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アメリカは内戦に向かうのか

バーバラ・F・ウォルター 東洋経済新報社 2023.4.6
読書日:2023.7.15

独裁政治と民主主義の間には中間のアノクラシーという状態があり、アノクラシーの状態が一番危険で内戦に陥る可能性が高く、アメリカはいまアノクラシーに入ってしまった状態だと主張する本。

内戦という状態は従来はなかなか起きるものではなかったが、20世紀末から21世紀にかけては激増しているという。そういう事もあって、世界中で内戦に関する研究が進んで、どんな国で起きやすく、どんなふうに発生するのかという知見が増えてきた。その結果、国の状態を客観的に評価できるようになり、どの国に内戦が起きそうかということも予見できるようになってきたのだという。

では、どんな国に内戦が起きやすいのだろうか。

国の状態を評価するのに、ポリティ・インデックスというものが開発された。完全な専制国家の状態をー10とし、完全な民主主義国家の状態を+10として評価する。すると、ー10とか+10の近辺ではほとんど内戦は起こらない。ところが中間のー5〜 + 5のところで、内戦が起きる確率が激増する。これは専制国家では反対勢力が徹底的に抑え込まれており内戦は起こらない、一方、民主主義国家では話し合いで解決する方法が確立されているからやはり内戦は起こらない。だが中間の状態は非常に不安定だからなのだという。

この中間の状態は名前がつけられており、「アノクラシー、anocracy」と呼ばれている。専制主義(オートクラシー、autocracy)と民主主義(デモクラシー、democracy)から作られたのだという。(nはどこから来たのかな?)

通常は、専制国家が民主主義国家に移行しようとする場合にこの状態になることが多い。この状態がなぜ不安定かというと、体制が変わることによって、既得権を喪失して不利になるグループがいるからだ。一方で体制移行で得をする人もいるが、得をする人は喪失する人をうまく取り込めず、どちらかと言うと排除しようとする傾向がある。こうなると、喪失する方は絶望して武器を手に取るということになってしまう。とくに急激に徹底的に体制の移行を行おうとすると、このような状態に陥りやすい。

これまでは民主主義への移行でそうなることが多かったが、近年増えているのは、民主主義国がポイントを落としてアノクラシー状態になってしまうケースだ。ポーランドハンガリーでそれが起きていて、指導者が権力維持のために民主主義をないがしろにしてしまう例が増えているのだという。

しかし、指導者がそういう行動に出たとしても、市民の方でそれを受け入れなければ成功するはずがない。そこで、国の中に、自発的な派閥が形成されているかどうかもポイントになる。その派閥とは、人種、宗教、地域で結びついたグループだ。このような派閥は一般市民の知られていないところで静かに拡散するという。そして気がついたときには、武器を手に取る内戦に発展するのだという。

このような派閥が立ち上がるのは、経済的な問題ではないのだという。人間は貧乏には耐えられるが、尊厳や誇りを失うことには耐えられない。これまで当然と思っていた地位から格下げされる状況になり、それに対して政府が何もしてくれないと絶望すると、派閥は急拡大するのだそうだ。そういうわけで各派閥は、政府などへの信頼をなくすことに力を尽くす。

そしてアメリカはまさにそのような状況になっている。

いま白人は人口的に少数派に転落しようとしており、経済的にもかつての中産階級は没落している。そして政府は、新自由主義あるいは能力主義のもと、自分たちが選んだ道だと言って、助けようとしなかった。いまでは、軍事訓練を行う民兵組織の数はうなぎのぼりで、このような組織は小さな組織を吸収して大きくなろうとしている。この本で紹介されているのは、サバイバリスト、オース・キーパーズ、スリー・パーセンターズといった組織が紹介されている。2020年1月6日の議事堂占拠事件はこれらのメンバーが周到に準備をして、実行したのだという。

こうしたアメリカのいまのポリティ・インデックスは+5で、まさしくアノクラシーの状態に入ってしまったという。というわけで、専門家の目から見て、アメリカは内戦が起きても不思議じゃない状態で、著者はいざとなったら家族でカナダに脱出する計画なんだそうだ。

いっぽうで、内戦必至だったのに実際には起きなかった例もある。南アフリカがそうで、アパルトヘイトを実施していた南アフリカの白人が民主化を受け入れると、確実に少数派に転落してしまう状況だった。復讐されるのが目に見えていたので、内戦は必至だと思われていたのだ。ところが、当時の指導者、デクラークとマンデラは和解の道をとり、平和的に民主国家へ移行したのだった。著者によれば、南アフリカの事例が、希望なんだそうだ。

アメリカは、白人が実際に少数派に転落するここ数10年をうまく乗り切れれば、内戦は回避されるのかもしれない。アメリカで内戦が起きれば、世界中に多大な影響がありますからねえ。

わしはこのような研究がさらに進んで、国連などが民主化への移行をうまく主導できるようになればいいなあ、と思います。

***メモ アメリカの民兵組織の聖典***
アメリカの民兵組織には聖典があって、それは「The turner Diaries」という小説なんだそうだ。民兵組織に加わって、最後には核爆弾でペンタゴンに自殺攻撃をする、という内容だそうだ。さっそく読んでみようかと思ったが、2020年1月6日の議会占拠事件以来、この本はアマゾンで販売中止になっていた。あれま。いくら危ない本だからといって、販売中止にするのはいかがなものでしょうか。まあ、ウィキペディアに詳しい要約がついていて、それで十分という気もしますが。

★★★★☆

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