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2030年 ジャック・アタリの未来予測 不確実な世の中をサバイブせよ!

ジャック・アタリ 訳・林昌宏 プレジデント社 2017.8.15
読書日:2021.1.6

フランスのジャック・アタリが、このまま何もしないと2030年までに起きることを予測し、読者に立ち上がることを求める本。

ジャック・アタリの本は実は初めて読んだ。日本に住んでいると、米英の本が中心になりフランス系の本はなかなか手に取らないのが現状だ。しかし、ジャック・アタリは当たりだった。

この本は4章でできている。第1章は現在起きているもろもろの事象を述べる章、第2章は現在起きていることの解説、第3章は2030年に起きることをポジティブな場合と何もしなかった場合の2通りで述べている。第4章は最悪の事態を避けるために、我々がしなくてはいけないことを述べている。

第1章で述べていることは、端的に言うと、科学技術が順調に発展していること、グローバル経済により貧富の差が拡大していること、民主主義が後退していることを述べている。

第2章の解説は、たった20ページほどだが、この本の核心部分だ。ジャック・アタリは非常に明快に世界で何が起きているのかを説明する。

ジャック・アタリの理解では、現代のグローバル経済の問題は市場と法の支配の範囲が異なっていることが原因なのだ。具体的には、市場はグローバル化し世界中に広がっている。一方では、法律は各国ごとである。したがって、両者は一致しない。これの何が問題なのだろうか。

国民国家が誕生した時、民主主義と市場は持ちつ持たれつだった。つまりどちらもひとつの国の中にほぼ限定されていて、お互いが必要だった。このばあい市場は国民を豊かにしようとする。国民が豊かになればなるほど市場も発展し儲かるからだ。したがって、市場は国民が豊かになるように中産階級を育て、国民の自由を拡大させた。選挙権も普通選挙になったし、国も社会保障制度も充実させる方向だった。

ところがグローバル経済になると、市場は国民を豊かにしようとする動機がない。さらに市場は国を越えて法の支配を免れ、人権を守ったり、社会的権利に配慮する必要がない。こうして民主主義は衰退し、未来は悲惨なものになる。

つまり、第3章で述べられるように、民主主義がさらに後退し、貧富の差が拡大し、環境問題がさらに深刻化し、国家財政が破綻し、世界戦争が起きる。

こんな悲惨な未来を回避するためのジャック・アタリの処方箋は、もう一度市場と法の支配の範囲を一致させることなのだ。そうすれば、市場と民主主義は持ちつもたれつの状態になり、人々は豊かになり、人々の自由も拡大する。

一致させるには、もういちど国の経済を閉じるという保護主義の方向があり得る。実際にそう主張している人たちもいる。だがいまさらそんなことができるはずがない。そこで、ジャック・アタリの目指すのは、どこかの国だけを救うことではなく、法の支配を世界全体に広げ、世界をひとつの法の支配下に置こうという戦略なのである。非常に野心的と言える。

それがどんな政治形態なのかは分からないが、たぶん、EUのような世界政府を考えているのではないか? これまでも世界政府を構想する話はたくさんあったが、最近の経済状況を踏まえた、最新バージョンの話のように思える。

市場と法の支配を一致させないと人々が豊かになれないという主張は非常に鋭い。この点は、わしも同意できる。でもそんなことは可能なのだろうか。

第4章で、アタリはその方法について述べている。

ジャック・アタリはいくつかの段階が必要だと言っているが、意外にも、その第1段階は我々自身の考え方を変えることだという。皆の考え方が変わることによって本当に世の中が変わることがあり得るという。そして、その最初の一つが、死を不可避のものとして受け入れることだという。

ジャック・アタリは文明の性質は死をどのように意義づけるかで決まると考えている。死を意識することで自分が唯一無二であること、自分の人生をよりよくしようとすること、いまを最期だと思って生きること、などが理解でき、困難に出会っても平静さを失わず、俗物的な野心に無関心になれ、自分の人生は他人の幸福にかかっていることを理解でき、利他の精神で世界に尽くせるという。

我々の意識が変わった後の具体的な展開については、これはどうなんだということも書いてあるが、ジャック・アタリが未来を変えることができると信じていることは分かるし、こっちの方向だということはなんとなくわかる。

しかし日本人のわしは疑問に思わずにはいられない。なにしろ民主主義の価値観をまったくもっていない中国のような大国が隣に存在するのだ。本当に民主主義に基づいた法の支配を世界全体に広げることが可能なのだろうか。

わしは世界連邦的な発想には非常に悲観的だ。わしはせいぜい民主主義国の連携で市場ブロック化を行うことが、現実的な解になるような気がする。だって、無理でしょ、中国や(南北)朝鮮と同じ法の下で存在するだなんて。

ところで、アタリはこの本で繰り返しパンデミックの危険について述べており、コロナウイルスに苦しんでいる現在から見ると、2017年に出版された本書の先見性の高さに驚く。また、世界大戦に発展する軍事的なリスクについて、南シナ海東シナ海での軍事衝突を第1位にあげていて、日本をとりまく現実は非常に厳しい。

 

(付録:国際経済の政治的トリレンマについて)
ジャック・アタリ自身はこの本では述べていないが、国際経済の政治的トリレンマという考え方があり、アタリの考え方を理解する助けになる。それは次のような考え方だ。

政策担当者は国家主権、グローバル化、民主主義の2つを実行できるが、3つすべてを実行することはできない、というもので、Dani Rodrikが2000年に発表した考え方だ。

国家主権とグローバル化を両立させようとすると、国家は国民の意見と関係なく他国と条約を結び、グローバル化を進めることができる。国民の意見はお構いなしで、民主主義的ではない。これは「金の囚人服」と呼ばれる状態で、お金はもうかるが人々は自由ではない。いまの中国がこの状態であると言われる。

国家主権と民主主義を両立しようとすると、グローバル化が起こらず、ブロック経済的になる。かつてのブレトンウッズ体制は、民主主義国家の間でブロックを作り、資本移動を制限していためグローバル化は進まなかった。したがってブレトンウッズ体制がこの典型的な状態になる。わしが考えるのはこの方向で、現実的な対応なのではないか。

グローバル化と民主主義を両立させようとすると、国家主権を制限することになるので国家は自分の思うような政策を実行できなくなる。いまのEUがそのような状態だという。ジャック・アタリが目指すのがこの方向で、国家主権を抑え、その代わりとなる世界連邦を作ろうとしているのだろう。ものすごく野心的と言える。

なお、国際経済の政治的トリレンマは、まだ仮説にとどまっており、実証されたものではない。

★★★★☆

 


2030年ジャック・アタリの未来予測―不確実な世の中をサバイブせよ!

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