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ヒトラーの馬を奪還せよ 美術探偵、ナチス地下世界を往く

アルテュール・ブラント 訳・安原和見 筑摩書房 2023.7.30
読書日:2024.1.2

ヒトラー総統の官邸にあり連合軍の空爆により破壊されたと思われた馬の彫刻が、70年後の2015年に発見された経緯を述べた本。

美術界は魑魅魍魎の世界で、有名な作品が、今どこにあり、正式な持ち主が誰か分からないことも多い。最近では、フリーポート(保税倉庫)というグレーゾーンの領域に美術品が次々に飲み込まれて、二度と世間に出てこないのではないかと言われているものも多数ある。

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でも、こういうところにある美術品って移動させやすい大きさのものがほとんどだろう。ところが今回の捜索の対象となったヨーゼフ・トーラックの彫刻「闊歩する馬(シュライテンデ・プフェルデ)」は、高さ3メートル、重さ1トンの馬の彫刻が2頭、対になっているものだ。この大きさの彫刻を人知れずに隠したり、運んだりするのはなかなか困難である。

しかもヒトラー総統の官邸は、第2次世界大戦末期にさんざんに空爆されて、破壊されてしまったのだから、誰もが馬の彫刻も粉々になってしまったものと思っていたのである。

そういうわけだから、2014年にこの馬が売りに出されているという話が、小さな美術品調査会社を経営している著者ブラントの耳に入ると、当然、贋作だろうとブラントは判断する。ここからが面白いところで、ブラントとその仲間は誰からも調査依頼がないのに、この件の調査を開始するのである。この話は放っておけないとかなんとか言って。どうもブラントはこういうお金にならない話に首を突っ込みやすいタイプらしい。

さて、馬の贋作には制作者のトーラック自身が作った精巧なミニチュアをもとにしていると予想され、そうすると、ミニチュアを持っているはずの元ナチス党員が絡んでいると予想された。なかでも「シュティッレ・ヒルフェ」という組織は、ナチス元高官を海外に脱出させたり、裁判費用を負担したりしている組織だが、政府の慈善団体リストから排除されて、資金が涸渇して、困っているらしい。

こうしてブラントは、人づてにナチス人脈をたどって、謎のドクター・アーネンエルベと名乗る人物と接触する。これが謎の車に乗せられて運ばれるなど、けっこう心臓バクバクものの展開だ。よくやるなあ、と思う。アーネンエルベとは「祖先の遺産」という意味で、ナチスがドイツ人はアーリア人の末裔であるという証拠を探したプロジェクトに由来するというから、かなりいかがわしい。

そうこうするうちに、終戦直前の総統官邸の映像が手に入り、そこにはすでに馬の彫刻がないことが判明する。つまり、馬は爆撃の前に運び出されたのだ。すると、馬は贋作ではなく本物の可能性が出てきて、ブラントたちも騒然とする。しかも馬だけでなく、ブレーカーの「国防軍(ヴェーアマハト)」と「見張り(ヴェヒター)」という作品もあるらしい。

結論を言うと、馬は東ドイツにずっとあって、東ドイツが崩壊する直前に諜報機関のシュタージにより西側にお金目当てに売却された。しかし、誰に売ったのかは分からない。それにはドイツ富豪のシック一族(って言われても、さっぱりわからないけど(笑))とかアレクサンダー騎士団のグランドマスター、ジョー・ナッセンシュタインが絡んでいるらしい。アレクサンダー騎士団とはプロイセン王女ヴィクトリア・ルイーゼとかV2ロケットやアポロ計画で有名なフォン・ブラウンとかがいた由緒ある騎士団なのだとか。

ブラントはシュピーゲル紙の元編集長フォン・ハマースタインとドイツ警察の美術関係の専門家ルイ・アロンジュと協力するようになる。警察が関与するのは、馬の正当な所有者はドイツ国家だからだ。ところが、馬が売りだされている話が大衆紙ビルドにもれてすっぱ抜かれそうになる。どうやら話が広がっているようで、このままでは警戒した犯人たちは馬を闇に隠し、馬は永久に世の中に出てこなくなるかもしれない。それでアロンジュは、怪しいと思われるところ3か所にかなり強引な形で強制捜査に入り、結果的に馬は発見され、世紀の大発見となるのである。

うーん。

きっと大発見なんだろうけど、日本人のわしには、いまいちその重大さが実感できないなあ(苦笑)。というか、ますます美術界のいかがわしさが際立ってくるような気がする。

それにしてもフリーポートってなんとかならないのかしら(しつこい(笑))。

★★★☆☆

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