ヘタレ投資家ヘタレイヤンの読書録

個人投資家目線の読書録

人間がいなくなった後の自然

カル・フリン 訳・木高恵子 草思社 2023.5.4
読書日:2023.7.2 

いろいろな理由で人がいなくなった廃墟を訪ねて、自然が回復していく様子を記した本。

子供の頃、空き地があると、そこに植物がどんどん育っていくのをよく観察してしていた。最初はもちろん雑草だらけだけれど、空き地の中には何年もそのまま放って置かれている所もあり、そうすると空き地には木まで生えてきて、けっこう大きく育つこともあった。

わしは植物や動物の名前を覚えることに興味がないので、どういう植物や動物がそこにいたのかここでいうことはできないが、この本の著者のカル・フリンはたくさんの固有名詞をあげていて、それだけでも大変なことだなあ、という気がする。

そして、廃墟である。

人間がいなくなると、速やかにそこには自然が侵入して、あっという間に廃墟になってしまうのだという。建物自体は最初はなかなか朽ちないけれど、屋根や壁に隙間ができると、そこから雨が侵入し、そこまで行くとあっという間だそうだ。

世の中はちょっとした廃墟ブームになっていて、廃墟となったリゾートホテルや工場を訪ねる動画なんかが人気になっている。わしは何年か前に鬼怒川の星野リゾートに泊まったけど、鬼怒川を挟んだ反対側には大きなホテルが林立していた。わしはそっちのほうが安かったのではないかと思ったが、妻によれば、反対側のホテルには廃墟となっているものもあると聞いてびっくりした。

日本では人口が減っているから、今後は地域ごとに消滅していくような例もあるだろう。そうすると、興味深いのはひとがいなくなった後の町がどうなるかである。この本ではデトロイトの様子が描かれている。

デトロイト自動車産業の町で、人口は最盛期には185万人だったが、工場がなくなると67万人と3分の1にまで減少した。すると、広大な都市を維持するのが難しいから、郊外から順番に人がいなくなり廃れていく。いまではその地域に思い入れのある人だけが頑固に残っているのだ。面白いのは、残った人たちは、隣の人がいなくなっても、その建物や庭などをまるで住人がいるかのように維持しようとしていることだ。隣が廃墟となって、自分の家まで取り込まれるのを防ごうとしているかのようである。

こういう廃墟となった住宅地も趣があるかもしれないが、けっこう危険である。このような人がいなくなった家は不法侵入者が住み着くし、犯罪の温床にもなりかねない。だから自治体により取り壊され、更地になる運命にある。そうすると、広大な平地が出現する。そこはいずれ自然が復活し、森になるのだろう。

かつての工業地帯であった、米ニュージャージー州のパターソンの様子も興味深い。パターソンは半分森となった廃墟の都市だが、そこには他人からの干渉を嫌うリバタリアンのような人が住み着いている。もちろん行政サービスはまったく期待できない。自分の命を守るのも自分しかいないから、武器の所有が必須のようだ。

こうした廃墟巡りが高じて、著者は原発事故が起きたウクライナのチョルノービリ(チェルノブイリ)まで行っている。そこはいまだ放射能が残り、住むことが禁じられているが、かつて住んでいた人が危険を覚悟で、故郷に戻って生活している。故郷で人生をまっとうする気でいるわけだ。

人間がいなくなったチョルノービリは動物天国となっている。こうした人間のいなくなった土地は、絶滅危惧種のオアシスになっている。動物は放射能などを気にしない。子孫を残せるまで生きていられれば十分なのだろう。似たような例として水爆実験で壊滅したビキニ環礁は、いまでは魚の天国になっているそうだ。

こうした例は国境地帯にもある。例えば、韓国と北朝鮮の間には軍事境界線があり、その数キロの間には非武装地帯で人が入ることは禁止されている。そこにはやはり絶滅危惧種の生物の宝庫なんだそうだ。面白いのは、こういう例は昔からたくさんあったそうで、アメリカが独立した頃、生物学者が国の野生動物の調査をしたとき、西部は野生の動物がたくさんいたのに、ネイティブの人達は飢えていたという。なぜネイティブが動物が豊富なところに行って動物を狩らなかったというと、そこは別の種族との境界になっていたから、面倒を起こさないように入らないようにしていたんだそうだ(笑)。

というわけで、人がいなくなると、急速に自然が回復する。人口が減っているところでは森が回復しているが、それにより地球全体では熱帯雨林の減少をかなり補っているようだ。人口が増えているワールドサウスでは自然は減っているが、人口が減っていく傾向のあるワールドノース(?)では自然が大幅に復活しているわけだ。この復活は地球温暖化の計算にどのくらい盛り込まれているのだろうか。

もちろん、日本でも人が減少したところから順に自然は復活するだろう。あと数十年で、日本の自然を巡る景色は、地方を中心に大幅に変わるのではないだろうか。

著者のカル・フリンは女性のようだけど、人がいないような廃墟に行って怖くはないのだろうか。もっとも、人が少ない廃墟のほうが都市部の犯罪が多発している危険地帯よりも安全なのかもしれない。彼女によれば、一番怖かったのは、無人島となったスコットランドのスウォナ島でひとりで一泊したときだったそうだ。怖くて眠れなかったという。その島では人がいなくなった後、かつての家畜の牛が野生化しており、危険なんだそうだ。

★★★★☆

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