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ナチュラル・ボーン・ヒーローズ 人類が失った”野生”のスキルをめぐる冒険

クリストファー・マクドゥーガル 訳・近藤隆文 NHK出版 2015.8.30
読書日:2024.2.7

BORN TO RUN」で、人間はもともと走るようにできていることを語った著者が、その他に人間がもともと持っている野生の能力をクレタ島の人たちの身体能力を中心に語った本。

「BORN TO RUN」ではウルトラマラソンに挑戦する人たちが出てきて、人間はなぜこんなに走れるのかと問い、もともと人間は走って動物が熱中症で動けなくなるまで追いかけるような猟をしていたということを語る本だった。(そしてもともと裸足で走れるような身体構造をしているのだから厚底シューズは必要ない、とかも)。

でも、人間の失われた能力はそれだけじゃない。

というわけで、今回もクリストファー・マクドゥーガルは自分が体験したさまざまなことを関連付けて(けっこう無理無理だけど(笑))、一本の筋にまとめ上げたのが、これかな。

今回、人間がもともと持っていると主張するスキルは、(1)炭水化物の糖の代わりに体の脂肪を燃焼させる方法(たぶんケトン体代謝と同じ)、(2)身体を覆っているゴムスーツのような筋膜を使った効率的な身体の動かし方、そして(3)パンクラチオンという格闘技の話(もともとは戦場における何でもありの格闘技)、なんかが出てくる。

これがすべてが関係する土地として、クレタ島が出てくるのだ。クレタ島はミノス文明という古代文明の発祥の地でもあり、地中海食として有名になった食事はもともとクレタ島で発見されたものだったし、西洋の格闘技の原点であるパンクラチオンの発祥の地でもある。

クレタ島は第2次世界大戦でナチスドイツの占領に強硬に反抗した島であり、ナチスドイツは8万人という兵士をこの島に釘付けにされて、ロシアへの攻撃が遅れたことがドイツ敗因のひとつにあげられているそうだ。当時、そんなクレタ島を英国も最大限援助した。その島では、英国の諜報機関がドイツの将校を拉致してエジプトまで連れて行った、という事件も起きている。そしてこの拉致事件がどんなふうに行われたかというのが、よく分かっていないのだ。

著者は身体の話とは別にこの拉致事件の解明に夢中になる。

イギリスはご承知の通り、誰も取り組まない沼にハマる人たちが多いところで(この辺は同じ島国の日本とそっくり)、同じ問題に取り組んでいるイギリス人たちと一緒にクレタ島に行く。そこで発見したのは、クレタ島は山がちで岩だらけの土地だが、その土地を高速に移動できる人たちがいるということである。当時、この島のあちこちに英国情報部の拠点が置かれ、その間をクレタ島の住民が伝令となって情報を運んでいたのだそうだ。ほとんどまともな食事もしないまま、東西200キロの普通の軍隊が活動できないような厳しい地形の山岳地帯を伝令が跳び回っていたのだ。

超人的な活動だが、彼らは島の普通の羊飼いなのである。彼らの身体はどうなっているのか。

(1)地中海式の食事では穀物はあまり取らずに、タンパク質と脂肪の摂取が中心になる。したがって、彼らは糖分でなく脂肪を燃やすことでエネルギーを得ていたのだという。脂肪からエネルギーを取り出す場合、脂肪の蓄積は多いから長時間の活動が可能となる。(2)岩がちな山を越える動きは、筋肉ではなく、身体のバネを使った効率的な動きをする。このバネは筋肉ではなく、筋肉を覆っているゴムスーツのような筋膜をうまく使った動きだ。この動きは現代のパルクールとも一致している動きなのだという。この人間が自然に持っているバネの動きは、格闘技にも応用されているそうだ。

というわけで、クレタ島拉致事件の真相の解明と、運動の話が交互に話される。

まあ、最初に述べたとおり、ちょっと無理やり感はあるんだけど、どちらの話もそれなりに面白かったです。とくにイギリスの諜報部の面々が、普通なら使えないハグレモノたちの集団だったというのが良かったかな。

印象的だったのは、脂肪を燃焼させる仕方を身につけた運動生理学のノークス博士が、ちっとも空腹を覚えない身体になったという話かな。脂肪たっぷりの食事をとると、二日間ぐらい食事なしでも食べていないことに気が付かない身体になるんだそうだ。うーん、これはなかなか便利かも(笑)。

もちろん、拉致事件の詳細も解明されます。

★★★★☆

 

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