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ワイルドサイドをほっつき歩け ハマータウンのおっさんたち

ブレイディみかこ 筑摩書房 2020.6.5
読書日:2021.1.10

英国の労働者階級の暮らしを地べたからレポートするブレイディみかこが、自分のまわりのおっさんたちの生態を伝えるエッセイ本。

ブレイディみかこのことは「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」という本を出したころから知っていて、これも読みたい本にはいっているのだが、最新刊のこっちを先に読むことになった。だって気になるじゃない、イギリスの労働者階級のおっさんたちの生態。(苦笑)

題名自体も、有名な「ハマータウンの野郎ども」という1960年代の本があって、これも読みたい本リストにはいちおう入っていてやっぱり読んでいないんだけど、内容はよく知られていて、イギリスの労働者階級の子供たちは、反抗的な割には自分から望んで労働者階級の仕事にわざわざはまり込んでそこから脱出しようとしない、というようなことを書いてある本。つまりこの本はそういう反抗的な労働者階級の子供たちが、いまやおっさんになりました、という本なのですね。で、そのおっさんたちは、歳をとっても、なんだかあまり進歩せずに危ない方向をふらふら歩いているらしい、というような題名なんですね。

うーん、これはもう、題名のつけ方の勝利としか言いようがないですね。多くの本好きは、この題名を見ただけで読みたいと思ったのではないでしょうか。

おっさんたちの中には、資産形成に成功して悠々自適な人もいれば(イギリスは日本が不況の間もずっと好況だったので、不動産を持っていれば値上がりしたり賃貸したりしてそれなりに誰でも成功できた)、いっぽう、ほぼその日暮らしに近い人もいて、さまざまなんですが、しかし、まあ、イギリス特有の話としてわしの印象に残ったのは、おっさんたちのNHS愛ですね。

NHS(National Health Service、国民保険サービス)とはイギリスの医療制度のことで、かつては至れり尽くせりで基本的に無料なんだそうだ。最近は、コロナ禍のなかでNHSの奮闘ぶりがニュースで流れていますね。イギリス人はこのNHSに大変ほこりを持っているようで、しかも本当にNHSにおかげで命を拾ったという人がたくさんいるらしい。なので、NHSは「我らがNHS」という状態なんだそうです。

でもこの我らがNHSは最近の緊縮財政の中で、どんどんサービスが劣化していて、診療を受けるのに予約が必要になり、さらに予約の予約が必要になり、ほとんどサービスを受けることができなくなっているらしい。診察までに何か月もかかるので、進行性の癌だったら、待ってるうちに死んでしまう状態なので、本当にヤバい場合はやっぱり民間に行くんだけど、そうすると全額自己負担で、借金して破産してしまうことにもなりかねないらしい。

そんなわけで危機感を持ったおっさんたちがNHSを守れとデモをしたりしている。また、身体の調子が悪くなっても、意地になってNHSで治療を受けようと、ひたすら耐えていたりする。ともかくNHSの存在感の大きさにちょっとびっくりしたりした。

もうひとつは、家族関係の組み換えが激しいこと。どうもイギリス人はすぐに離婚するらしい。けっこうその辺はドライで、もう合わないと思ったら、離婚までの決断がはやそう。でも、すぐに次の人を見つけるのが早い。この辺が、なかなか素晴らしい。

こんなふうだから、妻や家族との関係はすぐに切れてしまうけど、おっさん同士はずっと子供のころから付き合っていて変わらないんですね。成功しても失敗してもこの関係はずっと続くらしい。日本でいうと、なんか地元にずっといるマイルドヤンキーみたいな感じですかね。まあ、マイルドヤンキーも労働者階級のようなものだろうから(どうもいまいち日本で労働者階級という階級はイメージしづらい)、ある意味あっているのかも。

まあ、わしはこんなふうにずっと付き合ってる友達がいないから、なんだかうらやましい。。。。ごめん、嘘です。別にうらやましくありません。(苦笑)

どうもこの著者の周辺だけなのか知れないけど、おっさんたちはけっこう楽観主義者だなあ、という気がしました。何か起きても、まあ人生こんなもんだ、という感じで受け流して、前に進む気配が濃厚。

そういうわけで、5年後ぐらいに続編をお願いしたいです。おっさんたちもさすがにほぼ全員が引退しているのかしら。

それにしても、ブレグジットで意見が合わずに離婚してしまうカップルがいるなんて、日本と違って英国では政治的信条が合わないと恋愛も厳しいんだね。

★★★★☆

 


ワイルドサイドをほっつき歩け ――ハマータウンのおっさんたち

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