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個人投資家目線の読書録

いずれすべては海に中に

サラ・ピンスカー 訳・市田泉 竹書房文庫 2022.6.7
読書日:2022.8.12

音楽と不思議な言葉の結びつきから生まれる詩情あふれるフィリップ・K・ディック賞受賞のSF短編集。

サラ・ピンスカーはシンガー・ソングライターでもあり、いままで4枚のCDをリリースしているんだそうだ。そういうわけで、音楽家を主人公にした物語が2つ入っているが、これらはどちらも気持ちが入った中編作品になっている。

しかしながら、ソングライターとしてのピンスカーは、どうやら詩人としての才能も発揮しているらしく、わしにとってはこっちのほうが面白かった。なにしろわしは音楽家ではまったくないからね。

詩人というのは、言葉について普通の人と違った結びつきを思いつく人のことではないか、とわしは思っている。ピンスカーのほとんどの短編はこうした不思議な言葉の結びつきの結果生まれたもののように思えた。

例えば、表題作の「いずれすべては海に中に」では、こんな書き出しから始まる。

 ーーロックスターは満潮のときに浜に打ち上げられた。

いやー、どうです、この書き出し。この先いろいろ物語は展開するんだけど、わしは物語の前にこの書き出しが思い浮かんだんじゃないかと思うね。最初にへんてこな言葉の結びつきがあって、そこからつじつまが合うように物語を構成していったんじゃないかしら。

「イッカク」の書き出しはこう。

 ーー今までに<雑用求人>で見つけた中で最高のはずの仕事に雇われて一週間後、リネットの家の玄関前にクジラがやってきた。

これも最初にこのシーンが思いついたんじゃないかしら。物語は付け足しのようにすら思える。

そういうわけで、ちょっと意外な結びつきの物語、まあ普通は奇想と言われる類の物語が展開されるんだけど、でもこういう作風って長編ではどうなるのかしら。

どうやら長編「新しい時代への歌」も日本語訳が出ているようだけど、こっちはきっと音楽家のピンスカーだろうから、奇想のピンスカーは短編だけかしらね。でも、けっこう面白かったから長編も読んでみようかしら。

明らかに彼女はレズビアンだけど、そのへんはぜんぜん重要ではなく、なんかとても自然です。

この短編集は一気に読まず、1日に1話ずつゆっくりと読んでいきました。

★★★☆☆

 

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