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個人投資家目線の読書録

作家で億は稼げません

吉田親司 エムディエヌコーポレーション インプレス 2021.12.1
読書日:2022.3.8

架空戦記ものの作家である吉田親司が、天才でなく平凡な小説家がサバイバルする方法を具体的に伝授する本。

最近、この手の創作の手法とか作家で生きていく方法とかの本がやたらアマゾンで勧められる。あまりに多いのでなんでだろうと不思議に思っていたら、かつてレビューした「小説家になって億を稼ごう」という本は、図書館で借りたのではなく、珍しくキンドルで買ったのだった。さらに脚本の書き方の「SAVE THE CATの法則」もキンドルで買っていた。

なんだ。じゃあ当たり前だ。同じ傾向の本を2冊も買っているのだから、アマゾンとしてはどうしてもこの手の本を勧めざるを得ないわけだ。なにしろ、その他の本の購入はほとんどマンガだからなあ。

で、わしも芸人や俳優が若いときに売れなくてアルバイトした話とか、こういう作家のサバイバルみたいな話はけっこう好みなので、勧められると、つい手に取ってしまうのだった(笑)。もっともこれは買ったわけではなく、図書館で借りたんだけど。(図書館派なので、めったに本は買わない)。

さて、架空戦記などというジャンルのどこが面白いのか理解不能なので手に取ったこともないから、著者の名前は初めて知ったが、2001年にデビューすると、20年にわたって100冊以上の本を出版してきたそうだ。これはすごい。単純計算でも年に5冊以上出している。

しかしながらほとんど重版もされず、ベストセラーもないそうで、これまでの年収は190〜920万円だったそうだから、たぶん平均的には400万円ぐらいだったんじゃないかと推測する。日本人の年収の中央値が437万円(2019年)だから、あまり変わらない。小説だけで普通の年収を得ているわけだから、ものすごく立派だ。

つまり著者はベストセラー作家ではないが、普通に暮らしていけるくらいには稼いでいるわけで、平凡な才能の小説家がいかに生き抜いていくかという具体的なサバイバル法を伝授する資格は十分ある。

では、その普通の作家がどうやってサバイバルしているのか見ていこう。

まずデビューの仕方でずいぶん違うという。出版社はいつでも新人を待ち望んでいるが、持ち込みの扱いはほとんどゴミ扱いで、持ち込みを認めない出版社すらあるという。で、そんな風潮のなかで、きちんと扱ってくれる作家というのが、新人賞を取った作家なんだそうだ。

新人賞に応募するというのは昔からある非常に古典的な登竜門で、今の時代でもそれが当てはまるのか疑問に思ったが、やっぱりそうなんだそうだ。賞を取りさえすれば、最低でも3冊は出版してくれるし、宣伝にもお金をかけてくれるし、編集者も大切に育ててくれるという。いっぽう、持ち込みなどでデビューした場合は、そんな恩恵などは得られず、1冊目をなんとか出版できても、すぐに2冊めを出版するサバイバルに突入することになる。

数千人が応募するのに賞なんか取れるはずがないという気もするが、実際にはトップ10に入ることを目指すべきだという。トップ10のなかでは優劣はほとんどなく、どれが受賞するのかは偶然に近いらしい。ともあれ、トップ10に入れば編集者と繋がりができる可能性が高く、それを目指すべきだという。トップ10に入るのも難しそうだが、そもそもそのくらいの実力でないと、どんなルートであれデビューはできない。

ちなみに最近ではWEBの小説投稿サイトからデビューする人も多いが、こちらは編集者とはあまり関係がなく、営業部の扱いなんだそうだ。このときの出版の基準は作品を発表しているサイトのランキングのみで、ランキングの1位になれば内容と無関係にとりあえず出版はできるらしい。すでに客がついているという扱いなので、紙で出版したときに、作者自らの営業活動が求められるそうだ。

さて、なんとか編集者と繋がりができてデビューできたら、デビュー本をあらゆる出版社に献本をしなくてはいけないという。商業的な出版ができたということが何よりの信用となり、他の出版社も関心を持ってくれる。ただしなにか反応があったら、最初の出版社にもきちんと報告すること。編集者は会社を越えて横のつながりが大きい社会であり、噂はすぐに伝わるから、黙っていると信頼関係にひびが入るそうだ。

また、1冊目が出版される前に、続編の執筆を開始しなくてはいけないという。1冊目の販売が悪いと2冊目は出版されないかもしれないが、それでも見切りで始めるのだという。もしも売れたらすぐに続編を出版できるようにしておくのがいいのだ。もしその時出版できなくても、いつか出版できるかもしれない。

ある程度実績ができたら、繋がりができた編集者に対して、A4で2枚程度の企画書を作成して送るのもお勧めらしい。

まあ、要するに、著者の言うサバイバルというのは、絶え間のない執筆の合間にきちんと編集者に対する営業を行うことなのだ。執筆漬けというのはほとんどの作家希望の人には望むところだろうが、営業の方もけっして疎かにするな、ということなのだろう。

それにしても、多くの架空戦記ものの作家が若くして亡くなっていることが記載されていて、驚いた。著者もがんを患って、手術の後遺症にも悩まされたが、いまは普通に作家生活ができるようになったという。

どうやら架空戦記のジャンル自体が縮小の一途らしく、そのせいで絶え間のない大量の執筆を強いられているのが早死の原因のようにも読める。作家ってこんなに過酷なんだ、とびっくり。そういうわけで、作家一本で食べていくのは困難で、健康にも悪いから、本人は兼業作家を強く勧めているわけです。

前にも書いたと思うが、投資で細々と稼ぎながら作家をするというのもいいと思うんだけど、この本にもそんな提案はありませんね。お笑いで投資家、お笑いで作家、という組み合わせは聞いたことはあるけど、投資家で作家、という組み合わせを聞いたことがありません。きっと作家になる以上に投資家で成功することが、誰にも想像できないんでしょうね。(もちろん投資で成功したという本はたくさんありますが、小説というカテゴリーでの話)。

ところで、執筆の道具ですが、「小説家になって億を稼ごう」では、執筆はマイクロソフトのワード一択だと主張していたんですが、実際は編集者によってもいろいろだそうで、著者のお勧めは「一太郎」だそうです。いまの一太郎は小説の執筆に特化してるんだとか。へー、そうなんだ。

ファイルが消えないように10分ごとの自動バックアップを勧めていますが、クラウド上で書けばいくらでも自動セーブできるのにね。わしのお勧めはグーグルドライブ上でグーグルドキュメントで書くこと。この文章もそうやって書いています。マイクロソフトのワンドライブ上でワードで書いてもいいかもね。パソコンは高くなくても良いという。文章を書くだけなんだから、そりゃそうだ。わしが主に使っているのは、3万円のクロームブック。安くてサクサク動きます。まあ、グーグルドキュメントで受け取ってくれる編集者はいないと思いますから、小説には使えないかもね。

それはともかく、こういう創作系の話には少し飽きたな。アマゾンにいくら勧められても、この系統の本はしばらく読まなくてもいいや。

なお、各章の題が映画監督スタンリー・キューブリックの映画作品のパロディになってますが、特に意味はなさそうです。

★★★☆☆

 

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