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AI 2041 人工知能が変える20年後の未来

カイフー・リー(李開復)、チェン・チウファン(陳楸帆)、訳・中原尚哉 文藝春秋 2022.12.20
読書日:2023.6.21

グーグルでAI研究をしていたカイフー・リーが2041年のAIが世の中に広がった世界を、実際に起こり得る10の未来を予想・解説し、それに基づいて元グーグルの同僚のSFサ作家チュン・チウファンがSF短編を10編書いた本。

カイフー・リーの20年後の世界の予想は、それほど衝撃的ではなく、かなり現実的。人間を超えるような知能が出現する、シンギュラリティが起こることについては否定的だ。

わしも21世紀に入ってすぐにシンギュラリティについて知ったころは、もしかして本当にあり得るんじゃないかって思って興奮したけれど、現時点ではそれは相当難しいという気がする。人工知能のについて知れば知るほど、その限界が見えてきて、カイフー・リーが言うように、もう何回かブレークスルーが必要だろう。少なくともchatGPT程度(つまり深層学習レベル)では全く無理。

しかし、カイフー・リーは最後の10章目で、2041年を超えた遠くの世界についても展望している。やはり起こり得る20年後よりも、これくらい先のほうがワクワクする。

カイフー・リーによれば、豊穣の未来がやってくる。エネルギーは再生可能エネルギーでほぼ100%まかなえるようになっている。食品も肉などは培養できるし、農業も農場ではなく工場生産になるし、分子レベルで操作してこれまでになかった新しい食品だって作ることができるようになる。つまり、エネルギーと食料の不安がなくなる。そしてあらゆる生産は、AIの自動生産になり、配送などの物流、販売もAIが行う。

こうして豊穣の時代では、基本的な衣食住は無料になる。

この結果、カイフー・リーは経済モデルが大転換すると予想している。

まず貨幣に意味がなくなる。その代わりに出現するのは、他人に奉仕したりすることによって蓄えられる新しいポイントのようなものだ。

そういうふうにして人々が関わり合うことによって作り上げる新しい社会をカイフー・リーは夢想しているようだ。その世界が実際にどうなるのか、なかなか具体的に見通すのは難しいが、わしの思い描く未来も、カイフー・リーと重なるので共感できる。

この最後の10章以外、カイフー・リーの予想はとても現実的なのだが(つまらないとも言える)、ところがチェン・チウファンの小説の方は、結構面白いのだ。なかなかひねりを利かせた物語が展開する。物語というのはある程度枠をはめられたほうが作りやすいと言われることもあるから、現実的なカイフー・リーの予想の中でチェン・チウファンの空想力は思い切りはばたけたのかもしれない。

*****メモ*****
語られる未来の内容
未来1 ビッグデータから深層学習したAIが人間社会に与える悪影響。
未来2 ディープフェイクとそれを見抜く探知ソフトウェアの闘い。
未来3 大規模言語モデルによるAI教育。
未来4 コロナパンデミックがもし収束しなかったら、という仮の未来の世界の話。
未来5 仮想現実(VR)、拡張現実(AR)、複合現実(MR)の未来の娯楽。
未来6 自動運転と遠隔運転。
未来7 量子コンピュータと仮想通貨、自律兵器(ロボット兵器)。
未来8 AIによる大転職、失業の話。
未来9 AIと幸福(AIは幸福を学習できるか)。
未来10 豊穣の未来。

★★★☆☆

 
ちなみにチュン・チウファンは以下のSFを書いた人である。
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