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個人投資家目線の読書録

ビーバー 世界を救う可愛すぎる生物

ベン・ゴールドファーブ 訳・木高恵子 草思社 2022.2.2
読書日:2022.4.7

かつて北米やヨーロッパに多数存在して水の保水や湿原の形成に貢献していたビーバーを復活させて自然環境を回復させようとする、ビーバー狂の人たちの熱意と奮闘を描いた本。

わしはアメリカにはビーバーがあふれているのだとずっと思っていた。なにしろ子供の本にも出てくるし、野生動物系のノンフィクション番組ではビーバーを何度も見たことがあるから。

ところが、アメリカではビーバーは絶滅寸前だったということを初めて知った。

というか、アメリカの歴史上最初の輸出品、このころはもちろんイギリスの植民地だったのだが、それがビーバーの毛皮だったということも初めて知った。このときの貿易会社がハドソン湾会社で、五大湖をつなぐ交易航路も、毛皮の取引のために開かれたようなものだったらしい。

このころ、アメリカの川という川にビーバーが大量に暮らしていたが、ビーバーを捕る猟師たちがビーバーを求めて遠くへ遠くへ旅をして、ついにはシアトルやサンフランシスコなどの太平洋側まで達したという。こうした毛皮ハンターの様子は、ディカプリオ主演の映画「レヴェナント:蘇りし者」で描かれているという。(わしは未見)。

こうした毛皮ハンターはビーバーを捕り尽くし、ビーバーがいた湿地帯は肥沃な大地に変わり、農業が行われた。こうなるとビーバーは害獣扱いとなり、見つかると直ちに駆除される存在になった。また牛の放牧が行われると、牛が草だけでなく木も食べ尽くしてしまうため、ビーバーの必要な木(食料にもダムの原料にもなる)が育たなくなり、ビーバーがいなくなってしまう。同じことはオオカミを駆除した結果、アカシカが増えたときにも起こり、シカが木を食べ尽くした結果、ビーバーが激減することになった。ビーバーは結局、有蹄類(ウシ、シカなど)と相性が悪いのである。

この結果、何が起こったかというと、川は氾濫しなくなってせき止められず、勢いのある流れが大地をけずり河岸ができた。するとますます氾濫しなくなり、水はすぐに海に行ってしまい、草が生えない乾燥した大地が広がった。そして地下水が補充されにくくなり水位がさがり深くなり、木の根も水に届かず枯れてしまった。また土砂が堆積せずに土地は痩せていった。

最近、増えすぎたシカを減らすために、ロッキー山脈にオオカミが再導入されて、シカの数がコントロールされるようになった。同じように、ビーバーも再導入する試みが行われており、湿地帯が蘇るなどの大きな効果が得られているところもある。

ビーバーを再導入すると発生する問題は、ビーバーが作ったダムにより水が氾濫して、道路や線路が冠水してしまい使えなくなってしまうことだ。こうなると、ビーバーを嫌いでない人でもビーバーを駆除しなくてはいけなくなる。これを避けるために、最近はフローデバイスという技術が発達していて、水がたまりすぎると逃がすような装置を設けることで、道路などへの氾濫を避けられるようになっているらしい。

ビーバーはせっせとダムを補修するが、ビーバーは頭があまり良くないらしく、ダムから離れたところに水の取水口を設けると、そこの入り口を塞ごうとはあまりしないらしい。取水口はケージに囲まれてビーバーが入れないようにして、取水した水はパイプで下流に流される。フローデバイスは1、2年に1回ぐらい取水口の掃除をするだけで、低コストで問題を解決できるという。

ビーバーはまだ害獣という印象が強いので、再導入の際に住民から反対運動が起こることが多いという。反対者の多くが川で釣りをする人だという。ビーバーが魚を獲ってしまい、マスなどの魚がいなくなってしまうというと考えるからだ。これはビーバーが草食であることを知らないからで、ビーバーはヤナギなどの木を食べるのだそうだ。(肉食のカワウソと一緒にされているらしい)。それどころか、ビーバーのダムは稚魚の保育所になって、魚を育てるので釣り人の味方なのだ。もちろん、ビーバーがダムを作ると、周辺の植生が蘇り、昆虫や鳥も増えるという。

ヨーロッパでもビーバーを再配置する運動が広がっているという。なお、ヨーロッパのビーバーとアメリカのビーバーは種類が違っていて、子供はできず、交雑の心配はないそうだ。イギリスはアメリカと同じように、ビーバーが絶滅してしまっていて(アングロサクソンは徹底的に自然から搾り取る体質らしい)、北欧やバルト三国あたりからビーバーを連れてきているらしい。

まあ、そういうわけで、ビーバーに惚れ込んだ著者のビーバー狂たちの話ですが、わしも個人的に北米の乾燥化、地下水の枯渇に多少とも心を痛めている身ですので、ビーバーでもなんでも導入して、環境を改善してほしいものですねえ。ビーバーには興味はありますが、とくに好きな動物でもないので、著者のビーバー熱にはちょっと苦笑です。

ところでビーバーはかつて世界中にいたらしいのだが、日本にもいたのかしらね。聞いたことないなあ。

(2022.4.10 追記)
気になったので、ディカプリオの「レヴェナント:蘇りし者」をアマゾン・プライム・ビデオで観てみた。まあ、確かにインディアンの襲撃を恐れながらビーバーの皮を捕る毛皮ハンターたちの様子が描かれています。お話は基本的には息子を殺されたグラス(=ディカプリオ)という男が、クマに襲われ怪我をして何度も死にかけながらも復讐をする話なんだけど、見どころは大自然のなかで手負いの主人公がサバイバルするシーンであり、生きようと格闘するその姿には復讐劇なんて霞んでしまう。娘を奪われたインディアンの追跡劇もあるけど基本的にはなんの関係もなく、そもそもこの時代にする必要性がまったく感じられなかった。映画の中ではCGと思われる野生動物たちが多数走り回っていました(笑)。ディカプリオを襲うクマももちろんCGでしょうね。野外撮影とスタジオ撮影部分の境目がまったくわかりません。ぜんぶスタジオだったりして(笑)。

★★★★☆

(参考:イギリスでビーバーを導入しようとして反対される話がでてきます)

www.hetareyan.com

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