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ぼくはあと何回、満月を見るだろう

坂本龍一 新潮社 2023.6.20
読書日:2023.9.27

2023年3月に亡くなった坂本龍一が、2009年の「音楽は自由だ」以降について語った回想録。

楽家と思えないような端正な文章で、インタビューだから編集者の腕もあるんだろうけど、坂本龍一の話す言葉もきっと同じくらいに端正なんだろうなあ、と思う。いろんな本を読んでいるのが明らかで、文章を書く人になっても成功したんじゃないかって思わせるところがある。しかし本人はやっぱり音楽家で、ガンの治療でまいっているときでも、音楽に触れるときは、その辛さを忘れたんだそうだ。

坂本龍一がどんな本を読んできたかについては、別の本があるらしい。その傾向をみると、わしの読書傾向とはまったく違っていますね。そうとう左翼っぽい印象。反原発のデモにも参加していますしね。

当然かも知れないけど、ものすごく多くの仕事を抱えていて、多くの仕事を並行して進めていますが、思った以上にアート系の仕事が多い。きれいに五線譜に書かれるような音楽ではなくて、そのような枠を離れた自然のなかで発せさられるゴロっとした音を収録して作品を作ったりしている。日常でもそんな傾向がある。雨の音をずっと聴いているとか。

こういうアート系の作品を発表すると、世界中からオファーが来るんだけど、なぜか日本からだけはオファーが来ないんだそうだ。日本はやはり世界と異なるガラパゴスなのかしら、って思う。

オファーがくると行ったことのない国にはけっこう喜んで行くようだ。ただし観光旅行のような旅は嫌いだそうだ。アイスランドが気に入って、何度も行っているようだけど、アイスランドの経済クラッシュについても述べていて、くわしく知らなかったのでびっくりした。(アイスランドは外国からの借金を踏み倒しました(笑)。国はこれができるんだよね)。坂本さんによれば、ニューヨークに住んでいるのは、ニューヨークが好きなだけでなく、世界中に移動するのに中心にあって便利だからだそうだ。実際には世界中を飛び回っているので、ニューヨークにいる時間はそんなに長くなさそう。

日本の学生とも話すんだけど、演奏の水準はものすごく上がっているのかも知れないけど、自分の若いときと違って尖ったところがまったくなくて、例えば最近どんな映画を見たかと聞いても、答えられない人が多くて、知的レベルでは低下しているんじゃないか、と憂慮している。まあ、世間から単に映画を見る習慣が無くなったからじゃないかという気もしますけどね。難しい映画を見ても、ぜんぜん友達に自慢なんかできませんし。

坂本龍一自身は、映画の仕事をすることも多くて、この本では「レヴェナント: 蘇えりし者」の話が印象的。監督はあらかじめ既存の音楽をシーンに当てはめており、坂本龍一の作曲が気に入らないと、既存の音楽を使おうとする。それで思わず、「トラスト・ミー!」と叫んで、自分の音楽を採用させたんだとか。

意外にサユリストで、吉永小百合から頼まれると断れなかったり、山田洋次監督とも親しくて、吉永小百合主演、山田洋次監督の「母と暮せば」の音楽をやったりしている。この2人に頼まれて断れる日本人がいるでしょうか、と言っているけど、そもそも頼まれないし(苦笑)。

山田監督が「レヴェナント」のイニャリトゥ監督の「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」を褒めた話が出てきたので、配信で思わず観てしまった。

がんに関しては、盟友のベルナルド・ベルトリッチもがんになって、ベルトリッチが仕事を中断してこっちに来い、と言っていたのを断ったら、まもなくベルトリッチが亡くなって後悔したりしている。

がんの治療のときはちょうどコロナ禍で、パートナーの空里香さんが病院に入れず、彼女が毎日夕方に病室から見えるところに立って、スマホのライトをつけながら手を振ったという話が出ていて、とてもいいなあと思いました。

★★★★☆

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