植原亮 ダイヤモンド社 2022.8.30
読書日:2023.2.6
人は素早く答えを得る直観と、じっくり考える熟慮の2つのシステムを持っており、直観には勘違いや錯覚があるので、その特性をよく知って熟慮する遅考術を教える本。
まあ、ともかく題名が素晴らしい。
この本は、ほぼ認知系の本からの引用のみで成り立っているような本なのだが、ここで直観では勘違いしやすい部分を熟慮するということを「遅考術」と名付けて、そのくくりでまとめたところが素晴らしい。これはダイヤモンド社の朝倉陸矢さんのアイディアだそうだ。この本が売れるとしたら、この題名が9割ぐらいのような気がする。
早杉さんと文殊さんの会話形式にしたのもよい。くすりとさせる小ネタも満載。
直観や熟慮は、ダニエル・カーネマンの「ファースト&スロー」に出てくるシステム1とシステム2のことで、実際にカーネマンの本に出てくる例も出てくる。ほかにもよくある、相関と因果関係は違うとか、論理のすり替えみたいな詭弁の話とかが出てくる。知っていることも多かったが、網羅的に述べられ、知らないことも多かったので、読んでいてそれなりに面白かった。
それに引用で成り立っているということは、引用文献が豊富に示されているということで、それも良かった。たとえばアンディ・クラークの「生まれついてのサイボーグ」(2015年、原著は2003年)という本は気になったので、読んでみようかと思う。サイボーグ論の古典らしい。
最後に陰謀論について述べられているが、陰謀論に取り込まれないようにすることはできるが、すでに陰謀論に取り込まれている人を改心させる方法はないのだそうだ。陰謀論は否定不可能な論理構造になっているからで、できるのはまだ取り込まれていない人に注意を促すようなことしかできないらしい。陰謀論は難しい。
著者は読書猿さんとも関係が深いらしい。まあ、読書猿さんの本もほぼ引用で成り立っているという気がするから、似た系統であるとは言えるでしょう。読書猿さんは一生、引用で食べていけるのじゃないかしら?
★★★☆☆