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依存症と人類 われわれはアルコール・薬物と共存できるのか

カール・エリック・フィッシャー 監修・松本俊彦 訳・小田嶋由美子 みすず書房 2023.4.10
読書日:2023.7.6

本人のアルコール依存症との戦いを交えて、アメリカの依存症対策の歴史を述べた本。

なんかアメリカの政策って極端すぎる気がする。アルコールについては異常に厳しかったりする一方、化学的に作られた新しい薬物に対しては案外寛容だったりする。そして依存症になってしまった人にたいしては、本人の意志の強さの問題として放置するか、逆に厳しく取り締まる傾向が強い。病気というよりも道徳の問題として取り扱おうとする。この結果、麻薬依存症のひとを犯罪者として取り締まる傾向のほうが強い。他国でやっているような依存症を悪化させないように維持、コントロールしながら治療していくという発想がない。

そこに人種差別も絡んで、白人の場合は助けるべき病気で、他の人種、特に黒人に対しては、意志の弱いろくでなしと対応したりして、対応もまったく均一ではない。

一方では、新しい方法、例えばAA(アルコホーリク・アノニマス)のような依存症の患者のコミュニティを作ってその仲間意識で依存症を乗り越えようとする。この方法は昔からあるものだが、マニュアル化してどこでも大規模に実施できるようにしたことが新しく、革新を起こしたりしている。

また依存症が起きる科学的な解明から、薬による治療法の方法の開発まで非常に先進的でもある。ほとんどの新しい治療薬はアメリカから出ているという。一方では、そういう先進的な治療は従来のAAなどの人たちからはライバル視されて、ロビー活動されてその新しい治療薬の使用が極端に制限されていたりする。

この新しい治療薬というのは例えばメサドンだ。メサドンははじめて薬物の受容体に働きかけ、受容体に麻薬が働きかけることを阻害する薬らしい。つまりある意味で、メサドンはとても弱い麻薬なのだ。だがヘロインとは違って、多幸感も起こさないし、幻覚も起こさないし、しかも一度処方すると24時間以上長続きし、さらに毎日使っても問題ない。

このようにうまく使えばとても効果があるのだが、麻薬で麻薬を制するという点が攻撃されて、非常に使用が厳しい薬品になってしまった。その辺を著者はとても残念がっている。

まあ、アメリカの政策は良くも悪くも、ともかく極端から極端で幅広いので、他の国から見ると、まるで実験場のような国だ。他の国はアメリカの実験の結果を参照して、いい所取りができる。

最近、分かってきたような、脳科学報酬系回路の内容についても、この本では述べられているが、どちらかというと、社会が依存症とどう付き合っていくかという部分がこの本の主眼だ。

依存症は人類からは取り除くことができず、ずっと付き合っていかなくてはいけないものという認識のようだ。そうであるのなら、完全に禁止するのでもなく、寛容すぎるのでもなく、その中間の対策で、うまく付き合っていくのがいい、ということになるだろう。

この本によれば、アルコールにせよ、薬物にせよ、7割ぐらいの人は自力で依存症から抜け出すそうだ。人類はなかなか強い。

扱っている依存症はアルコールと薬物に関することがほとんどで、セックスやギャンブルなどの行動系の依存症についてはほとんど述べられていない。ちょっとそこが残念だ。

そういう行動系の依存症も含めると、誰もが何らかの依存症といってもいいし、最近流行りの言葉を使えば、幅広いスペクトルがある症状で、どこから病気でどこからまともなのか、そのしきい値は存在しないのだろう。遺伝か環境かというおなじみの議論もあるが、どちらの影響もあるのだろう。まったく遺伝が関係ないとも思えないし。

著者は、依存症関係の医者のくせに自分が依存症になってしまった。医者は自分で薬が処方できるせいか、依存症になることが結構あるようだ。しかし、ここで強調しておきたいのは、白人の医者というエリートである著者は、まわりから十分サポートを受けられたということである。本人も言っているが、同じことが黒人に起きたら、人生を転落していただろう。著者は自分がアルコホーリクであることを認めたときに酒を断つことができたのだそうだ。

人類の3大依存症物質でるアルコール、タバコ、カフェインは巨大産業化しており、ずっと存在するだろう。それを扱っている企業は、あまりにも強力で、そのような薬物は文化であり適度に接種するだけなら人生を豊かにする、と主張し、ロビー活動も啓蒙活動も活発だ。あれだけ広告を出せば、マスメディアも厳しい意見は出しにくいだろう。

わしはアルコールは飲めないし、タバコは嫌いだが、間違いなくコーヒー中毒である。1日コーヒーが飲めないと、とても落ち着いていられない。だから、コーヒーが飲めないような辺境の旅行は無理であろう。国内の旅行へ行くときもドリップタイプのコーヒーは何袋か持っていくようにしているくらいだ。宿によっては夜になるとカフェも閉まり、身の回りからコーヒーが無くなる可能性がありますからのう。そんなわしは、コーヒーは依存症の薬物だから禁止すると言われれば、強力に反対運動をおこすだろう。同じように、アルコールとタバコを常用している人は、反対するだろう。

というわけで、3大依存症薬物はなくなる可能性はないから、やはり、人類は依存症となんとか付き合って行かざるを得ないようである。

ついでにいうと、わしは自分ではやらないと思うが、大麻は自由化してもいいんじゃないかと思っている。なんか日本の大麻に対する対策は厳しすぎるんじゃないだろうか。

★★★★☆

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