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アナロジア AIの次に来るもの

ジョージ・ダイソン 監訳・服部桂 訳・橋本大也 早川書房 2023.5.20
読書日:2023.10.7

ライプニッツの唱えたデジタルの世界が現在あふれているが、今後はアナログの世界が復権するという主張をする目論見に無理やり自分の体験を組み込んだ本。

デジタルからアナログへの回帰、と言われると、なるほどという気になります。デジタルと言うと白黒がはっきりした論理という感じがしますが、現在のAIはほぼほぼディープラーニングの世界で、そこは曖昧でなんとなくの世界だから、デジタルでアナログを実現していると言えるでしょう。ですから、この辺を議論するときっと面白いに違いない……というようなつもりでこの本を読み始めると、面食らうことになります。

最初に話されるのは、18世紀のロシアのアラスカ探検の話です。皇帝の命令により、冒険者たちはシベリアを横断し、オホーツク海にたどり着くとそこで船を作って、ベーリング海峡を渡って、アラスカに達します。そこでロシア人が見たのは現地の「インディアン」たちがカヤックを操って高速に海を行き来する光景でした。

で、これがなんでデジタルと関係しているかと言うと、この探検を勧めたのがライプニッツだからだそうです。繋がりがないわけではないが無理矢理すぎる(苦笑)。

これがどういうふうに話が展開するかと言うと、著者は16歳のときに家を出て、カナダのバンクーバー付近でツリーハウス(木の上の家)を作ってそこに住むようになり、インディアンのカヤックの失われた技術を再現することに夢中になるという話につながります。

インディアンのカヤックの先端部分は不思議な形状をしていて、その理由なんかは流体力学のシミュレーションをしないと理解できないそうで、まあ、デジタルの威力を発揮していると言えないこともない。このへんで「ひも理論」なるものが出てきますが、これは素粒子学などのひも理論ではなくて、カヤックの骨組みを結ぶための本物のひものことです(うーん)。ちなみにカヤックの話は面白くないわけではないですが、別の本にすでに詳しく語られているそうで、大雑把にしか語られていません。

こうした話の間に、著者の父親の高名な物理学者、フリーマン・ダイソンに関連したファミリーヒストリーが出てきて、特にフリーマン・ダイソン原子力を使ったロケットを開発しようとした話とかが詳しく出てきます。

また、そのころ、読んだ「イルカの日」というSF(著者とその妻と知り合いだったので直接もらった)とか、やっぱりそのころ読んで感銘したらしい「エレホン」という本を書いたサミュエル・バトラーという人のことが語られたりします。

こんなことが延々と語られて、この本はいったいどこへ行くんだろうと思っていると、最後の方に姉のエスター・ダイソンの話が出てきて、この人はIT業界で有名な人だそうで、エスター・ダイソンの主催する業界の会議なんかに無料で参加するうちに現代のITに詳しくなったようで、デジタルが精緻化してアナログにいくとかいう話が語られますが、とくに深みがあるわけではありません。いちおうもっともらしく、カントールが唱えた連続体仮説(無限には数えられる無限と数えられない無限の2種類しかないという仮説)と結び付けられてはいますが。

最後の解説によると、著者は序章と最後の章の内容を書いて出版社からオーケーをもらったそうですが、その間に自伝とファミリー(と先住民族のインディアン)の話をさんざん書いていて、わしが思うに、著者が書きたかったのは自伝の方で、出版社は騙されたんじゃないか、ということです。いちおうすべての話にデジタルの話が絡んでくるので、詐欺ではないとは思いますが、あまりに薄いつながりです。

なんとも変な本を読んだなあ、という印象ですが、ロシア人のアラスカ探検のことはまったく知らなかったので、興味深かったです。じつはけっこう極地探検好き(笑)。なんか極地探検に絡んだむちゃくちゃな話をばらした本としては「南極探検とペンギン」が面白いです。

よかったら、どうぞ。

★★☆☆☆

 

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