安倍晋三 聞き手:橋本五郎 聞き手・構成:尾山宏 監修:北村滋 中央公論社 2023.2.10
読書日:2023.9.2
2022.9.27にテロにより亡くなった、安倍晋三さんが、後世のために残してくれた回顧録。
なんというか、安倍晋三さんって、本当に戦略的に考えて行動する人だなあと思う。使命感に溢れた人だから、首相を終えてから回顧録を残すことが自分の使命と感じて、こうして残してくれたのだろう。なんて素晴らしい人なんでしょう。
ほとんどのことはもう知っていることばかりだったが、第1次安倍内閣と第2次の間に何をしていたのか、よく知らなかったので興味深かった。安倍さんは、市井の人々に会っていたのだ。その目的は、とつぜん政権を投げ出したお詫びをするためだった。そうした中で、人々の関心はやはり日々の暮らしにあるのだということが分かったというのだ。
もともと世界的、歴史的な巨視的な視点を持ち合わせていた人だったが、ここで微視的な視点も手に入れたのだ。そうした視点から考えたのは、財務省の増税路線は間違っているという確信だ。微視的な視点の発見を戦略に置き換えることに成功したのだ。これは素晴らしいことである。アベノミクスの誕生だ。
アベノミクスは財務省の消費税アップの計画をなんとか2回押し返して、デフレ傾向を押し留めて、日本経済をそれ以上落ち込むことを回避してくれた。世界中の経済学者が日本経済は破綻すると予言していたが、それらは間違っていた。しかし、新しい産業が誕生しなかったとか、日本経済の生産性は低いままだとか非難された。
わしはもともと新しい産業は一世代過ぎないと難しいと思っていた。つまり2020年代中頃から日本経済の新しい黄金期が始まると思っていた。(つまり、まさにいま、日本は新しい時代に入りつつある)。それまでつなぎとめただけでも大健闘と言える。そして国民一人あたりの生産性は格段に上昇していることも分かっている(生産人口が減っているのに総額では横ばいなのだ)。なにより、世界中の経済学者が21世紀の日本に起きたことをいまだにうまく説明できていないのは、愉快じゃないだろうか。
そして微視的な視点を大切にするというのは、国民の日々の生活に関する部分については、野党の政策をまるごと全部取り込んだところによく表れている。
この本で興味深いことのひとつは、たくさんの国家元首たちと直接話をして、その率直な印象を述べているところだ。
安倍晋三の外交でよく驚かれるのは、アメリカ大統領のオバマとトランプの両方ともうまく付き合ったというところだろう。どちらにせよ、日本の首相はアメリカの大統領とは話をしなくてはいけないという運命にあるが、わしが思うのにやはり、安倍晋三にはいい意味でのボンボン育ちという部分があったのではないか。なんというか、変な偏見を持たずにフラットな感性を持っている人だったと思う。
わしが気に入ったエピソードは、イギリスのメイ首相と話した内容だな。議院内閣制では政府はライバル政党ではなく身内によって倒される、とお互いに嘆いたという部分だ。議院内閣制って、本当にちょっと変わったくせのある制度で、わしもけっこう長いこと議院内閣制について悩んでいたから、気持はよく分かるなあ。
安倍晋三が生きていたら、ってやっぱり考えてしまう。もしも生きていたら、日本の困難のときにまた舵を取ってくれたかもしれない。でも、もういないし、次の時代に安倍さんが対応できたかどうかもわからない。
まあ、安倍さんがいなくても、わしは日本も、そして人類全体も、未来はもっと良くなると信じている。いつも楽観的なの。
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