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なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか アメリカから世界に拡散する格差と分断

渡瀬裕哉 株式会社すばる舎 2019.12.31
読書日:2021.1.17

選挙のプロである著者が、分断は政治家が選挙のために仕掛けていると主張しつつ、民主主義の将来について今後の展開を予想する本。

著者は選挙のプロ。選挙を仕掛ける側からのリポートというのが新しい。

選挙のプロというのはいかに票を取りに行くかということを考えている人物ということである。やっていることはマーケティングと同じである。マーケティングでは女性とかファミリーとか高齢者みたいに、顧客をカテゴリー化する。同じように選挙のマーケティングとは有権者も分断してカテゴリー化することだ。

ここでもしも新しい分断、新しい分け方を発見すれば、それだけであたらしい政策を立案して、新鮮な公約として訴えかけることができる。つまり、選挙におけるマーケティングというのは、社会の分断を発見することだというのである。

分断を発見しさえすれば、有権者に、あなたはこっちのカテゴリーですよ、と教えてあげられる。有権者はそんなこと考えたこともないかもしれないが、いったんカテゴリー化されると、ひとはその思考の枠にはめられてしまうという。そして政治家は、その分断を訴えて、自分に投票するように促す。

すると、政治家は新しい分断を次々に作り出して、有権者に訴え続けることをしなくてはならなくなる。政治家は分断をなくすのが仕事なのではなく、分断を世の中に作り出し拡散するのが仕事ということになる。なんとも自己矛盾な話だ。

トランプが大統領に当選した時、一体何が起きたかということが議論され、ヒルビリーという人たちが発見された。一般にラストベルト(鉄さび)地帯と言われるアメリカ中西部にいる白人貧困層をいう。その人たちが自分たちのことをどう思っているかには関係なく、政治家はあなた方はヒルビリーだと定義し、あなた方のためにこんなことができると訴えるのである。もしかしたら、やっと自分たちのことを考えてくれ、分かってくれる人が現れた、と考えるかもしれない。有権者自身も名前を付けられることで、自分のことが分かった気がするのかもしれない。

考えさせられたのは、政治家は社会学者などといった知識人の発見した分断を利用するということだ。学者はこれまで知られていなかった新しい何かを付け加えることを生業にしている。だから、常に社会の新しい分断を探しているという。政治家はこうして発見された新たな分断を利用するのだ。

こうしたアイデンティティの分断は民主主義国家だけの問題ではないという。独裁的な、例えば中国のような国でも、経済的な発展が起きれば、知識人やメディアの活動が増えるからだ。中国では知識人は政治体制の触れずに分断の話をすることができるという。しかも、信用のスコアリングなどを行うテクノロジーの進化がさらに分断をうみだすのだという。そして中国には民主主義国のような、変化を受け止めるバッファがないので、かえって危険だという。

結局、現代では個人はアイデンティティが深化・拡散することを受け入れなくてはいけない。ただし他人がレッテル張りしたアイデンティティを受け入れるのではなく、それぞれが自己選択し、再構築した、しなやかなアイデンティティを持たなくてはいけないのだという。

著者は現在のアメリカにおける典型的な分断の仕掛けを説明し、さらに、未来はどのようなアイデンティティの分断が起きるのだろうか、と予想する。

著者によれば、未来の分断は通貨をめぐって起きるだろうという。いまではビットコインなど新しい通貨が出てきており、どの通貨を使うかという選択がその人のアイデンティティに繋がるというのだ。そうすると日本の法定通貨である円が日本でもあまり使われないという事態が生じ、ひいては国民国家という概念にも影響を与えると著者は見ている。

これはちょっと意外な展開で、わし自身はビットコインのような通貨が普及するとしても納税に使われる日本円の地位は安泰だと思っていたが、少し心配になってきた。MMT(現代貨幣理論)は流通しているのは国が発行している通貨という前提で構築されているのだが、ビットコインのようなものが日常の決済通貨になったら、はたしてMMTは使えるんだろうか。

と、少し心配したけど、やっぱり法定通貨が主流であり続けるんじゃないか、とわしは踏んでいるけどね。

★★★★☆

 


なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか アメリカから世界に拡散する格差と分断の構図

 

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