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資本主義だけ残った 世界を制するシステムの未来

ブランコ・ミラノヴィッチ 訳・西川美樹 解説・梶谷懐 みすず書房 2021.6.16
読書日:2021.11.22

共産主義を含め、すべての経済システムは資本主義を目指していたと主張し、現在は米国を中心とした「リベラル能力資本主義」と中国を中心とした「政治的資本主義」の2つが存在し、異なる2つの資本主義がグローバル経済の中で融合していくという、資本主義の今後の経路を考察する本。

この本、250ページぐらいしかないのに、資本主義の歴史から、現在の状況、そして未来と非常にコンパクトに濃密に述べられており、しかも実証資料付きで、まったく驚くべき本だ。ミラノヴィッチは世界銀行などで活躍した経済学者らしいが(現在はニューヨーク大学)、こんなにまとめるのがうまい、頭のいい人がいるんだと感心した。

では、さっそくミラノヴィッチの主張を見ていこう。

ミラノヴィッチは、封建制の経済システムが次の新しいシステムに変わるときには、まずなんらかの方法で封建制のシステムが破壊されなければならない、という。そりゃそうだ。

通常は力を持った資本家が権力も持つようになり、国の形を変えていくということになっている。これを西側発展経路(WPD:the Western Path of Development)と呼んでいる。だがそれができたのは西欧社会だけだ。

封建制の力が強すぎる場合は、この発展経路をたどるのが難しい。この場合、別の経路で封建制が破壊されるとした。それが共産主義だったというのである。そして共産主義により封建制が破壊されたあとに、資本主義が発展したのがいまの中国やロシア、そして多くの発展途上国だったという。

つまりミラノヴィッチはすべての経済システムは資本主義を目指しているのであり、共産主義はその経路のひとつだったというのである。資本主義はオンリーワンで、代替のシステムはないと主張する。

まあ、ロシアや中国が共産主義にいまさら戻れるとも思えないので、今の時点から過去を振り返ると、そうだとも言える。なんか、言ったもの勝ち、みたいな感じだが。

そういうわけで、いま世界には、発展経路の異なった2つの資本主義がある。

ひとつはアメリカを中心とする「リベラル能力資本主義」だ。リベラル能力資本主義は1980年頃から始まっているとしている。それまでの資本主義とは異なる特徴を持ち、サンデルが「実力も運のうち」で述べているような社会である。

いっぽう、共産主義の経路をたどった資本主義は「政治的資本主義」とミラノヴィッチが呼んでいるもので、普通、新聞などでは「国家資本主義」と呼んでいることが多い。やはり1980年頃に鄧小平により導入された。

政治的というくらいだからルールは法律ではなく、人がルールとなる。法律はあるが、その適用は便宜的だ。このような場合、優秀なテクノクラートがいればその裁量により急速に経済発展させることが可能だ。そして、人の裁量に依存している以上、そこには腐敗がビルドインされているという。

腐敗があるのが当然のシステムになっているが、それが極限まで行くと国が破壊してしまうから、あるところでそれを摘発するということを繰り返す仕組みになっている。つまり定期的な浄化ができるかどうかにこのシステムの持続性がかかっている。しかしそれは非常に難しい。中国はいまのところ腐敗の制御をそれなりにできているようだが、他の国にこのシステムを移植するのは非常に困難だ。歯止めがなくなって、腐敗が極限にまで進む可能性が高い。

ではこの腐敗があるシステムを、なぜ国民が許容しているかというと、経済が成長している限りその恩恵を受けられるからだ。恩恵があるうちはある程度の腐敗は許容する。そのかわり、政治的資本主義ではエリートに常に高い成長を実現するというプレッシャーがかかる。経済が停滞したときに、リベラル能力資本主義なら、選挙などで民主的、政治的にこれを解決しようとできる。しかし、政治的資本主義では、エリート側が存在意義を問われるのだ。

この腐敗は政治的資本主義がわだけの問題のように見える。しかしそうではないとミラノヴィッチは指摘する。腐敗で手に入れた富は、国内に持っているだけでは意味がない。一度国外に持っていってきれいにしなければいけない。そしてきれいになってから、外国の金のふりをして国内に還流し投資される。

それを行うためには外国の人、つまりリベラル能力資本主義の協力が必要なのだ。リベラル能力資本主義は腐敗を助けて増幅しているのである。リベラル能力資本主義がなぜ助けているかというと、みずからの貪欲さのためである。腐敗という点で両者は持ちつ持たれつで、よく似ている。

腐敗だけではない。不平等もこの2つの資本主義が結びついた結果、増幅された。政治的資本主義では腐敗しているので、もともと不平等である。リベラル能力資本主義ではエリートはつぎつぎに自国の仕事を分離して、政治的資本主義の世界に持っていき、自国労働者を貧困に追い込んで、不平等を拡大させている。つまり2つの資本主義のエリートたちは協力しあってそれぞれ不平等を拡大している。

異なった資本主義システムなのに腐敗と不平等を抱えているという点で非常に似通っていて、しかもお互いにそれらを強化し合っている、この不思議な関係の2つの資本主義は今後どうなるのだろうか。

一つの可能性はますます融合して、リベラル能力資本主義が政治的資本主義に似てきて、飲み込まれてしまうという可能性だ。これは小さくない確率で存在する。

もう一つの可能性は、リベラル能力資本主義が不平等を減らした、次の段階に進むことだとミラノヴィッチはいう。著者はこの資本主義のことを「民衆資本主義」と呼んでいる。

リベラル能力資本主義のエリートたちがどうやって不平等を拡大させているかというと、まず高い知能により高収入を得るとともに資産も所有して資産からの配当も手にしているからである。したがってミラノヴィッチの不平等の解決策は、市民の一人ひとりが労働からの所得と資産からの所得の割合を同じにすることだという。全員が同じくらい労働者で同じくらい資本家という状況を作るということだ。この状況では資本が増えても全員の資本が増えるから、不平等は拡大しないという。ただし、所得の格差はまだある。

もしもこのような不平等の少ない民衆資本主義を作ることができれば、政治的資本主義に対して有利となるだろう。

さらに、とミラノヴィッチは空想をすすめる。その先には「平等的資本主義」があるというのだ。これは労働の所得と資本の所得を同じ量にして、所得格差もなくすというものだそうだ。

うーん。ここまでくると、資本主義というよりはもう共産主義なんじゃないのって気がするけど。よくは分からないけど、リベラルの経済学者は平等を目指しすぎる。

ミラノヴィッチはグローバル資本主義には倫理がないという。どうやら資本主義のいまの問題はいかに倫理を取り戻すかということらしい。それができれば新しい資本主義が見えてくるのかもしれない。

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(メモ1)資本主義の発展段階(WPD側)
1.古典的資本主義 労働者は労働からのみ収入を得、資本家は資本からのみ収入を得て裕福。不平等は大きい。

2.社会民主主義的資本主義 労働者は労働からのみ収入を得、資本家は資本からのみ収入を得るがすべての資本家が裕福ではない(税金が高いから)。医療や教育を通じて富が再分配され、不平等は中程度。

3.リベラル能力資本主義 すべての人が労働と資本から収入を得るが、所得が多いほど資本の割合が大きくなる。ただし労働所得も多い。エリートはエリート同士と付き合い、結婚もするので不平等が拡大し、世代とともに拡大する。

4.民衆資本主義 すべての人が労働所得と資本所得をほぼ同じ割合で持っている。所得の差はあるが、資本が大きくなっても不平等は拡大しない。

5.平等主義的資本主義 誰もが労働所得と資本所得を同じ量だけもらう。国家は再分配はほとんどしなくてすむ。ほぼ平等。機会は皆平等。リバタリアン、資本家、社会主義者のみんなが満足する。

(メモ2)民衆資本主義へ向かうための政策
1.中産階級に金融資産、住宅への優遇措置。富裕層には増税、とくに相続税
2.公教育の充実。
3.移民の促進。ナショナリストの反発軽減のため「軽い新民権」を新設し、市民と非市民の中間の身分をつくる。
4.政治献金を厳しく制限。

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