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個人投資家目線の読書録

日本人の勝算 人口減少✕高齢化✕資本主義

デービッド・アトキンソン 東洋経済新報社 2019.1.24
読書日:2021.5.2

日本に在住30年の元金融マンで現在会社社長のアトキンソンが、日本が今後それなりの存在感のある国家を維持するには、経済の生産性をあげて経済成長するしかなく、そのためには最低賃金を上げていくのがもっともよいと主張する本。

日本が30年に及ぶ低迷を続けていることは間違いなく、それに人口の問題が関わっていることは、誰もが分かっていることである。

この低迷を脱するために、日本は金融政策に頼った。つまり日銀が異次元の金融緩和を行い、インフレ率を2%以上に人為的に高めようとしたのである。効果がなかったとは言えないが、しかし事実上この政策はものの見事に失敗した。世界経済史に残る歴史的な失敗と言ってもいいだろう。(だから、歴史的には意味があったとも言える)。

この失敗ではっきりしたのは、インフレとは需要が供給を上回るために起こる現象であり、お金を増えすぎてお金の価値が下がるという貨幣的な現象ではなかったということである。

(ただしこれには異論がある。増えたお金は日銀の口座で増えただけで、国民には渡っていない。だからお金を直接国民に強制的に渡すぐらいのことをすれば、需要が増えてインフレが起きたという意見もある。)

なぜ、需要が喚起されなかったのかということについては、よく言われるのは、日本の人口が減っているというものだ。人口が減れば、その分だけ需要が減るのは当たり前だからだ。もちろんアトキンソンの説明もそれに沿っている。そして、減った需要を巡ってが企業間で血みどろの闘いが展開するから、デフレが進行する。こうした中で、企業が利益を確保しようとすれば、給与を下げるのがもっとも効率がいいから、ますます国民に渡るお金が減っていくという悪循環が起こる。

需要が減るといいうこととGDPが減っていくことは同じことだ。こうしてGDPが減っていくと、高齢化が進む日本の社会保障費が賄えなくなり、日本は破綻の危機を迎えるという。

そういうわけで日本は経済成長を目指す以外に道はないのだが、経済成長をするためには、2つの道があるという。ひとつは人口が増加する効果で、もうひとつは生産性が上がる効果だ。アメリカは経済成長のかなりが人口の増加によるものだから、日本と異なる社会であり、アメリカを見て政策を決めてはいけないという。どちらかというと、日本はヨーロッパのほうが参考になるという。

そこで参考になるのは、イギリスなどの最低賃金を上げていく政策だ。イギリスは、なんと93年に最低賃金制度を一度廃止したんだそうだ。99年にブレア政権の時代に復活したという。なので、最低賃金がある場合とない場合で比較が可能になる。では、最低賃金を新たに設けて毎年上げていくという政策をとると何が起こったのか。

この時代、世界中で富の格差が広がっていった。ところがイギリスだけは格差が減少したのだ。そして企業は給料を多く払わなくてはいけなくなったから、生産性を上げる方向に舵を切り、実際に生産性が上がったのだそうだ。

わしがこれを読んでいて、気になったのは韓国の経験だ。韓国ではムンジェイン政権が最低賃金を上げた結果、若年層の失業率が上昇したという事実がある。これはどのように捉えればいいのだろうか。

もちろんアトキンソンも韓国の状況は調べている。それによると、最低賃金を上げるときに、上げすぎると失業率が増えるという。この上げ率に関しては、イギリスが事前にシミュレーションを行っており、上げ率が15%がベストで20%を越えると、失業率が増えるという結果になったそうだ。そこで上げるときも最大で10%程度、普通は5%程度を毎年上げているのだという。つまり、あるしきい値を越えると、失業率が上がるのだ。韓国では2018年に16%と大幅に上げていて、このときすでに最低賃金はかなり高く設定されていたから、しきい値を越えてしまい、失業率が上昇したということらしい。

日本の最低賃金はどうなっているのか。

日本もじつは最低賃金は最近上がる方向だ。しかし、3%程度であり、しかも県によって最低賃金がばらばらだ。この結果、給料の高い首都圏への人口流出が続いており、地方にとっていいことはまったくないという。アトキンソンは全国一律の最低賃金を設定し、毎年5%程度を上げていくことを提案している。

日本の最低賃金制度で、他の国とは大きく違うところが、外国では経済政策として決定しているのに対して、日本では厚生労働省が決めていることだという。その基準は、最低の文化的な生活を国民に保証するという憲法に記載された観点から決めており、経済成長を促すという発想がまったくないのだという。たしかにこの仕組みでは、デフレで消費者物価が下がると、逆に下げることすらありえる。確かにこれはあまり良くない。なんとか最低賃金制度を社会保障政策ではなく、経済政策に格上げしなくてはいけない。

ところで、生産性をあげようというモチベーションは、最低賃金を上げればいいとしても、実際に生産性をあげるにはどうしたらいいのだろうか。

アトキンソンの回答は、輸出の振興だ。

日本は見かけと違って輸出国ではなく内需大国で、輸出はGDPの15%ほどしかない。これをドイツの40%程度に上げれば、生産性は高まる。

この成功例は、日本の観光産業だ。外国人が日本にやってきてお金を使うことは輸出と同じことだからだ。日本の観光産業は、主にアジアからの観光客の誘致に成功して、すでに2018年に3000万人を越える観光客を呼び込んでいる。

ところで日本で生産性が低いのはサービス業だ。一般にサービス業は輸出が難しいと言われている。観光産業もサービス業だが、これは外国人に来てもらえばいい。でもその他のサービス業はそもそも輸出可能なんだろうか。この辺についてはアトキンソンは明確な答えを示してくれていないのが不満だ。

わしなりに少し考えると、例えば医療は輸出可能かもしれない。外国で病院を経営するということもありえるし、日本に病人を呼ぶということもあり得るだろう。しかしサービス業のうち、大きな割合を占めている福祉関係はどうだろうか。高齢者の施設運営は輸出可能だろうか。ありえない話ではないが、ちょっとイメージしづらい。しかし不可能ではない気もする。

しかし、それ以外では、かなりのサービス業は輸出可能かもしれない。その中でも、デジタル化が可能な分野は輸出が可能だろう。たとえばデザインとか。

これまで、日本語という特殊な言語環境やデジタルが苦手という国民性が日本のサービス業に不利に作用していた。しかし、AIの発展により、言葉の壁はすでに問題ではなくなっており、デジタルも普通のひとにそうとう扱いやすくなっていると思う。いままで日本に不利だったデジタルの情報環境が今後は日本に有利に展開するんじゃないだろうか。

わしはこれに加えて、投資もあり得ると思う。多くのひとが年金で実践しているような、世界経済全体への投資だ。わしは、日本は世界経済への投資によって生き延びる可能性が高まると信じているので、一般の国民も含めて、どんどん世界経済に投資する投資信託を購入すべきだと信じている。ともかく日本でもっとも余っている資本は、資本そのもの、つまりお金でしょうからね。

そんなわけで、まだいろいろやりようがあるから、わしは日本の未来に楽観はしていないけど、それほど悲観もしていないのです。

★★★★☆


日本人の勝算―人口減少×高齢化×資本主義

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