「世界を貧困に導くウォール街を超える悪魔」を読んでわかったのは、結局のところ、例外の場所や制度を利用して、税金を納めることなしに利益を搾り取って行く金融産業の姿だった。
これを読んでわしが思い出したのが、フリーポート(保税倉庫)と呼ばれる、特別な倉庫のことだ。フリーポートは入国や出国するまえの一時的な保管のための倉庫であり、どこの国でもないという、国と国の境にあるような特別な場所だ。ちょうど空港の免税店のように、税金がかからない特殊なところだ。
フリーポートはあくまでも一時的な保管場所のはずだった。ところが、高価な物品がこのフリーポートに半永久的に保管されるという事態が起きている。
たとえば美術品だ。
美術品で高価なものはいまでは美術館ではなく、フリーポートに保管されているという。フリーポートでは、持ち主が誰かは問われない。フリーポートに持ち込まれる場合は税関も通らないので、政府もどのフリーポートに何が保管されているのかわからない。
こうしたフリーポート内に美術品がしまわれると、なかなか表に出てこない。なぜなら、表に出た途端、税金がかかってしまうからだ。そこで、フリーポート内で、展示会やオークションが開かれ、取引が行われる。取引が行われ所有者が変わっても、その美術品はやっぱり表に出てこない。倉庫内のある部屋から別の部屋に移されるだけである。美術品が値上がりして買った値段よりも高く売れると値上がり益は所得になるが、その所得は税務署には把握不可能なので、課税されることはない。
こうして高価な美術品は人目に触れることはなく、フリーポート内を行ったり来たりすることになる。もちろん、美術品にかぎらず高価なものはフリーポートに持ち込まれ、密かに売買される。フリーポート内は気温や湿度が完璧に管理され、倉庫会社はあらゆる災害から預かっているものを保護するが、あらゆる政府からも保護する。
こうしたフリーポートは、これまでスイスやルクセンブルクなどヨーロッパが中心だったが、いまではアジアでもシンガポールに最新の設備のフリーポートがあり、ここで展示会やオークションが開かれているようだ。フリーポートは輸送の便を図るために、国際空港のそばに作られることが多い。
こうした例外的な場所を富裕層が利用して、納税もせずに取引を行うのは、わしは納得できない。わしは資本主義は認めるが、みな同じルールでお金儲けを行うべきだと思う。このような例外を作るべきではない。
ところが日本政府は我が国にフリーポートがないことを他国に遅れていると感じているらしく、推進する構えのようだ。なんでもかんでも外国がやっていることを取り入れればいいというものではない。これは倫理観が欠如した考え方なんじゃないか。
ところで、「ぜんぶ、すてれば」や「孤独からはじめよう」の中野善壽が寺田倉庫社長のときに始めたのは、こんなフリーポート事業だったらしい。もちろん革新的ではあるが、始めるときになにか倫理的な葛藤はなかったのだろうか? どうもまったくなかったようだが、どう考えたのかちょっと話を聞いてみたい気がする。革新的なサービスといっても、これはちょっと違うんじゃないだろうか。
https://www.terrada.co.jp/ja/news/11882/
「寺田倉庫、国内初の保税蔵置場を活用した 保税ギャラリースペースをオープン
天王洲で美術品の国際流通とアート関係者が集う環境を創出」