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個人投資家目線の読書録

無人島、研究と冒険、半分半分

川上和人 東京書籍 2023.9.10
読書日:2023.11.18

人の手がまったく入っていない文字通り手付かずの無人島、南硫黄島での10年ごとの生物調査に赴く研究者たちの奮闘の記録。

この本に書かれているのは2007年と2017年の調査であるが、わしは2017年の調査の様子をNHKのドキュメンタリーで見ている。なので、南硫黄島の状況はなんとなく理解している。

やはり、浜がほとんどなく、海から垂直な崖がいきなり立ち上がっている独特のフォルムが印象的で、調査のためには崖をロッククライミング並みに登らざるを得ず、本当に研究に来ているのか登山に来ているのか分からない状態である。

というわけで、新発見が続出して研究者にとって垂涎の的である南硫黄島であるが、科学的な興味のない人にとっても、そもそもどんな準備をして、どんなふうにして調査を行うの? という冒険的な視点から興味が尽きない。

興味深かったのは、研究者は登山の専門家でないから、登山ルートを切り開くための専門チームがいることだ。岩場にはロープを張り、ルートに草が生えていればナタを振るうなどの準備をする。さらに水や食料などを運搬する担当でもある。帰るときにはすべて撤収する作業も行う。ものすごい重労働である。

彼らはなぜそんな重労働を引き受けるのだろう、と思っていたら、登山家にとっても南硫黄島は魅力的なのだった。何しろ、登ろうと思っても気軽に登れないのである。そもそも島自体が立ち入り禁止に指定されているから、登ろうと思ったら調査に加わるしかない。なので、わざわざ時間を作って調査に加わっているのである。

この辺なにか既視感があるなあ、と思ったら、「酔いどれクライマー 永田東一郎物語 80年代 ある東大生の輝き」の永田東一郎が南硫黄島に登頂していることを思い出した。どうもこれは1982年の調査のときらしい。いやもう、本当に半分冒険にならざるを得ないのだ。

www.hetareyan.com

南硫黄島の調査では、外来種をいっさい持ち込まないための処理が必要で、上陸前に種や胞子などが付着していないように落とすのはもちろん、直接ボートで上陸するのではなく、わざわざウェットスーツに着替えて、一度海に入って上陸するという入念さである。それだけでなく、大便もすべて持ち帰る。大便のなかにたくさんの生物が含まれているからだ。(小便はいいらしい。)

それからやはり食べ物の話が豊富で(笑)、2007年のときには食べられればいいという感じだったが、2011年の東日本大震災のあとでは保存食のレパートリーが格段に良くなったそうだ。でも、2017年の調査では、甘い系の食料ばかりでしょっぱい系の食料が入っていなかったとか、カフェインがだめな著者だったが、カフェインレスのハトムギ茶がそうそうに無くなったとか、反省もいろいろあるらしい。

2007年では全員が最初から最後まで島に上陸するスタイルだったが、2017年では船に滞在して必要なときだけ上陸するというスタイルに変えた。その結果、船でコックの作った本物の食事が取れるようになり、またクーラーの入った部屋でくつろげるようになり、格段に快適さが増したそうだ。

著者は鳥の専門家で、2007年の調査で鳥に関してはすべて調べ尽くした、と確信していたのだが、2回めの2017年に上陸してみると、またしても新発見が相次いでしまい、反省したそうだ。とくに2017年ではドローンによる高精細画像の撮影が可能になり、実際に行けないところに鳥が営巣している様子とかが確認できたそうだ。技術の進歩が新発見を促すのだ。

著者専門の鳥に関する興味深い話も満載だけど、省略(笑)。なお、著者はフィールドワークは得意だけど、実験は不得意らしく、サンプルは集めても科学的分析は丸投げタイプだそうです。なるほど。

体力が必要だから、研究者も若手が中心になり、しかも10年ごとの調査であるから、30代で参加しても50代で引退となり、計3回しか行けない。著者は30代で参加したけど、2回目ではもう全体の責任者を引き受けている。そして毎回、研究の引き継ぎを念頭に置いてメンバーを選ばなくてはいけない。10年後に自分が参加できるかどうかわからないのだから、若手に経験させておかないといけないのだ。ただしフィールドワークが専門の著者は、次の調査にも加わる気は満々である。

ぜひ、次の調査でも本の出版をお願いしたい。

★★★★☆

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