村上春樹 新潮社 2023.4.10
読書日:2023.8.30
17歳のときに当時の恋人から幻想の街の存在を教えられた私は、大人になってその街で訪ね図書館で<夢読み>となるが、一方、街に入るときに引き離された私の影は現実の世界に戻り、自分が影だったことも忘れて私として生き、やがて田舎に移住して図書館の館長として働くようになる……。
いつもどおり現実と幻想が切れ目なくつながった春樹流マジックリアリズムの世界が描かれていて、まあ、確かにいろんなメタファーなんかが絡んでくるんでしょうけど、そんな物語やメタファーの意味なんて考えても仕方がなくて、ただただ村上春樹の世界、とくに独特の文体を楽しむだけでいいんじゃないか、という気がしますね。わしは村上春樹をいちおう読みますが、別に村上春樹のファンでもなんでもないので、余計にそう思います。
というわけで、特に感想もないのですが、それではあんまりな気もするので、いくつか読みながら思ったことをつらつら書きたいと思います。
やっぱり文体ですね。この文体に接すると村上春樹を読んでるなあという気がするし、どんな不思議なことが起こっても不思議じゃないという気がしてきます。きっとたくさんの作家に影響を与えたんじゃないでしょうか。なんかとっても真似したくなる。
物語の進み方ですが、まあ、感じるのは一言でいうと必然性ですね。主人公も周りにいる人も、これは必然だという強い感覚に囚われている。目に見えない強い流れがあって、自分はその流れに乗っているだけ、乗せられているだけみたいな。なんか大きな川があって、その川をたどっていて、ところどころに小さな渦ができていたり、ちょっとした滝があったりするんだけど、川全体としてはとうとうと流れているみたいな。でも、川が流れている意味自体はぜんぜんわかんない、みたいな。だから現実に起きるような困ったことは、どこからか助けが来てどれも簡単に乗り越えられてしまうんですね(笑)。
街に入るときに、私は影と引き離されるのですが、その後、影が街を出ようと主張して一緒に脱出のために川が壁に潜っている沼まで行くのですが、最後の最後で私は街に残ることにして、影だけが現実の世界に戻ります。この展開はアゴタ・クリストフの「悪童日記」https://amzn.asia/d/30BAWtLを思い出したな。こちらは国境の村にいる双子の兄弟の一方が国境の向こう側に行って、一方が残るんだけどね。
まあ、こんな程度です。
村上春樹は読んでもほとんどすぐに忘れちゃうんだよね。例外は「1Q84」。
★★★☆☆