ヘタレ投資家ヘタレイヤンの読書録

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ユダヤ人の独自性 「善と悪の経済学」を読んで感銘を受けたこと

トーマス・セドラチェクの「善と悪の経済学」を読んで感銘を受けたことに、ユダヤ人の独自性がある。

わしはもともとユダヤ人は独自性があると思っていたが、そこは宗教の一神教における神との関係に限定されると思っていた。つまり、次のようである。

ある時まではユダヤの神、ヤハウェは他の民族の神と同じように、ユダヤ民族の神でしかなかった。つまり多神教の世界の神の一人でしかなかった。ところがバビロン捕囚によりユダヤ人が奴隷の身分になったとき、多神教の世界観ではユダヤの神ヤハウェはバビロンの神マルドゥクに負けたということになる。この精神的危機を回避するために、ユダヤ人は他の神を一切否定する一神教の道を選んだ。そして全能のはずの神がなぜ自分たちを苦しめるようなことをするのかということを説明するために、神との約束を破ったからだと説明を作り出し、ここに神との約束を守ることによってユダヤ国家を再建する律法中心のユダヤ人社会が誕生したという。(「人類はなぜ<神>を作り出したのか」参照)

ところが、セドラチェクが言うには、こういう逆転的な一神教を創り出す以外にも、ユダヤ人にはいろんな部分で独自性があるのである。この部分は非常に説得力がある。では、セドラチェクのいうユダヤ人、ヘブライ文化の独自性を見ていこう。

(1)都市より自然を楽園と考える
もともと、聖書にヒツジやヤギの話が多く出てくることからわかるように、ヘブライの人々は遊牧民だった。まずこの出自がそもそもバビロンやエジプトなどと違うのである。

バビロンやエジプトはすでに都市が発達し、住人は都市に住んでいた。文明はこうした人が集まっているところで発達する。だからメソポタミア文明とかは都市文明なのである。世界最古の物語、ギルガメッシュ叙事詩メソポタミア都市国家ウルクの物語である。ここでは都市が文明の証であり、都市の外は野蛮な世界だった。都市の外からきたエンキドゥは悪だったのである。

ところが、ユダヤ人はもともと都市に住んでいた人たちではないから、都市生活を否定するようなところがある。ユダヤ人にとって楽園とは自然にあふれた、都市の外の世界にある。創世記のアダムとイブが住んでいたような世界だ。ある意味、反都市、反文明なのである。

たぶん、ユダヤ人以外にもメソポタミアの周辺の民族は反都市的、反文明的だったのかもしれないが、彼らはその考えを文字として残さなかった。だが、彼らのほうが長い間人類の本流だったのである。ユダヤ人はたぶん世界初の自然志向、反都市的発想を文字に記した民族ということになる。

ユダヤ人が自分の都市を作るのは、ずっとあとの時代であり、最初はそうではなかったのだ。

(2)直線的な時間の流れと進歩の概念
聖書は天地創造から始まって、アダムからすべての世代が記録に残され、時間が直線的に流れている。これが画期的な発想だとセドラチェクはいうのである。

どういうことかというと、これまでの古代人の時間感覚は循環的なものだった。つまり、1年は季節が巡ってもとに戻る。生と死も巡る。全ては循環して繰り返すという感覚だったのである。ところがユダヤ人は、ここに初めて直線的に流れる時間、過去→現在→未来、という時間の流れというものを導入したというのである。

直線的な時間の中では、未来は過去と同じではない。変化があるということにある。つまり、発展する。ユダヤ人の意識の中では、社会は時間とともに発展し、メシアの登場で頂点を極めることになっている。ここに進歩という概念が導入された、とセドラチェクは言うのである。「直線的な時間」、「進歩」というと、わしらにとってはまったく普通の概念だが、ユダヤ人が最初にそれを考えた(あるいはそれを記した)ということになる。うーん、そうだったのか。

(3)神格化されない現実的な人間や自然
聖書に出てくる人々は、ほとんど現実的な人間である。これがどんなふうに画期的かというと、これまでの神話のヒーローは半神半人だった。ところが、旧約聖書に出てくる人は普通の人間である。国王などの為政者も神格化されず、普通の人間である。しかも普通のヒーローではなく、運命に苦しむヒーローである。

ユダヤ人は自然志向ではあるが、自然も神格化していない。そもそも、神は自然を人間に与え、その世話を命じている。人間は自然を自由にしていいものなのだ。それまでの自然を畏れていたような感覚はユダヤ人にはない。これもそもそも自然の中で生活してきた人たちだからだろうか。

というわけで、ユダヤ人というのは、逆転させたのは一神教だけでなく、古代人の感覚そのものを全く反対に変えてしまったような意識を持つ民族ということになる。

なんかユダヤの人ってすごくないですか?

 

 

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