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黄金州の殺人鬼 凶悪犯を追い詰めた執念の捜査録

ミッシェル・マクマナラ 訳・村井理子 亜紀書房 209/9/28
読書日:2020/2/14

未解決事件に取り込まれてしまった女性が、犠牲者50人以上というカリフォルニア州史上最悪のレイプ殺人犯を追い詰めようとするドキュメンタリー。残念なことに作者はこの本を完成させずに亡くなり、後半は夫と著者の仲間が引き継いでまとめた。発売するやベストセラーになり、しかもそれからしばらくして犯人が捕まるという劇的な展開で、映画も制作されるという。

もちろん、本書には以上のような内容が書かれているわけではあるが、それ以上にびっくりなのは、著者ミッシェルという存在そのものである。子供の頃に近所で未解決のレイプ殺人が起こり、未解決事件に引き込まれる。その後、一生を未解決事件の探索に費やした。

現代はインターネットの時代である。ミッシェルの武器はラップトップ・パソコンで、ネット上の細々としたデータを集めて犯人を追い詰めようとする。未解決事件のサイトを作り、仲間を集める。(これがミッシェルに負けず劣らずのマニアが何人もいて驚かされる)。引退した捜査官に接触し話を聞く。犯人が盗んだものをオークションサイトで見つけて購入する。極めつけは、膨大な捜査記録の読み込みで、はっきり言ってこれには驚いた。もしかしたらアメリカでは捜査記録が公開されているのか、と思ったのだが、実はミッシェルには“特別に”捜査記録の閲覧と貸出が認められたみたいなのだ。膨大な資料をデジタル化する話が載っている。まさしく作者の執念の賜物である。

こうして空いた時間のほぼ全てをパソコンの前で過ごし、犯人を追い詰めるのである。まさしく、ラップトップ・ディテクティブという言葉がふさわしい。現代はあらゆる種類のマニアがそのマニアぶりを存分に発揮できる時代なのだ。

執念で読み込んだ細々としたデータは、事件を再現するときの臨場感を劇的に高めており、無味乾燥の捜査記録から再現されたとはとても信じられないできである。

こうしてみると、人間、何に虜になるか分からない、と考え込んでしまう。しかし、なぜここまでしてのめり込んでしまうのだろうか。もうやめようと思わないのだろうか。

彼女の仲間がいみじくもこう言っている。この事件の虜になって数年絶つと、今までやってきたことが無駄だと認めることができなくなり、やめることができなくなってしまうのだという。これこそ、ビジネスでやってはいけないことと言われている、サンク・コストである。例えばある事業や研究に投資する。それも莫大な額を投資する。すると、大きなお金をかければかけるほど、それを中止しづらくなってしまう、という問題である。コストに応じて間違いを認められなくなる度合いが高くなるのだ。(なので、ビジネスでは大きな投資をする前に小さなコストで実験をすることが推奨される)。

個人の場合はそれはお金というよりも、時間である。時間はお金よりももっと価値が高いものであるが、しかし、人生の場合は、なにかにのめり込んだほうが幸せということも大いにあり得るから、この辺の判断はなかなか難しい。

主な事件が起きているのはサクラメントなのだが、ここに犯人がいると踏んだマニアの人たちは事件当時のサクラメントの住民1万人分のリストを作るというとんでもないことまでしているのだから、もう本当にマニアの執念というのは恐ろしいほどだ。

ミッシェルだけでなく、関わった警察の捜査官のかなりが、引退後も個人的にこの事件を追いかけていたというから、この犯人は本当に多くの人の人生を狂わせたのだ。

★★★★☆

 


黄金州の殺人鬼――凶悪犯を追いつめた執念の捜査録 (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズIII-9)

 

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