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未来の年表 業界大変化 瀬戸際の日本で起きること

河合雅司 講談社 2022.12.20
読書日:2023.12.26

日本では少子高齢化で人口が減るという状況なのに、それに対する備えができていないとし、実際に何が起きるのかをリアルに予想し、企業が進めるべき未来の戦略を提示した本。

2部構成になっていて、第1部では実際に人口減少で各業界に何が起きるのかを予想している。これが大変な力作で、各業界の統計や業界ごとの特色をあぶり出して、具体的に示してくれる。

例えば、人口減少で自動車産業で起きることといえば、すぐにドライバーの不足が思い浮かぶだろう。たしかにバスやタクシーの運輸関係ではすでに地方でドライバーの不足が声高に叫ばれている。しかし河合さんによれば、運転手不足の影響よりも整備士不足のほうが影響が大きいらしい。なぜなら数が少ない整備士が地域に一人もいなくなると、その地域は車生活の維持が難しくなるからだ。しかも整備士は一人前になるのに時間がかかるから、すぐに増やすわけには行かない。そして、自動車整備士になりたがる人は減り続けている。実に整備士学校への入学者は今現在ですでに2003年比で44%減だそうだ。整備士ゼロ地域が出てくるのはもう目の前である。

これは整備士だけでなくて、職人一般に言えるんだそうだ。たとえば、第一種電気工事士、配管技能士などが不足すると、クーラーを付けるのにも何週間待ち、何ヶ月待ちという事態になるという。

鉄道、電気、水道、新聞社、銀行も同様で、つまり需要が減るから無くなるのではなく、業界のインフラを維持する専門職の力がどんどん低下して、負のスパイラルに陥り消滅するのが地方の未来、というわけだ。

この本の最初に、各業種が成り立つのに何人の人口が必要かという表が載っている。この表で必要な人数が大きい業種ほど、早くなくなるということである。しかしながら、企業の対応は鈍いという。このままでは、何の準備もないままに人口減少の嵐に巻き込まれるという。

では、企業にはどのような対策が求められるのだろうか。

著者によれば、その基本は、量よりも質のビジネスモデルに転換し、戦略的に撤退、事業縮小を行い、生産性と独自性を高めて、海外市場に積極的に打って出て、高収益の企業となることである。このようにすれば、日本は人口が減少しても豊かな生活を守れるという。

この本を読んで、わしは、著者の心配は分かるが、これはなんとかなりそうだ、と思った。

ほとんどのことは、これまでの社会制度の延長では大変だ、というだけのことでないかという気がする。

まず技術の進歩でなんとかなりそうだというところは、急速に適用されるだろう。たとえば上記の自動車整備工がいなくなって大変という話は、整備が簡単になるEV化が進めば解決されるだろう。調整する部分がなくなって、ただ部品の交換だけで整備は済むようになる。日常の点検も車が自動的にやってくれるんじゃないかな。なので、おそらく素人でも対応可能になる。

次に働き方が大幅に変わるだろう。核家族を中心にした制度自体が見直されて、柔軟性を増していくだろう。例えば、パート年収の壁のようなバカげた制度は、ついに見直されるんじゃないだろうか。

資格のある人の生産性も上がるだろう。これまでは資格のある人がくだらない仕事もやらなくてはいけなくて、生産性が低くなっていた面もある。今後、医者は患者だけを見て他のことは一切しない、看護師も介護士も、資格の必要な仕事以外は一切しない。そしてそれ以外の誰でもできる仕事はどんどん一般の人がやる。例えば、医者はパソコンに診療内容を記入することすらやらない。入力専門の人を使えばいい。たぶん高齢者もこの一般人の仕事をたくさんやる。こうして社会全体の生産性は上がるだろう。

でもこういうのは、にっちもさっちも行かなくなり、切羽詰まらないとやっぱり直らない。

運転手が少なくなってタクシーが何時間待ちになって、どうにもならなくなって、初めてウーバーのような新しいサービスを導入するんじゃないかな。

そもそも人口減少で何が起きるかを正確に予測するのは無理である。なので、いくら準備しても、どんなところで落ち着くのかは、ある程度出たとこ勝負でやってみるしかない。地域的な特徴もあるだろうし、実際にどうなるかによって、試行錯誤の結果、なんとかなったりならなくなったりするんだろう。

たぶん、高齢者も仕事ができなくなるその日まで働かないと、日本は回っていかなくなる。事実上、死ぬまで現役である。これは悲惨なことだと思うかもしれないけど、もしかしたら幸福なことかもしれないよ。

★★★☆☆

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