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掃除婦のための手引書

ルシア・ベルリン 訳・岸本佐知子 講談社 2019.7.8
読書日:2022.11.25

高校教師、掃除婦、電話交換手、看護婦などをしてシングルマザーとして4人の子供を育てつつ、アルコール依存症に苦しんだ、ルシア・ベルリンの自分の人生を題材とした私小説

実際に起こったことを題材にフィクションを創ることをオートフィクションと言うのだそうで、ルシア・ベルリンの作品はその典型なんだそうだ。つうか、日本人なら単にそれを私小説と呼ぶだろう。

この本ではルシア・ベルリンの子供時代から初老の頃までのほぼ一生に渡る、そのときどきの話を描いたものを集めてあり、一冊読めばルシア・ベルリンはこんな人生を送ったんだなあ、ということが何となく分かるような構成になっている。

この辺が私小説の凄さなのか、一話一話は短いんだけど、読んでいると彼女がじわじわ自分の中に入ってくる。なんとも、この浸透力、半端ない。

でも、それはあんまり愉快というものではない。なぜなら、彼女のぽっかり空いた心の空虚さというか、寂しさというか、孤独というか、そういうものがそのまま入ってきてしまうから。でも、そんなむき出しの心に触れていると、癒やされる面も確かにあると言えばある。この辺がこの作家の魅力なんだろうな。

そんな空虚さを埋めるのは、お酒しかなかったんだろうか? アルコール依存症から抜け出すためのデトックスの話がたくさん出てくる。そして、彼女だけでなく、母親も祖父もアルコール依存症だったようだ。そういう家系だったとしか言いようがない。

アルコールが切れた朝、こんな早朝の時間に酒を売っている店は限られるので、高い代金を取っていて、ぼられるのだが、なんとか家中からそれだけの小銭を集めて酒を買いに行く話がある。悲惨な状況なのかもしれないが、なにか乾いた笑いのようなものがある。

アルコール依存症になってもアルコールが入っているだけの酒を欲しがるのは、まだ程度が軽いんだそうだ。行き着くところまで行くと甘い糖分がたくさん入ったお酒が飲みたくなるという。そんななまなましい話も出てくる。アメリカでは甘くて安いワインが売られていて、それを飲むようになると、その域に達したということらしい。へー。

まあ、外側からの乾いた目で表現してくれて、笑いもあるので、べつに湿っぽくはないんだけど、そのせいで彼女の寂しさがより際立っているような気もしないでもない。

写真を見る限り、彼女は小柄で美しい人だったようだ。きっともてたんだろうね。でもお嬢様ではない。彼女がいるのは下町。彼女はとても頭が良かったようだから、どんな仕事も手際よく片付けたんだろうね。亡くなった人の家を掃除するのは数時間で終わると言ってる。

ルシア・ベルリン、ありそうで、なかなかないタイプの作家なのかもしれないなあ。

父親は鉱山技師で彼女はアラスカで生まれている。(母親が結婚のためアラスカに船で旅立つ話がある。)

北米のあちこちの鉱山の町を点々とし、ときには歯科医の祖母ともエルパソの貧民街で一緒に暮らしたらしい。(祖父が自分の歯を全部抜いて義歯に変える話があるが、本当にあったのかしら)。

けっこう上流の私立学校に行くこともあったようだが、全く馴染めずに、孤立していたようだ。(そもそもプロテスタントの家系なのにカトリックの学校なので合わないのだが。ここでは生徒間の関係もそうだが、先生との関係もかなり微妙)。

チリの鉱山に勤めることになった父に従って、チリに行き、ここでは豪邸で女中に囲まれて暮らしていたらしい。(なぜか変な共産主義の女教師がいて、デモに参加する話がある。)

その後、ジャズミュージシャンなどと結婚、離婚を繰り返しているが、自分の不倫の時の話をそのまま書いてる。

シングルマザーとして4人の子供を教師、掃除婦、電話交換手、看護師をしながら育てる。(初めての家を掃除するときに自分を優秀に見せる方法は、わざと物を少し動かしてやった感を出すことだそうだ、(笑))この頃、アルコール依存症になる。

メキシコにいる妹ががんに罹って、その最後の面倒をみる話がある。著者は妹のほうが母親の愛を受け取っていると思っていたらしく、そのことが何度も出てくる。

やがて刑務所で小説の書き方を教えるようになる。(受刑者が創作をする話が出てくる)。

で、最後はコロラド大学で教えるようになり、准教授までなったそうだ。

★★★☆☆

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