ヘンリー・ジー 訳・竹内薫 ダイヤモンド社 2022.9.14
読書日:2023.4.13
地球が誕生してから6〜8億年後に生命が誕生し、進化を続けてついには人類が大繁栄し、さらに人類の絶滅までも視野に入れる、壮大な地球生物全史をたった300ページに圧縮した本。
なにか図鑑的な本をイメージしていたのだが、そうではなく完全に物語化しており、読んでいてとても面白かった。そのためにまるで見てきたかのような表現が多用されており、いちおう学術論文の根拠はあるが、著者の想像によっている部分もある。(想像で書いたところは分かるようになっている)。
たった300ページというが、これはけっこう大変だ。全ての時代に精通していなくてはいけないし、全ての時代のいまの研究成果が反映されていなくてはいけない。そんなことが可能なのかという気もするが、そこは有名な科学雑誌ネイチャーの編集者なのだから、最先端の学説には十分精通しているのだ。
たとえば、わしは例のカンブリア大爆発を世間に知らしめたジェイグールドの「ワンダフルライフ」を読んでいるが、その本では今では絶滅してしまった生物モデル(門)がたくさん登場したことになっている。しかしこの本によれば、カンブリアの生物と現在の生物との対応関係が概ね分かっているようだ。1980年代から時間が経って、研究が進んできたということだろう。
あるいは恐竜についての最近の研究、さらには最近あきらかになった人類(ホモ・サピエンス)とその親戚たちとの関係についても詳しく書かれている。
そういうわけで、全ての時代の生物についてまとめて最新の情報にアップデートできるという、きわめて効率的な本なのだ。
しかも読んでいて楽しい。あちこちにユーモアに溢れていて、巻末の注釈は必ず参照してほしい。例えば、「脊椎動物は一生にうち一ヶ所に留まって過ごす期間はほとんどない」という文章には、「猫以外」という注釈が付いていたりする(笑)。著者が楽しんで書いているのがよく分かる。
人類の未来については、数千年から数万年のうちに絶滅すると考えるのが、生物学的に妥当と考えているようだ。生物学的にはほとんど痕跡を残さないほどの短さである。うーん、まあイギリス人特有の諧謔なのかもしれないけど、でもそうなるかもしれない。確かめようはないけど。
それにしても科学の発達がこれだけ激しいと、数年後には改訂版を出さないと間に合わないんじゃないかな。
★★★★★