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小説家になって億を稼ごう

松岡圭祐 新潮社 2021.3.17
読書日:2021.5.16

ベストセラー作家が読むに値するストーリーの作り方をおしげもなく伝授し、しかも成功したあとの心得まですべて教える本。

わしとしては、小説をほとんど読まないので、このお方がどなたなのかまったく知らなかったわけであるが(すみません)、このところいくつか成功した作家の話を読んでいるし、なによりも富を得ようというところに心惹かれるので、読んでみた次第。

この人のストーリー作成の手法を読むと、あまりにアメリカの成功した脚本家が書いた「SAVE THE CATの法則」にそっくりなので、びっくりした。もちろん脚本と小説の違いがあるが、かなりの部分似ている。

すると、この方法は、もしかしたらストーリーを創る上で基本的なことなのかもしれない。

ともかく松岡さんの手法を順に述べるとともに、似ているところがどこか示していこう。

物語を創造するとき、キャラクターから入る場合と、ストーリーラインから入る場合があるが、松岡さんはキャラクター派である。まずキャラクターを作り上げ、そこから物語を紡いでいく。キャラクター優先という意味では、漫画原作者の小池和夫と似ているかもしれない。

そのために松岡さんが行っているのが「想造」と呼んでいる過程で、キャラをメイン7人、サブ5人の計12人のキャラを創る。このとき、たとえばネットで自分のイメージに合う人の写真(これは有名人でもいいし、一般の人でもいい、アニメでもいい)を選んで印刷し、壁に貼り、このキャラがどういう人なのかを空想していく。舞台になっている町のイメージがあるのなら、その写真も印刷して貼っておく。

そうしてこれらの人間関係や起こる小さな事件や日常生活などを妄想を開始する。うまく妄想ができないのなら、キャラが合っていない可能性があるので、キャラの写真を変えて、試行錯誤する。

妄想を行っていくと人間関係の問題や事件などが発生するが、そうするとその解決策を妄想する。するとその結果として、また別の問題が発生するから、その問題も解決する。ということを繰り返していくと、どうにも解決ができない問題に行き当たる。

ここが、物語の結末に向かう転換点になる。そして結末として、最後にどうなっていてほしいかだけを考える。解決策はまだ考えない。

ここまで妄想するまでは、なにも書いてはいけないという。書いた時点でその書いたことに思考が限定されてしまうからだ。また、書いていくと修正するのが大変だが、頭の中の妄想だけなら、すぐに変更可能なので、便利だという。

これだけの詳しい妄想を実行することで、作家はまるでキャラクターの行いをすぐそばで見てきたような状態になり、それはノンフィクション作家が対象に直接取材したように、生き生きとした情景を書くことができるという。

ここでようやくパソコンを開いて、ワードに書くのだが、書くのはまず3行にまとめた物語だという。

1行目には設定の話、2行目は問題が行き詰まるまでの話、3行目は結末だ。これを1行40文字以内で書く。これが書けないと、まだストーリーはできていないので、想造からやり直す。

書けるようなら次の段階にすすむ。

設定の部分は10行分、転換点までの話は20行、そして結末までの話は10行取る。全部で40行だ。そして1行40字以内で物語の1シーンを書いていく。妄想がしっかりできていれば、ここを書くのは簡単だという。決められた行数よりも多くなるようなら、複数の行をまとめるなどして短くする。

結末の10行だけは特別な書き方がある。まず最後のシーンの状態になるにはどうなっていなくてはいけないかを反対側から考えるという。1行ずつ、何が起きたらそうなるかを逆に考えていく。そして転換点にうまくつながれば、最大の問題点から無理なく結末につなげることができるという。

この40行の骨格を作り上げるまでは小説を書き始めてはいけない。うまく40行で書けなかったら、また想造を行う必要がある。

ではここで、「SAVE THE CATの法則」と比較してみよう。どのへんが似ているのだろうか。

SAVE THE CATの法則ではまず1行のログラインを創る。そのログラインとは物語を1行で表したもので、それを聞いただけで、面白そうと人に思わせる物語のポイントだ。このログラインで面白そうと思ってもらえないなら、そもそもそれは誰にも読んでもらえないという。

そして、次のように言っている。

ーー物語を1行のログラインで表現できるまでは、書き始めてはいけない。

おお、一緒だ!

まあ、この本では3行と言い、SAVE THE CATの法則では1行だが、要するにポイントがしっかり決まらないうちは書いてはいけないのだ。

その後、キャラクターを決めて、妄想をするところは一緒だが、次に、40枚のカードを用意する。映画はかならず40のシーンで構成される、というのがSAVE THE CATの法則での鉄則で、40枚に収まらなかったら、数枚を1枚にまとめたりして、ブラッシュアップする。

この40のシーンにまとめるというのも一緒だ!

ここでカードを並べながらああでもないと妄想をふくらませるのが、脚本で一番楽しいところだという。いろいろ状況を空想することで、実際に書くときに、書きやすくなるという。

この本では、妄想を十分ふくらませるまでは書いてはいけないという話だが、SAVE THE CATの法則では、脚本家なら妄想は十分に膨らんでいるという前提で、それをうまくまとめるということろに重点があるのだろうから、ほぼ一緒と言ってもいいだろう。

SAVE THE CATの法則は、映画の脚本の話だから、脚本の何枚目にどんな事件起きるということも記載してあるが(1枚1分ぐらいの計算らしい)、しかし小説ではそのような全体の長さは関係ないから、まあ、これは無視してもいいだろう。

そうすると、実質的にこの2つの本は同じことを言っているのではないだろうか。もしかしたら松岡氏もSAVE THE CATの法則を参考にしたのかもしれないと思えるほどの一致さだ。

なるほどねえ。ひとに読んでもらえるお話を創るには、一定の法則があるようだ。

★★★★★

 

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