飯田一史 平凡社 2023.6.15
読書日:2024.1.22
2000年代に入ってから中学生の読書は増えており、読書離れとは言えない状況であり、さらに読書の内容も以前と異なりラノベ中心ではなくなっていることを報告した本。
読書が急回復している背景は、「朝の読書」などの読書運動の成果なんだそうだ。きっかけは、OECDの学力調査で日本の子どもの読解力の順位が8位まで落ちて、その原因が読書量が少ないことだったかららしい。
このような国際比較があると途端に、なんとかしなくては、ということになるのが日本なので、読書運動が盛り上がって、その結果8割以上が本を読み、読書量も増えて、読解力の順位も回復したらしいので、まあ良かったわけです。
で、この調査は15歳が対象、つまり中学生が対象だったので、どうも高校では読書運動はなされなかったそうで、高校生の読書率は50%で従来と横ばいだそうです。
とはいえ、もともと昔から日本の大人の読書する割合は50%程度だったそうで、単に日本の一般的な傾向に収斂しただけだそうです。
というのが、読書量に関する一般的な話なんですけど、どんな本を読んでいるのかという点に関しては、実はへーということの連続でした。これには日本の出版業界の動向と強く結びついている部分があり、なかなか興味深いものがあります。
わしも中高生の読書ってラノベ中心なのかしら、と思っていたところがあるのですが、ラノベはそれほど読まれていないのだそうです。その理由は、ラノベはいまでは対象が20代に上がっていて、中高生が読むには難しい内容になっているからだそうです。対象年齢が上がった理由は、小説投稿サイト「小説家になろう」から出た「なろう系」の小説がラノベで席巻しており、このサイトの利用者が20代以上だからなんだそうです。なるほどねえ。
その反対に、通常は小学生で卒業するような児童書が中学生になっても読まれているらしい。これは児童向けのレーベルに、マンガやアニメのノベライズが含まれており、それに引っ張られている可能性があるのだそうだ。
そしてボカロ小説というものも読まれているそうだ。これはもともとは初音ミクなどのボーカロイドを使った曲を原作にした小説だそうで、それが最近では、ボーカロイドと関係なくボーカロイド曲の制作者(ボカロP(プロデューサー)というらしい)が考えたキャラクターを使った作品という、なんとも2次創作のさらに2次創作みたいなものが出回っていて人気なんだそうだ。もうわけがわからん。
そして一般文芸も太宰治の「人間失格」など、それなりに読まれているが、ミステリーが多いようだ。夢野久作の「ドグラ・マグラ」なんかも入っている。
短い短編も人気で、これは朝読なんかの短い時間で読み切れるからだそうだ。「5分後シリーズ」なんかがあるという。5分間で結論が出るわけだ。
わしが読む本はほとんどノンフィクションであるが、中高生の読む本はほとんど小説でノンフィクションは少ないのだそうだ。よく読まれているノンフィクション本は「空想科学読本」のシリーズ。これは、大人のわしも読んだことあるなあ(笑)。
どの分野でも読まれる小説の傾向はある程度決まっていて、
1.感情が正負の方向にはげしく揺さぶられるもの
2.思春期の自意識、反抗心、本音に訴えるもの
3.読む前から得られる感情が分かり、読みやすい
というもので、具体的なパターンとしては
①自意識+どんでん返し+真情爆発
②子どもが大人に勝つ
③デスゲーム、サバイバル、脱出ゲーム
④「余命もの(死亡確定ロマンス)」「死者との再会・交流」
がうけるんだそうだ。
おそろしいことに、この①〜④が全部盛り込まれている作品があって、それが「Re:ゼロから始める異世界生活(Reゼロ)」で、なるほど確かにそうだ。(わしはアニメしか見ていませんが)。
なお、エロはまったく売上には貢献せず、むしろ入れないほうがいいくらいなんだそうです。へー。
たくさんの本が紹介されているけど、わしが気になったのは「ようこそ実力至上主義の教室へ」かな。名前しか知らなかったけど、今度味見してみましょうかしら。もちろん読むのが面倒なので、アニメの方ですが(笑)。
今後も若者の読書の傾向はどんどん変わっていくでしょうから、誰か5年後ぐらいにこの本の内容を更新してほしいなあ。
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