、逃げ延びている。そして、海上を漂うゴミがなぜか集まって構造物を作り始めるという、なんだかラヴクラフト風な不穏な状況で話は終わる。いかにも続編がありそうな終わり方。

という内容なんですが、なんか既視感があるでしょ? 日本のアニメを見慣れた目には、なにかわざわざ読むほどでもないな、という気もしますが、ここに中国的なテイストが絡むとけっこういけるところが不思議。同じようなネタでも、場所や文化を変えると、価値を持つことがあるということで、文化のローカル性はまだまだ使えますね。(笑)

マッドサイエンティストの役割を果たすのが日本人の鈴木晴川(せいせん)という日本の女性科学者。第2次世界大戦で恋人が戦死して、その後アメリカに渡って極秘の研究をするということになっているんですが、こんな設定を盛り込んでしまうところも、なにか古典的な印象を与えます。(そもそもこのエピソード、必要なんでしょうか? 中国人には、いかにも、という印象を与えるのかも)。

三体の場合と同じく、ケン・リュウの英訳版と中国版からのハイブリット翻訳。ケン・リュウが中国SFに果たしている役割は偉大だなあ。英訳されていない中国のコンテンツにはどんな宝が眠っているんでしょうか。

★★★☆☆

 


荒潮 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

 

新型コロナウイルスの影響をどう見るか

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新型コロナウイルスの影響で、世界経済はなんだかめちゃくちゃで、株式市場も下がってる。こうなると、悲観する人もいれば、チャンスと思う人も出てくる。

会社に出入りしている保険のおばちゃんがわしの顔を見ると「買ってますか?」と聞いてきた。

この人、わしにいろんな保険の形をした資金運用プランを勧めて来るが、とても買う気にならない商品ばかりで、いつもそれをけなしていた。けど、そのうちわしが投資関係に詳しいとわかってきて、なにかあると話しかけてくるようになったのだ。

といっても、何年か前に外貨運用年金プランの商品を「これは詐欺レベル」と言ったら怒って、その後あまり話しかけてこなくなったのだが(笑)。(この商品、非常に苦情が多いそうですね。やっぱり)。

しかしさすがにコロナの影響が深刻なので、意見が聞きたくなったらしい。

「少しずつ買ってるよ」と言ったら、「わたしも買おうと思ってるんです。もう銘柄も決めて、お金も振り込んでいるんです。もう指示を出すだけ」との答え。

「それは素晴らしい」と褒めてあげました。(笑)

聞くと、こういう金融業界の仕事をしていると個別銘柄では買えないそうで、なにやら特殊な買い方をしなくてはいけないらしい。詳しくは教えてくれなかったけど、投信かETFなんでしょうかね。それとも市場に連動した保険商品なのかしら。

さて、株式市場はコロナウイルスにかこつけて下がっているけど、市場はどうももともと下がりたがっていたような気がしてしょうがない。だからコロナウイルスがなくても下がったんじゃないかな。去年2019年の2月に、はやり理由も分からずに、大幅に下げた時のように。

チャートを見ていても、手持ちの多くの銘柄は下がるべき水準まで下がってるだけで、崩れているような印象はない。

なので、買い増し時と考えて、少しずつ買ってます。少しずつなのは、いつが底なのかそのタイミングが分からないから。タイミングを誤りなくとらえられるほど、こちらは優秀じゃない。保険のおばちゃんは、まだまだ下がると言ってましたけどね。

家族も同じことを考えるようで、妻が「JR東日本を買おうと思ってるんだけど」というので、買いなさい、と答えました。でも、ANAとかJALの方がいいかも。

子供は世界的なパンデミックの様相に興奮して、2月初めに「感染者10万人超えるかな」というので「超えない」と即答したら、じゃあ賭けをしようとなって、負けた方がステーキをおごるということになりましたが、8万人を超えてすでに負けそうです。(苦笑)

業績不振で大幅に株価が下がっているペッパーフードサービスでも買って、優待券でいきなりステーキを食べに行きますかね。

なんか、わしの周りにはこんなのばっかで、コロナウイルス騒動もエンターテイメント化してます。

コロナ自体は、確かに正体不明でぶきみな感じがするけど、所詮は一過性の事件だと思ってます。しかし、コロナはきっかけで、本当は本格的な下げの開始なのかもしれない。その辺は分からない。日本はリセッション入り確定ですしね。

もう少し様子をみてみないと。

これが良いあく抜けになればいいんだけどなあ。

 

中国の大プロパガンダ 恐るべき「大外宣」の実態

何清漣(かせいれん) 訳・福島香織 芙蓉社 2019.10.30
読書日:2020.2.22

中国が金にものを言わせて、マスコミを通じて外国に対して大がかりな宣伝活動を繰り広げている実態を告発した本。台湾で出版されたものを、中国関係のスター記者である福島香織が翻訳した。

もともと中国共産党は宣伝に力を入れていたが、経済大国になるにつれて外国に対して大々的な宣伝を繰り広げた。ちょうどインターネットの発達でマスコミが苦境に陥っている状況なので、経営不振に陥ったマスコミを買収し、リストラにあった記者を雇って記事を書かせ、ラジオ放送を垂れ流しているようだ。

でも、欧米に対してはほとんどなんの役にも立っていないようだ。なぜなら見るとすぐに中国共産党の宣伝でしかないことが分かり、記事も別段面白くもなんともないから。ほとんどの中国傘下のマスコミは赤字で、中国政府の補助なしにはやっていけない状況で、モールなんかで無料で配っているそうです。(どれだけの人が手に取るのか疑問ですが)

唯一の例外は日本で、「人民中国」という雑誌が1万数千部が有料で購読され、黒字なんだそうだ。元朝日新聞(やっぱりなあ)の横堀克己という人物が日本人向けに編集を担当しているんだそうだ。読者もきっと朝日新聞を購読している人と被っているのだろう。おそらくけっこう高齢の方なんじゃないかと思う。読者の高齢化と朝日新聞の権威失墜の影響で、この雑誌も遠からず赤字に転落するのではないかと予想する。

欧米に対してはあまり効果がないとしても、自分たちのテリトリーと信じている香港、台湾に対してはもっと大々的に干渉している。

苛烈な対策が取られたのは一国二制度の香港で、いまでは香港のマスコミで自主独立なマスコミは無くなってしまったという。香港で機能しているのは、個人がインターネットで行っているSNSであり、マスコミは全く機能していない。このことはこの本が出版されているときに起こった、2019年末の香港の大規模なデモを見ても明らかだ。

成都で譚作人(たんさくじん)というひとが石油プラントの反対活動をしていたが、国家転覆罪で逮捕された。支援者が彼の無罪を証明するために、譚作人を取材していた香港の記者にインタビューを求めたが、拒否されたという。なぜなら、ここで中国政府の機嫌を損ねると、譚作人の裁判の取材ができなくなるからという。もはや、香港のマスコミには人権を守るとかそういうジャーナリストの正義の心はないのである。

台湾に関しても、中国はマスコミの買収をおこない、干渉を試みた。2010年代の前半では、反中国の本を出版するのも厳しかったようだ。本書のもととなった文書は2011年に書かれたが、出版されなかったそうだ。その後、台湾の政治、マスコミは中国に対する自主性を取り戻し、本書も2018年に出版された。

中国の外部に向けた大宣伝はほぼ失敗した。しかし、もう一つの目的である欧米からの情報の取得、つまりスパイ活動には大きな成果を収めており、具体的には科学・技術情報を大量に入手し(マスコミ経由よりも留学生経由の方が効果が大きいと思うが)、中国の経済発展に貢献している。

中国は自由主義陣営のシステムを利用しながら、自分たちはその発展に全く寄与せず、それどころかそれを破壊して自分が取って代わろうとしている。そろそろお仕置きが必要な時期だ。

問題は日本だ。韓国ほどではないが、経済のかなりを中国に依存していることもあり、強い態度に出ている欧米に対して緩衝材的な役割を果たして、中国に恩を売っておこうとしているように見える。実はわし的には、それもありか、という気もしており、必ずしも否定するものではないが、くれぐれも中国から適度な立ち位置を保ち、日本の独立性を十分確保してほしい。一方、朝日新聞は今後も権威を失墜し続けて、はやくただの不動産屋になっていただきたいなあ、と思う次第です。(朝日新聞はすでに本業よりも、賃貸の不動産業の方が利益が大きいらしい)。

で、この本を読むことをお勧めするかというと、細かいマスコミの買収の話が続いたりして、記録としてはいいが読むにはちょっと辛いので、読まなくてもいいと思います。(しかもすでに明らかに失敗している話だし)。

★★★☆☆

 


中国の大プロパガンダ

1兆ドルコーチ --シリコンバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え

エリック・シュミット ジョナサン・ローゼンバーグ アラン・イーグル 訳・櫻井祐子 ダイヤモンド社 2019.11.13
読書日:2020.2.17

個人投資家というのはだいたい個人プレー的で、人とうまくやっていけないと自覚していて、できれば会社をいつ辞めてもいいように経済的自由を得たいと思っている人が多いのではないだろうか。いや、つまり、わしがそうなんですけど。

ビル・キャンベルの教えはその真逆といってもいいほどの価値観でできている。そもそもビジネスの世界に入るまでは、アメリカンフットボールの世界にいたのだ。だから彼はアメリカンフットボールの、もっと言えばチームで勝ちを取りにいく世界の価値観にどっぷりと浸かっている人の発想をするのだ。で、会社というのはチームプレイなのだから、その教えはぴったりとあっているのである。

この本にはいろいろ書いてあるけれど、ようするにビルがやっているのは、いいチームを作る、それに尽きるのである。

まずチームの一員になるにはもちろん優秀でなければならないが、単純に頭のいい人なのではなく、学び続ける人かどうかを基準とする。どんなにそのとき頭が良くても、学び続ける人でなければ、たちまちチームはうまくいかなくなることを知っているからだ。ビルによれば、人が学ばないようになったことを知るのは簡単で、話しているときに質問よりも自分の意見を多く言うようになったら、その人は学ぶことをやめたんだそうだ。そしてビルがコーチングを行うのは、学び続ける人に限られるのである。

そしてビルはコーチングをすると決めたら、本人だけでなく本人を取り囲むすべての人と関わろうとする。具体的には家族や友人だ。したがって、付き合いはすぐに家族ぐるみになる。そしてその人を愛し、すべてを受け入れ、ビジネスで関わり合いがなくなってもずっと関係を保ち続けるのである。

ビルがいるチームの中では、常に隠し事はなしで、率直にもっとも大切な問題が話し合われ、なにかまずいことを察知すると、ビルはそのまずい部分をすぐに取り除いて、チームの状態を最高に保つ。

ビルにとってコミュニティを形成するのはほとんど病気のレベルに達していて、どんなときにも誰とでも友達になってしまい、その人を助けようとするのである。

信じられないことだが、アップルやグーグルといった巨大テック企業の経営陣のコーチを引き受けながら、ビルは報酬を受け取らなかった。無償なのだ。もちろん彼自身はすでにいくつもの会社を経営したお金持ちには違いないが、しかしこれだけの仕事をしながら無償というのは信じられない。チームを作ることが彼のライフワークで、まさしく病気レベルである。

もちろん、チームを作るのは勝つためであり、しかも単に勝つのではなく大きく勝つためだ。ビルはとても勝ちにこだわった。

正直に言って、わしにはチームで勝つことにそれだけの情熱を持つということの価値観がよく分からない。でも、この本を読んで元気が出るのは間違いない。チームで大きく勝ちたい人のためだけでなく、個人で小さく勝ちたいひとにも、いい本だ。

★★★★★

 


1兆ドルコーチ シリコンバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え

「あたまのゴミ」を捨てれば一瞬で脳が目覚める!

苫米地英人 コグニティブリサーチラボ 2014/4/14
読書日:2020.2.8

いや、なんといいましょうか、暇だったので手に取っただけで、中身は流し読みしてしまいました。もしかしたら、この本を読んで役に立つ人もいるのかもしれませんが、わし的には、とほほ本です。

情動はこうしてつくられる」で、脳が三層構造でできている(生命活動、情動を司る脳、理性の脳)と言われているのは、科学的にまったく何の根拠もないと聞いて、なるほどと思っているのですが、この本はいきなりその説明から始まりますからね。

まあ、科学的にどうのこうのというのはこの本ではあんまり意味がないのかもしれません。

ともかく、「頭のゴミ」というのはなんのことで、それを捨てると一瞬でどうなるかということを述べようとしても、そもそも著者の言う頭のゴミってやつがけっこうたくさんあるのです。ですから、そもそも捨てるまでに長い時間がかかり、一瞬というわけには絶対にいかないでしょう。感情のゴミ、他人のモノサシというゴミ、これまでの自分というゴミ、などいろいろあります。

で、こういうゴミをすてると、部分を理解するだけで全体が理解できるゲシュタルト能力というのが手に入るんですって。そうですか。

まったくなんの情報もなく本を手に取ると、こういうゴミ本にあたることもあるっていうことですかね。幸いにもこのごみは一瞬で捨てることが可能です。よかった。

苫米地さんですか、今後、あまりかかわらないようにしようと思います。

★☆☆☆☆

 


「頭のゴミ」を捨てれば、脳は一瞬で目覚める!

黄金州の殺人鬼 凶悪犯を追い詰めた執念の捜査録

ミッシェル・マクマナラ 訳・村井理子 亜紀書房 209/9/28
読書日:2020/2/14

未解決事件に取り込まれてしまった女性が、犠牲者50人以上というカリフォルニア州史上最悪のレイプ殺人犯を追い詰めようとするドキュメンタリー。残念なことに作者はこの本を完成させずに亡くなり、後半は夫と著者の仲間が引き継いでまとめた。発売するやベストセラーになり、しかもそれからしばらくして犯人が捕まるという劇的な展開で、映画も制作されるという。

もちろん、本書には以上のような内容が書かれているわけではあるが、それ以上にびっくりなのは、著者ミッシェルという存在そのものである。子供の頃に近所で未解決のレイプ殺人が起こり、未解決事件に引き込まれる。その後、一生を未解決事件の探索に費やした。

現代はインターネットの時代である。ミッシェルの武器はラップトップ・パソコンで、ネット上の細々としたデータを集めて犯人を追い詰めようとする。未解決事件のサイトを作り、仲間を集める。(これがミッシェルに負けず劣らずのマニアが何人もいて驚かされる)。引退した捜査官に接触し話を聞く。犯人が盗んだものをオークションサイトで見つけて購入する。極めつけは、膨大な捜査記録の読み込みで、はっきり言ってこれには驚いた。もしかしたらアメリカでは捜査記録が公開されているのか、と思ったのだが、実はミッシェルには“特別に”捜査記録の閲覧と貸出が認められたみたいなのだ。膨大な資料をデジタル化する話が載っている。まさしく作者の執念の賜物である。

こうして空いた時間のほぼ全てをパソコンの前で過ごし、犯人を追い詰めるのである。まさしく、ラップトップ・ディテクティブという言葉がふさわしい。現代はあらゆる種類のマニアがそのマニアぶりを存分に発揮できる時代なのだ。

執念で読み込んだ細々としたデータは、事件を再現するときの臨場感を劇的に高めており、無味乾燥の捜査記録から再現されたとはとても信じられないできである。

こうしてみると、人間、何に虜になるか分からない、と考え込んでしまう。しかし、なぜここまでしてのめり込んでしまうのだろうか。もうやめようと思わないのだろうか。

彼女の仲間がいみじくもこう言っている。この事件の虜になって数年絶つと、今までやってきたことが無駄だと認めることができなくなり、やめることができなくなってしまうのだという。これこそ、ビジネスでやってはいけないことと言われている、サンク・コストである。例えばある事業や研究に投資する。それも莫大な額を投資する。すると、大きなお金をかければかけるほど、それを中止しづらくなってしまう、という問題である。コストに応じて間違いを認められなくなる度合いが高くなるのだ。(なので、ビジネスでは大きな投資をする前に小さなコストで実験をすることが推奨される)。

個人の場合はそれはお金というよりも、時間である。時間はお金よりももっと価値が高いものであるが、しかし、人生の場合は、なにかにのめり込んだほうが幸せということも大いにあり得るから、この辺の判断はなかなか難しい。

主な事件が起きているのはサクラメントなのだが、ここに犯人がいると踏んだマニアの人たちは事件当時のサクラメントの住民1万人分のリストを作るというとんでもないことまでしているのだから、もう本当にマニアの執念というのは恐ろしいほどだ。

ミッシェルだけでなく、関わった警察の捜査官のかなりが、引退後も個人的にこの事件を追いかけていたというから、この犯人は本当に多くの人の人生を狂わせたのだ。

★★★★☆

 


黄金州の殺人鬼――凶悪犯を追いつめた執念の捜査録 (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズIII-9)

 

2030年アパレルの未来 日本企業が半分になる日

福田稔 東洋経済新報社 2019.7.4
読書日:2020.2.7

最近、服を買わない。買ってもユニクロぐらいで、高い服を買おうという意欲はまったくない。ユニクロの品質は素晴らしく、いま着ているフリースはいったい何年前に買ったものだろうと、考えてしまう。少なくとも5年以上前から着ていることは間違いない。10年くらい前かもしれない。しかもカジュアル化が進んでいる昨今、会社にユニクロで行ってもまったく問題ならないから、日常用と業務用の区別すらない。

という個人的な状況であるから、いまアパレルが縮小して最盛期の3分の2になってしまっていると聞いても、まったく驚かない。というよりも、日本のアパレルはけっこうしぶといなあと思った。というのは、これまでに消えていった産業がたくさんあるからだ。

代表的なものには、半導体産業がある。機動的な投資ができなかった日本企業は、不況期に果敢な投資を行なった韓国に負けてしまった。すでに日本にはDRAMを作る企業はひとつもない。

しかし、半導体を作るための材料や機械、検査装置などは日本は高いシェアを持っている。日本は最終製品ではなく、こうした資本財で稼ぐ体質に変わったわけだ。

それと同じことがアパレルでも起きていて、国内のブランドは日本市場の縮小に応じて危機に陥っているが、材料を提供する川上の中小企業には高い競争力を持つところがたくさんあるという。こうした企業は今後、グローバルに活躍する可能性が高いのだという。その例として、デニムなどの天然の藍染ジャパンブルーというのだという)を行う「45R」という企業があり、世界中から引っ張りだこなんだそうだ。

いっぽう服を売っているアパレルの方は危機であるが、まだ潰れていないのは、人が衣料を買わなくなることは絶対ないからだそうだ。衣・食・住という言葉があるように、絶対なくならない領域であり、しかもローカル性がある。メモリはサムスンから買ってもどこから買っても問題ないが、服はそれなりにローカル性があり、日本の消費者のほしいものを外国の企業が提供できないことが多いわけだ。

というか、そんなふうに生き延びられてしまうために、他の産業と同じ問題がゆっくりとアパレルに襲いかかっている印象だ。その問題は何かと言えば、具体的にはグローバル化とIT化である。

日本のアパレルブランドでグローバル化に成功しているところはほとんどないそうだ。

日本の人口は減っているけど世界の人口は増え続けているから、世界のアパレル産業は大いに成長しているのである。世界に乗り出さないと成長できないのは自明だが、できていない。著者によれば、日本のブランドをグローバル化することを考えるより、最初からグローバル展開のためのブランドを新たに作ったほうが早いという。

IT化については、製造工程と販売に関するところがある。

製造工程では、まずデザインが3Dで行わるのが海外では普通なんだそうだ。デザイナーがコンピュータで3Dでデザインすると、そのまま製造ができてしまう。普通、デザインの次はパタンナーという型紙をつくる工程があるが、これが要らなくなってしまう。パタンナーという職業がなくなってしまうのか、と考えるとちょっと気分が落ち込むが、コンピュータでできる仕事は今後すべて無くなってしまうのは世の常だ。

販売の方では、単純にネットで販売するというだけでなく(この分野ですら日本は遅れているみたいだけど)、たくさんのデザインを発表して、その売れ行きに合わせて生産量を機動的に変えるみたいな、ビジネスモデルレベルからITを駆使するように世界ではすでになっていて、日本はもちろんこうした流れにはまったくついていけていない。AIを有効活用するというのも夢のまた夢のようだ。

で、日本のアパレルに未来はないかというと、そんなことはなくて、裏原宿の文化は世界中の憧れだという。日本のアニメは世界的に高い競争力を持っているが、それと同じことがここでも起こっているのである。つまり独自性を持ったブランドしか生き残れないのである。

それで直近の未来に何が起こるかというと、競争がさらに激しくなり、日本市場での衣料品価格のさらなる低価格化ということが起こるらしい。それは20年代の前半に起こり、アパレルの未来は、こうして潰しあった先にしか開けないようだ。

産業としてのアパレルはそんな状況だけど、ファッション大好き人間にとっては、活躍できる場が増えることは間違いないので、別に悲観することもなく、どんどん突き進んでもらえばいいのではないかな。面倒なことはコンピュータ、AIがやってくれるから。これも他の産業と同じことが言えることで、結局尖った個人が勝つ世界になるのだろう。

★★★☆☆


2030年アパレルの未来: 日本企業が半分になる日

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