ヘタレ投資家ヘタレイヤンの読書録

個人投資家目線の読書録

99パーセントのための社会契約 会社、国家、市民の未来

アレックス・ロス 訳・井田光江 早川書房 2023.4.20
読書日:2023.12.25

社会契約とは、企業、政府、市民の三者で社会にバランスをもたらすための約束であるが、いまほとんどの国でそのバランスが崩れており、2020年代の選択が重要になっていると主張する本。

この手の本はいまたくさん出版されている。しかし、たいていは企業、政府、市民(労働者)のそれぞれで断片的に語られていることが多い。ここで、社会契約という立場から三者のバランスを考え直すべきだ、という発想はあまりないと思う。しかも、議論は具体的でとても読みやすく、読んでいて飽きない。

簡単に内容を書いていくと次のようである。

1970年代から、企業は株主資本主義にあまりに偏りすぎているという。この結果、経営者と株主ばかりが儲かって、従業員や取引先、地域社会への他のステークホルダーへの配慮は全く欠けることになってしまった。

大きくなった企業に国家は乗っ取られるようになってしまった。国家は企業と富裕層の機嫌を取るようになり、彼らの税金を安くして、市民からの税金を高くして、市民へのサービスは低下している。

労働者を守るための労働組合は、かつて輝きを持っていたが、いまでは特定の産業の賃金のみに関与しており、民主主義や経営に関してはなんら口を挟まないし、変わっていく産業構造にも対応できておらず、組織率は下がり続けている。労働組合の長老たちは高い給料をもらっている。新しい時代に対応した新しい労働運動が必要だ。

このような傾向にさらに拍車をかけているのがグローバル化で、国際的な大企業は最も税率の低い国で税金を納め、さらにその税金もいろいろな仕掛けでディスカウントされている。グーグルが過去支払っていた税金はダブル・アイリッシュ&ダッチ・サンドイッチという手法で、税率は1%以下まで圧縮されたという。もちろんタックスヘイブンも使い放題だが、アメリカは自ら国内にそのようなタックスヘイブンを設けていて、税金を減らす試みに積極的に加担している。企業は利益を最大にするという義務があるから、合法的ならそれを使わないと株主から訴えられる。たとえ良心的な企業があったとしても、そうしなければならないのだ。

このような状況を改善するには、政治的な意思が必要になる、とロスはいう。手順は次のようだ。

まず、税金のかけ方の国際標準をつくる。たとえば「合算課税&定式配分」という方法をとれば利益移転のほとんどを無効化できる(完全ではないが)。これには発展途上国を含めた国際的な枠組みが必要になる。発展途上国タックスヘイブン等で多大な損害を受けているから話し合いに乗るインセンティブがある。

これにより、一般市民の税率は下がる。このシステムのいいところは、企業や富裕層の利益の透明性が確保されることだ。税金がきちんと支払われるようになれば、株主資本主義は淘汰され、ステークホルダー資本主義に変わっていくという。(なお、この部分はかなり著者の願望が入っていて、本当にそうなるのかいまいち説得力に欠ける)。

いま民主主義国家は権威主義国家からの厳しい挑戦を受けており、このような市民に優しい世界に変わっていかないと権威主義に負け、この先の世界の歴史に重大な影響を及ぼすという。

具体的に、ロスが理想としているのは、北欧諸国なんだそうだ。北欧社会は税金は高いけれど、国家の市民に対する庇護も大きいから失敗を恐れずに遠慮なく挑戦的になれて、しかも経営陣に労働者も入っていて全てのステークホルダーに配慮している国家なんだそうだ。(わし的には、北欧のやり方が成り立つのは、あの国家規模だからという気もするけど)。

まあ、つまり、18世紀に誕生した社会契約により国民国家+資本主義の世界が誕生したように、グローバル化した社会では新しい社会契約が必要だということだ。ここでロスは、世界政府を樹立しようとかではなくて、まずは税金のとり方の国際標準を作りからはじめましょう、というところがいい。EUも最初は経済統合から始まったように、まずは経済、しかも税金から出発しようというのは、なかなか現実的でよい発想のように思える。

もしもそんな国際標準ができれば、西欧諸国で商売をしようとする限り、中国なんかもこの税金のシステムに参加せざるを得なくなるよね。あの国に透明性は確保できるかな?

★★★★☆

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