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欲望の資本主義3:偽りの個人主義を越えて

丸山 俊一, NHK「欲望の資本主義」制作班 東洋経済新報社 2019年6月28日

読書日:2019年8月28日

~やめられない、止まらない~

わしはNHKの「欲望の資本主義」シリーズのファンで、テーマ曲がヴィム・ヴェンダースの映画「 ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち」からきていると聞いて、その映画も観てしまったくらいである。(確かに使われていたが、ただそれだけのことだった。なお曲名は三宅純の Lillies of the valley)。

今回の欲望の資本主義3では、GAFAなどの巨大IT企業、暗号通貨とブロックチェーン、AIといったキーワードを交えつつ、資本主義と個人の自由について考察している。

これら巨大企業や先進テクノロジーは確かにいまの資本主義に大きな影響を与えているが、どちらかというと技術的な話であり、しかもすでにAI以外はかなり先の展開が見えてきているのではないだろうか。

例えばGAFAについて言うと、すでにこれらの巨大企業を規制する方向に向かっているのは間違いない。1章でギャロウェイが言うように、SNSやいいねをクリックするのは労働であり、GAFAはひとをただで働かせて利潤を搾取している、という言い方でもいいし、個人のデータでお金儲けをしているくせにまったく社会に還元していない、という言い方をしてもいいが、ともかく今やGAFAは責められる一方なのであり、それが個人情報に関する規制に留まるのか、特別な税を設定するのかは別にして、10年後、20年後にはGAFAの力はかなりそがれていると思う。

暗号通貨も今後の展開はかなり読めてきたように思う。いまのままでは法定通貨を駆逐するには及ばないだろう。この本に出てくるホスキンソンは、世界の貧困層に金融サービスを提供できると高く評価しているのだが、わしは補助的な役割にとどまると思う。たぶんブロックチェーンの技術もいまのままでは、処理能力の遅さもあり、政府や銀行などの組織からユーザを開放するほどではないと思う。

AIについてだけは、まだ展開が予想できない現在進行中のものである。今後の展開がどうなるか分からないが、わしの予想ではきっとひっそりと社会に溶け込んで、人間には認識されない存在になるのではという気がしている。つまりAIが見えなくなることで、AI問題(AIが人間にとって代わる、特に仕事を奪う)という問題自体が溶けて消えるのではないかと予想している。

そういうこともあって、1章から3章ぐらいまではあまり面白くなかった。なので、わしががぜん興味を持ったのは、4章のハラリの文明論的な視点と、5章のガブリエルの哲学の話だった。

ハラリは相変わらず冴えていて、完全な自由では社会は崩壊してしまう、規制(ルール)が必要、などと当たり前のことを再認識しさせてくれる。資本主義が今後どうなるかについては分からないが、今とは違うことだけは確かだという。

哲学者ガブリエルの話は、TVで見たときにはさほど印象が残らなかったのだが、本で読むと、この5人のなかでは最もエキサイティングだった。哲学の方向から見ると、同じ問題でも少し違った見え方をするようだ。

真のAIは存在しない、とか、人々を支配しているのは機械の背後にいる誰かだ、とか、ソーシャルメディアはカジノだ、とか、ちょっと他ではお目にかかれない刺激的な言葉に溢れている。彼は優秀なコピーライターなんだろうか? ガブリエルの著書「なぜ世界は存在しないのか」を読まなくてはいけないと強く感じた。

(もっともこの題名だけからどんな論理展開なのか、ちょっと予想がついてしまったのだが。脳内イメージで作っている現実は実際には現実ではないと言いたいのでは?)

ガブリエルの言葉をいくつか記録として残しておく。なお、言葉は本に書いてあるままではなく、わしの解釈を入れています。

・真のAIはない:AIは一定の時間機能する電気回路に過ぎず、人間が使わなければすぐに壊れる。つまりAIは人間に依存しており、本当の意味で、自分で自律的に学ぶ知能ではないということ。

ソーシャルメディアはカジノだ:人々はいいねを押すことで賭けをしている。ソーシャルメディはその賭けから得られる利益のほとんどを吸い取っているカジノの胴元のようなもの。

・「真実が存在しない」というまやかし:フェイクニュースが蔓延し、「真実が存在しない」かのように振る舞うことで、社会がごまかし放題になり、社会が存在する前の自然状態に戻ってしまった。(正しい情報よりも、誰かが言った意見のほうが蔓延する状態をポストトゥルースとガブリエルは呼んでいる。)

・哲学は考え方を変えることで世界を変革する:マルクスは書斎で解釈を本に書くことで世界を変えた。哲学者はアイディアで世界を変えられる。

★★★★☆


欲望の資本主義3―偽りの個人主義を越えて

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