ヘタレ投資家ヘタレイヤンの読書録

個人投資家目線の読書録

世紀の大博打 仮想通貨に賭けた怪人たち

ベン・メズリック 訳・上野元美 文藝春秋 2020.7.30
読書日:2021.7.18

フェイスブックを扱った映画ソーシャルネットワークですっかり悪役にされた双子のウィンクルボス兄弟が、再起を賭けてビットコインで勝負で出る実話。

映画のソーシャルネットワークは見たことがあって、この映画を見る限りタイラーとキャメロンのウィンクルボス兄弟は、天才ザッカーバーグにイチャモンを付けて大金をせしめた悪役で嫌なヤツにしか見えない。

でもこの本を読むと、ザッカーバーグは明らかにウィンクルボス兄弟のアイディアを盗んで、しかも兄弟をアホ扱いしているし、フェイスブックに超個人的な情報を書き込むユーザのこともバカにするような嫌なヤツになっていて、ウィンクルボス兄弟に大金を払うのは妥当に思える。書き方によりこうも印象が変わるのかと驚くほどだ。

一方、ウィンクルボス兄弟は高校から真剣にボートでオリンピックを目指して頑張ってきたスポーツマンで、しかもなにもないところからボートの文化を故郷の町に根付かせてしまうような、生まれついてのベンチャーの気概を持った人間として描かれている。

兄弟の父親も起業家で、パソコンの黎明期にソフト会社を興して成功している。賭けに出て、あやうい状況に陥っても戦うことを止めないというのは家系なのだろう。しかも兄弟はザッカーバーグから1行もコードが書けないとバカにされていたが、ソフト会社の息子なんだから、けっこう詳しいのだ。自分たちでコードを書かなかったのは、オリンピックに向けてボートのほうが大切だったからだろう。

オリンピックの夢が破れたあと、兄弟は投資家として成功しようと奮闘するが、兄弟はシリコンバレーでひどい目に合わされる。なにしろザッカーバーグの怒りを買うことを恐れて、誰も兄弟から出資を受けようとしない。

こういう状況をメズリックはとても印象的な筆致で表現する。兄弟があるスタートアップに出資をしようとシリコンバレーのレストランでCEOと会うが、この若き起業家はお金が本当になくて困っているような状況なのに、店で兄弟からの出資を断ったあと、ポケットからくしゃくしゃの20ドル札をだしてテーブルに落した、というのだ。なけなしのお金であってもビール代すら兄弟からもらいたくないという感じがよく出ている。

こういうふうに、メズリックの筆致はまるでその場にいて見てきたような表現の連続だ。お前その場にいたわけじゃなかろうによくこんなこと書けるな、といいたくなるような表現なのだ。完全に自分の頭の中で過去を再構成して表現している。これは基本的に小説家の技法で、すべての登場人物の内面にまで入りこんで表現している。こんなふうに見たように内面まで決めつけられて、登場人物の人たちの中には怒る人がいないんだろうか、と心配してしまった。

まあ、その後の展開をかいつまんで話すと、シリコンバレーに失望した兄弟は、シリコンバレーでもまったく手つかずの投資先を探すことになり、大西洋のリゾート、イビサ島ビットコインのことを知る。「世界最古のソーシャルネットワーク(=通貨)だ」といわれて興味を持つんですが、本当にこういう表現だったんですかね。創作なのでは。

そのころビットコインは誕生したばかりで、関心を持つのは政府の規制を何でも嫌うリバタリアンばかりという状況だったのですが、ビットコインのことを調べた兄弟はその将来を確信し、ビットコインの取引を仲介するビットインスタントに投資するとともに、自らもビットコインを購入、発行されているビットコインの1%を手に入れる。そしてビットコインの伝道師になる。

ビットインスタントはチャーリー・シュレムという内気なシリア系ユダヤ人の若者がCEOなんですが、あとで面倒を起こすだろうなあとわかる表現で書かれていて、本当にそのまま一時の成功に浮かれて転落する役を演じる。結論をいえば、チャーリーはビットコインを使ったマネーロンダリングを放置したという罪で逮捕され、ビットインスタントは破産してしまうので、兄弟の投資は失敗したわけです。

ビットインスタントは潰れますが、御存知の通り、ビットコイン自体はおおむね順調に上がり続けて、兄弟は世界初のビットコインによるビリオネラになります。また、仮想通貨取引所ジェミニ(双子)を開設して、こちらも成功。ほかにもイーサリアムなどの他の暗号通貨にも投資して資産を拡大しているようです。

じつは話の展開が簡単に読めるので、内容としてはけっこう単調ですが、メズリックの臨場感たっぷりの筆致のうまさのおかげで結構読めます。これが600ページぐらいあったらうんざりしますが、大きいフォントで300ページぐらいの程よい長さです。

それにしても兄弟のタフさはとてもいいですね。あれだけぼこぼこに嫌われても、しっかり立ち上がるところはいいです。リバタリアンのロジャー・バーもなかなか興味深い人物です。

チャーリーの恋人のコートニーがパーティ会場のウエイトレス出身で、お金だけを目当てに恋人になったのかと思っていたら、チャーリーが転落したあとも彼のもとを去らず、出獄後に一緒になったのは救いでしたね。

それにしても、ビットコインが評判になり始めたあの頃、少しでも買っておけばよかった、と思ってる人はたくさんいるんじゃないでしょうか。わしもそうです。ビットコインの評価の仕方が分からなかったので、手を出しませんでした。でも好奇心を持っていたのなら少しでも買ってみればよかった。そうすれば、もっと早く億り人になれたんじゃないかなあ、と思いますね。今からでも買えばいい? うーん、やっぱり躊躇しますね(笑)。

(なお、いまこの時点ではわしの資産は一億円を割り込んでいますので、億り人ではありません。)

★★★☆☆

 

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