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個人投資家目線の読書録

ビリオネア・インド 大富豪が支配する社会の光と影

ジェイムズ・クラブツリー 訳・笠井亮平 白水社 2020.9.10
読書日:2020.5.29

いまのインドの発展段階はアメリカの金ぴか時代(19世紀後半)の段階にあり、経済発展により大富豪が誕生する一方、政治との癒着により腐敗が蔓延しており、インドが次の発展段階に行けるかどうかは、米国で金ぴか時代の次に起きた革新主義時代(20世紀初頭の独占禁止法など腐敗と独占を排除した時代)に移行できるかどうかだと主張する本。

ジェイムズ・クラブツリーはフィナンシャル・タイムズの元記者で、2011年から2016年までインドの支局長をしていた。いまでもフィナンシャル・タイムズに寄稿をしていて、日経新聞で記事を読むことができる。ちょうど本日の朝刊(2021.5.29)でも彼の記事が載っていたので、へー、と思ったところだ。

その彼が、インドで取材をしていて、もっとも気になったのが、今のインドの大富豪ということらしい。彼はムンバイにいたのだが、ムンバイには多くの富豪が住んでおり、特にムケーシュ・アンバニ(リライアンス・インダストリーズ会長)のアンティリアという超高層ビルの邸宅は有名で、ムンバイのあちこちから見えランドマークになっているらしい。表紙に写真が出ているが、片持はりのかなり個性的な形状だ。

もちろん、この一族は大変な権力を持っている。この本はそれを象徴するような2013年の交通事故の話から始まる。

高速道路で高級車のアストンマーチンが前を走っているアウディに追突し大破する。しかしアストンマーチンの運転手は別の車に乗って、消えてしまう。このアストンマーチンは大企業のリライアンス・グループの所有であることがわかるが、次の日、運転していた男と別の男が警察に出頭して、自分が試験運転中に事故を起こしたと主張する。なぜか警察も追突されたアウディの側もそれを認め、アストンマーチンは事故調査のために警察の駐車場に置かれるが、調査はまったく行われず、事故はそのままもみ消されてしまう。実際に運転していたのは大富豪ムケーシュ・アンバニの孫だったらしい。

大富豪になると、こういう事故をもみ消すぐらいいとも簡単だということがよく分かるのだが、もちろん交通事故などは問題にならないくらい、権力との癒着は大きい。

1990年代にグローバル化の波に乗って、インドでも規制緩和と自由化が進んだ。それまでインドでは社会主義的な政策のもと、あらゆることにライセンスが必要で、ほとんど自由な経済活動ができなかった。しかし、90年代以降はなぜかすべてのライセンスが次々に認められ、しかも特定の企業グループだけが規制緩和の情報を入手して、巨大な事業を行うことが可能になった。こうして世界の億万長者のリストにインドの大富豪も名を多く連ねるようになる。彼らはロシアの大富豪の資本家オリガルヒにちなんで、ボリガルヒ(ボンベイのオリガルヒ)と呼ばれるようになる。しかし貧乏人はそのまま捨て置かれたので、インドの経済格差はロシア以上になってしまった。

こうした腐敗に対抗するとして、ヒンドゥーナショナリストナレンドラ・モディが2014年に首相になると、高額紙幣をなくすなどの政策をとって、腐敗を撲滅しようとする。モディはそれなりに腐敗の排除に成功する。

いまは、モディもしくは彼の後継者が腐敗を撲滅し、さらに大富豪を力を削ぐことで、インドが次の時代にいけるかどうかの瀬戸際にあるというのが著者の見立てだ。マレーシアやタイなど東南アジアでは経済発展してもある段階で止まってしまっているという。それに対して東アジアの国々がそれを超えて発展しているのは、国民保険などの社会インフラを整備して、国民全てに経済発展の恩恵を広げたからだという。

こういう話はもちろんいいが、どちらかというと興味深いのは、著者が足で集めたインドの経済と政治のリアルな風景だ。

インドの経済的な地理感覚がまったくなかったのだが、著者によると、南や西では、経済が発展し、北のガンジス川周辺では政治力とは裏腹に経済的には貧乏なんだそうだ。どこが違うのかというと、南の方では政治家が搾取も行うが、再投資も行って、経済のパイを大きくして、全員が豊かになれるように配慮しているのだという。

そういうわけで、南の都市チェンマイなどでは政治的な腐敗も大きいが、民衆はそれなりに満足しており、政治的なボスは愛されているようだ。ここでは縁故政治が凄まじく、選挙時には冷蔵庫やテレビ、携帯電話が大量に選挙民にばらまかれるという。

スポーツの全国組織(インドで熱いスポーツはクリケット)や衛星放送なんかもムンバイが中心のようだ。やっぱり経済は南と西が中心なのだ。

こういう経済地理的な感覚は、へー、と思った。南のほうが豊かなんだ。

負債の話も面白い。インドでは銀行は弱すぎるんだそうだ。

富豪たちは膨大な借金をしているという。なので、なにか経済的な波が不利な方に働くとたちまち破産するのだが、富豪が実質的に破産しても、なんとかつては銀行による取り立ては不可能だったのだという。銀行にそんな力がなかったのだ。そんなわけで、2000年代に銀行が裁判などで勝利を収めて、実際に差し押さえを行うようになると、富豪たちに衝撃が走ったんだそうだ。へー。

それにしても、インドは社会的にこれだけ格差が大きいのに、民主主義が根付いている(と言っていいのか?)珍しい国なので、民主主義の未来にとってもインドは重要だ。ぜひ発展してほしい。

インドと言えば、わしなんかはすぐにスラムが思い浮かぶが、うまく行けばスラムが一掃されて、テーマパークの中にしかない日が来るのかもしれない。まあ、わしが生きているうちは無理な気もするが、とりあえず、インドのスラムを書いた、「いつまでも美しく」でも読んでみるかな。

本書は著者にとって初めての本だそうで、力が入っているせいか、内容に比してページ数が多すぎると思った。半分ぐらいでいいんじゃないの。校正の人もそう思ったのか、後半は気が抜けたようで、後半は誤字や抜けが少し目立ちます。

★★★☆☆

 

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