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個人投資家目線の読書録

千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話

済東鉄腸 左右社 2023.2.10
読書日:2023.6.18

大学を卒業したものの就職しないまま引きこもりになり、膨大な映画を見て英語をマスターして未公開映画を中心に紹介するオンラインメディアを運営し、ルーマニア映画にハマってからはルーマニア語の勉強を始め、ついにはルーマニア語で書いた小説がルーマニアの雑誌に掲載されるようになった体験を書いた本。

引きこもっているくせに、やたらアクティブな人がいるが、済東鉄腸さんはまったくもってそんな人。

大学のときに失恋したことがトリガーになって、心が折れてしまって引きこもってしまったのだという。就職活動はもちろんできなかった。2015年のことである。

それまでの人生で、とくに何かをやりとげたいという意欲もなかったが、引きこもっている間、とくにすることもなかったので、ネット配信で膨大な量の映画を見ることにした。

暇なので、英語字幕で見て、知らない単語を調べたりしながら見ているうちに、英語をマスターしてしまったのだという。それまで英語力はほぼない状態だったのだそうだ。勉強として英語を学ぶことにはまったく興味が湧かないが、こういうふうに自分の興味でやる分にはどんどん進めるということらしい。

でも、これで実は自分が語学オタクだということに気がつく。

映画の方は、日本未公開の方に偏るようになっていった。これは他の人が見ていない映画を見ることが自尊心に重要だったからだ。

そこでルーマニア映画を見てすっかりハマってしまう。その記念すべき作品はコルネリュ・ポルンボユ監督の作品だそうだ(誰だ、これ(笑))。そこでルーマニア語を学ぶことにする。

ルーマニア語の教科書は数えるほどしかなかったが、こちらも現代らしく、ネットを駆使して、フェイスブックルーマニア人に友達申請をして、現地の生きた言語を学ぶなどの工夫で乗り越える。

引きこもりの間、映画とともに、図書館に通って、本も大量に読んでいる。1年に1000冊ぐらいのペースだというのだから驚く。一日2、3冊のペースで読んでいるのだ。

そうして短編を書き始め、1年に100編ほどを書いたのだという。この辺の量も圧倒的。

もちろんルーマニア文学も読み漁っている。日本語翻訳の本はもちろん、ルーマニア語原著でも読み漁り、ついには自分で書いた短編をルーマニア語に翻訳して、投稿し始め、そんなことを繰り返しているうちに雑誌に載るようになったのだそうだ。ルーマニアの文学事典にも自分を紹介する欄ができて、名実ともにルーマニア文学界の一部になったのだ。

ルーマニア研究者というのはもともと少ないので、有名な研究者と知り合いになり、本人は、研究のバトンを受け継いだ、と自負している。

いまでは他の言語の勉強まで始めているそうだ。いまだに引きこもりがちのようだが、徐々に外にも出れるようになっているようだ。いちどルーマニアに行ってみたいという希望はあるようだが、難病のクローン病を発症したので、なかなか難しいようだ。

この本を読んで、わしが思ったことは、次のようなことだ。

済東鉄腸さんは、引きこもりになったおかげで、大量の時間を手に入れた。なにかの分野で一流になるには、ともかくそれに費やす時間が必要だ。済東鉄腸さんははからずもその時間を手に入れることができた。

わしは豊かな社会とは、このような膨大な時間をすべての国民が手にいれることが可能な社会のことだと思う。ベーシックインカムでもなんでもいいけど、このような余裕を持つ社会を作らなくてはいけない。

わしは人類の未来はそのような方向に進んでいると確信している(それについてはここに書いた。衣食住が無料になる社会だ)。自由な時間を手に入れたとき、ほとんどの人は無駄なことに費やすのかもしれない。でも、それでいいのだ。過剰なくらいの無駄こそが必要なのである。実際にはそれは無駄ではない。無駄というのは、無駄と考える人の頭にのみ存在するのだ。

★★★★☆

 

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