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個人投資家目線の読書録

三体

劉慈欣、訳:大森望、光吉さくら、ワン・チャイ、監修:立原透耶、早川書房、2019.7.15
読書日:2019.12.9

(ネタばれあり。注意)

SFは年に1,2冊しか読まないと言ったばかりなのに、なめらかな世界とその敵、に続いて、今月2冊目のSFである。でも、アジア人初の米ヒューゴー賞という鳴り物入りで話題沸騰の作品なのだから、これはちょっと別格、ということで。

読んでみて、これは、うーん、、、の世界だった。いちおうファースト・コンタクトものに分類されるのかもしれないが、でも、ちょっと強引?というところもあり、なかなか難しい。少なくとも似たような話は読んだことがない、という意味ではとても新しい。(といっても、わしの読んだ範囲は狭いことをお断りしておきます)。

まだ三部作の第1部、異星人との接触編にあたるわけだが、実のところ、異星人はまだ地球に到着していない。というか、到着は450年後に設定されているのである。これじゃあ、三部作が終わったときに、異星人が実際に出現するのかどうかも分からない。では、ここでは何が語られているかというと、主に地球人側の反応なのである。つまり、よくある人間の本当の敵は人間自身というやつだ。

最初に異星人に接触するのが、葉文潔(イエ・ウェンジエ)という女性天文物理学者なのだが、彼女は中国の文化大革命の犠牲者で、父親を目の前で殺され、自分も迫害されて地方の僻地にとばされてしまったような人物だ。このような過去を持つから、彼女は人間の文明に幻滅していて、人類は自力ではその文明を矯正できないと思っている。だから、強力な超文明を持つ異星人の存在を知った時に、その超文明の力で人類を征服してもらおうと、自ら異星人を地球に招き寄せるのである。

さて、異星人の到着は450年後なのだが、実はすでに地球人は異星人がどのような感じなのかを体験できる。ここがこの小説のアイディアの秀逸なところで、この小説の主人公になる汪淼(ワン・ミャオ)がはまるヴァーチャル・ゲーム、「三体」がそれだ。このゲームは、葉文潔(イエ・ウェンジエ)が作った「科学フロンティア」という組織のプロパガンダ・ゲームであり、このゲームをすることで、三体人のことが分かるようになっているのだ。(なお、科学フロンティアは、このゲームを自分たちに共鳴する優秀な人物をスカウトする場にも使っている)。

このゲームによれば、三体人の住んでいる世界は、太陽が3つある世界である。天体が3つあると、その軌道は正確には計算できず(三体問題)、複雑なものになる。その3つの太陽の軌道は極端で、それによりその世界は灼熱の世界になったり、極寒の世界になったりして、生命が存続できなくなる。こうして三体世界の文明は簡単に滅びてしまう。三体人は「脱水」といって、すべての水分を身体から抜き取り、ぺらぺらの紙のような状態になって、厳しい時代をやり過ごす。こんな感じなので、その文明の歩みはとても遅い。

そういうわけで、地球のことを学んだ三体人が恐れているのは、地球の科学の進歩が加速度的に進んでいることで、450年後に地球に到着したときに自分たちの超文明を超えてしまうのではないかと恐れているのだ。そのため、三体人は超絶的な科学技術を使って、地球に干渉しようとする。その目的は、科学者に研究を止めるように脅迫することと、一般人に科学に対する憎しみを増すようにすることだ。

汪淼(ワン・ミャオ)はナノ・マテリアル材料の専門家で、彼の目的は宇宙エレベータの材料になる耐久力のある繊維を作ることだ。そこで三体人に狙われて、ゴースト・カウントダウン(ほかの人には見えない1200時間のカウントダウンが自分だけに見える)という現象を体験し、恐怖にかられる。このシーンは優秀なホラーを読んでるみたいだ。そして科学フロンティアのメンバーに、ナノ・マテリアルの研究を止めるように忠告される。こうして彼は、三体問題に絡むようになる。

この第1部では、ようやく人類が科学フロンティアと三体人のやろうとしていることに気が付いて、反撃を開始したところで終わっている。葉文潔(イエ・ウェンジエ)も逮捕されたが、今後どうなるか。きっと予測のつかない展開が待っているでしょう。

ところで、作者はかわいい美少女にトラウマかなにかあるんでしょうか。美少女が出てくると無残に殺されたり、自殺したり、逆に美少女が誰かを無慈悲に殺したりしてるようです。アニメの見すぎなんじゃないでしょうか。

ついでに言うと、三体人の社会も人間とほとんど変わらないようです。人間と全く違ってもきっと理解できないので、しょうがないのですが。

<三体に出てくる超絶科学技術(笑)>
三体に出てくる科学技術はそれらしい用語とともに、かなりむちゃくちゃなものも混じっています。そのイメージはいちいち具体的で、これだけイメージできるのは、作者の特殊能力かと。

(1)Vスーツ
これを着ることで、超絶的なバーチャルリアリティを身体全体で味わえる。(まあ、これはありえそう)

(2)恒星をつかった超絶的恒星間通信
葉文潔(イエ・ウェンジエ)は恒星の構造を研究していて、恒星の表面では電波を数億倍に増幅して反射することを発見した。これにより太陽を介することで、数光年先でもとらえられる強力パワーの電波を放出し、三体人と連絡を取れるようになった。どうやら恒星に当たった電波は増幅されて360度全方向に反射されるらしい。ほんまかいな。本当ならノーベル賞ものの大発見なのだが。

(3)脱水
三体人が環境変化に耐えられなくなったときに、緊急避難的にドライフードみたいになって冬眠状態になること。まあ、これは、そうなんですね、としか言えません。設定なので。

(4)余剰次元を使った粒子による人類監視システム(智子、ソフォン)
時空間は11次元で構成されているが、ほとんどの次元は小さく丸まっている。だが、三体人は余剰次元を広げることで、小さな粒子を惑星を包み込むような広大な2次元の球面にし、そこにコンピュータ回路のようなもの(たぶん)を書き込むことができるのだ(智子、ソフォン)。知性を持った粒子は、真空エネルギー(!)で加速する方法で地球に送り込まれ、ゴーストカウントダウンや宇宙背景輻射のウインクのような、あり得ない超絶現象を引き起こし、科学者たちをパニックに陥れるのである。(しかも、三体人のところにある別の粒子と量子もつれをおこしているので、遠隔操作が可能らしい。よく分からんが)。
。。。。もう、唖然とするしかない設定です。芸が細かいと思うのは、小さな粒子だと電磁波と相互作用ができないので、ソフォンは2個1組の設定になっていて、2個が適当な距離をとることでアンテナの役割をして電子回路や光学現象に干渉しているようになっていることです。設定、細かい。

ほかにも3K眼鏡とかいろいろあったような気がするが、忘れた。ナノマテリアルのワイヤーカッターとかは素晴らしい表現力で、よかったです。でも、パナマ運河で中国がワイヤーカッターで船を切り刻むようなことしたら、大問題になるでしょうが(笑)。

なんかこうやって書いてると、おバカSFに見えるかもしれませんが、まあ、半分はおバカで当たってるんじゃないかと思います(苦笑)。でもいたって大真面目ですので、第2部を待ちましょう。

きっと第1部を上回る大変な超絶テクノロジーがバンバン出てくるんじゃないでしょうか。

(2020.3.8追記)

パナマ運河のところで、太平洋側から太陽が昇る(つまり太平洋側が東)という記載があって、間違っているのではないかという指摘があるみたいですが、パナマ地峡はくびれていて、そこに運河を作ったので、東が太平洋側で西が大西洋側ということで合っています。念のため。

 

★★★★☆(減点は1はおバカすぎるから)

 


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