福田稔 東洋経済新報社 2019.7.4
読書日:2020.2.7
最近、服を買わない。買ってもユニクロぐらいで、高い服を買おうという意欲はまったくない。ユニクロの品質は素晴らしく、いま着ているフリースはいったい何年前に買ったものだろうと、考えてしまう。少なくとも5年以上前から着ていることは間違いない。10年くらい前かもしれない。しかもカジュアル化が進んでいる昨今、会社にユニクロで行ってもまったく問題ならないから、日常用と業務用の区別すらない。
という個人的な状況であるから、いまアパレルが縮小して最盛期の3分の2になってしまっていると聞いても、まったく驚かない。というよりも、日本のアパレルはけっこうしぶといなあと思った。というのは、これまでに消えていった産業がたくさんあるからだ。
代表的なものには、半導体産業がある。機動的な投資ができなかった日本企業は、不況期に果敢な投資を行なった韓国に負けてしまった。すでに日本にはDRAMを作る企業はひとつもない。
しかし、半導体を作るための材料や機械、検査装置などは日本は高いシェアを持っている。日本は最終製品ではなく、こうした資本財で稼ぐ体質に変わったわけだ。
それと同じことがアパレルでも起きていて、国内のブランドは日本市場の縮小に応じて危機に陥っているが、材料を提供する川上の中小企業には高い競争力を持つところがたくさんあるという。こうした企業は今後、グローバルに活躍する可能性が高いのだという。その例として、デニムなどの天然の藍染(ジャパンブルーというのだという)を行う「45R」という企業があり、世界中から引っ張りだこなんだそうだ。
いっぽう服を売っているアパレルの方は危機であるが、まだ潰れていないのは、人が衣料を買わなくなることは絶対ないからだそうだ。衣・食・住という言葉があるように、絶対なくならない領域であり、しかもローカル性がある。メモリはサムスンから買ってもどこから買っても問題ないが、服はそれなりにローカル性があり、日本の消費者のほしいものを外国の企業が提供できないことが多いわけだ。
というか、そんなふうに生き延びられてしまうために、他の産業と同じ問題がゆっくりとアパレルに襲いかかっている印象だ。その問題は何かと言えば、具体的にはグローバル化とIT化である。
日本のアパレルブランドでグローバル化に成功しているところはほとんどないそうだ。
日本の人口は減っているけど世界の人口は増え続けているから、世界のアパレル産業は大いに成長しているのである。世界に乗り出さないと成長できないのは自明だが、できていない。著者によれば、日本のブランドをグローバル化することを考えるより、最初からグローバル展開のためのブランドを新たに作ったほうが早いという。
IT化については、製造工程と販売に関するところがある。
製造工程では、まずデザインが3Dで行わるのが海外では普通なんだそうだ。デザイナーがコンピュータで3Dでデザインすると、そのまま製造ができてしまう。普通、デザインの次はパタンナーという型紙をつくる工程があるが、これが要らなくなってしまう。パタンナーという職業がなくなってしまうのか、と考えるとちょっと気分が落ち込むが、コンピュータでできる仕事は今後すべて無くなってしまうのは世の常だ。
販売の方では、単純にネットで販売するというだけでなく(この分野ですら日本は遅れているみたいだけど)、たくさんのデザインを発表して、その売れ行きに合わせて生産量を機動的に変えるみたいな、ビジネスモデルレベルからITを駆使するように世界ではすでになっていて、日本はもちろんこうした流れにはまったくついていけていない。AIを有効活用するというのも夢のまた夢のようだ。
で、日本のアパレルに未来はないかというと、そんなことはなくて、裏原宿の文化は世界中の憧れだという。日本のアニメは世界的に高い競争力を持っているが、それと同じことがここでも起こっているのである。つまり独自性を持ったブランドしか生き残れないのである。
それで直近の未来に何が起こるかというと、競争がさらに激しくなり、日本市場での衣料品価格のさらなる低価格化ということが起こるらしい。それは20年代の前半に起こり、アパレルの未来は、こうして潰しあった先にしか開けないようだ。
産業としてのアパレルはそんな状況だけど、ファッション大好き人間にとっては、活躍できる場が増えることは間違いないので、別に悲観することもなく、どんどん突き進んでもらえばいいのではないかな。面倒なことはコンピュータ、AIがやってくれるから。これも他の産業と同じことが言えることで、結局尖った個人が勝つ世界になるのだろう。
★★★☆☆