ヘタレ投資家ヘタレイヤンの読書録

個人投資家目線の読書録

一生お金に困らない山投資の始め方

永野彰一 クロスメディア・パブリッシング 2022.2.1
読書日:2022.9.19

普通の人には気が付かない独自の視点で投資を実践する著者が、その独自性をもっとも発揮している山投資について説明した本。

これはむちゃくちゃ面白かった。発想が普通とぜんぜん違う。

著者の永野さんは1990年生まれで、まだ32歳なんだそうだ。高校のときに親元を離れて一人暮らしを始めている。よくはわからないが、家族から追い出されたんだそうだ(笑)。

高校の頃から株を始めてとても儲かったので、そのお金で100ぐらいの資格を高校の間に取ったんだそうだ。20歳ぐらいの時には、もう億を稼いだり、失ったりということをしていて、もう生きるためにお金を稼ぐという段階を過ぎてしまった。それからは、すこしは人の役に立つような事業をしようと思ったという。

山投資を始める前からもうこれである。

永野さんはやるとなったら徹底してやるタイプらしい。株で億をさっさと稼ぐというのもすごいが、資格を取ろうと思ったら目標を決めて取れそうなものはすべて取ってしまう。なぜ資格を取ろうと思ったのかわからないが、資産のつもりだったのかもしれない。なにか行動にコレクター気質のようなものを感じる。山投資もすべての市町村の山を買いたいと言ってるくらいだし。

で、2016年から不動産投資を始めている。地方生活に憧れがあって、地方には安い物件がたくさんあるから自分で住むために買ってみたんだそうだ。でも安い物件にはそれなりに理由があって、失敗ばかりだった。そうやっているうちに、地方には1円でもいいから家を手放したいという人がいることに気がつく。1円の物件を実際に購入して、自分でリフォームして、安く貸し出すようになった。さらには1円どころか、お金を出してもいいから引き取って欲しいという物件すらあるという(もちろん問題物件)。節約のために、リフォームは自分でする。最初は素人だったが、いまではお金をとってリフォームのビジネスすらやっているという。最近はオンラインサロンの弟子がリフォームを習いに来ているので弟子に任せているようだ。

ともかく学ぶのが早くて、あっという間に次の段階に進む印象だ。

こういう格安物件は日本中に薄く広く存在しているから、永野さんは全国を対象に投資をしている。いまでは数百軒の物件を所有しているそうだ。呆れるほどの行動力である。1年に何軒投資をしているんだろうか。

日本全国に物件があるが、移動は中古のプリウスだそうで、しかも高速は使わずに下道を通っていくのだそうだ。プリウスを使うのは燃費がいいからで、使い倒して1年毎に乗り換えているという。高速を使わない理由は節約もあるだろうが、すべての町に行く、などという勝手な目標を立てているんじゃないだろうか? おかげで日本全国の市町村に詳しくなって、物件の情報が入ったときに調べなくてもすぐその周辺のイメージが湧くそうだ。移動中はもちろん時間を無駄にせず、運転しながら電話でいろいろ商談をしているようだ。

払うどころか逆にお金をもらって引き取るというのは極端かもしれないが、地方の空き家を格安で購入してリフォームして利益を得るというのは、けっこう多くの人がやっている。カチタスというそれ専門の上場会社もあるくらいだ。

しかし、ここで山投資である。

ある物件を検討しているときに、山も一緒に引き取ってくれるのなら1円でいいという話があったそうだ。もちろん引き受けたが、その山には電柱があって、電力会社から年に1500円のお金がもらえる事がわかった。1円で買えて、お金が半永久的にずっともらえる。しかも地価の評価は30万円以下なので、固定資産税も払わなくてもいい。1件1件の儲けは少なくてもたくさん集めると莫大な儲けになる。これはブルーオーシャンだと直感したのである。

日本全国に、1円で買えて電柱のある山は、どのくらいあるのだろうか。住宅と違って、山の情報はネットに載っていない。でも永野さんがそんなことにめげるはずもない。逆に競争がまったくないことに小躍りする始末である。行動力だけは抜群にあるので、全国の不動産屋に電話をかけまくる。最初は相手にされなかったが、だんだん存在が知られてきて、山で問題になると、永野さんのところに電話がかかってくるようになった。こうしていつしか「山王」と呼ばれるようになった。

繰り返すが、山王と呼ばれるようになるまで、たった数年である。驚くべきスピードだが、しかし今後を楽観しているわけでもない。空き家でも山でも、1円で買えるというような極端な状態はそんなに長くは続かないと見ている。しかし、そのときにはまったく別のビジネスをしているという自己イメージをちゃんと持っている。山投資は、いろんなビジネスを展開しているなかのひとつでしかないのだ。

永野さんは、コレクター体質かもしれないが、自分は天才ではないという。泥臭い知識こそが重要と考えていて、わざわざ区分所有の問題を体験したくて、マンションを買ったりしている。大切なのは、人の話をきちんと聞くことだという。持ち込まれた話にはすべて耳を傾ける。そして実際に体験した泥臭い情報や知識を組み合わせるのだそうだ。こうして他の人がやらないことをして差別化するという。

ただし、契約するには対面が必須だそうだ。対面でないとトラブルが起きやすくなるという。永野さんの条件があまりに独特なので、形式的な方法では対応できないからだろう。こういう条件ですが納得されますね、と確認が必要なことが多いのだ。また連絡は電話を重視しており、メールやチャットなどで済ませようとする相手とは関係を切るそうだ。やはりやり取りが独特だからだろう。

なおこの辺は、メールやチャットでの連絡にこだわって、電話しないと話が進まない人とは仕事しない、と言っているホリエモンと真逆だ。どっちがいいかは考え方次第ということか。

ところで空き家ビジネスでも、永野さんはこれで儲けようと思っていないのだそうだ。じつは、空き家をリフォームした物件は、賃貸弱者(高齢者とかシングルマザーとか)に提供するのが基本だそう。高校のときにアパートを借りるときに苦労した経験からだそうだ。(最近、あちこちのNPOで同様な取り組みをしていることを、クローズアップ現代で特集していた)。

さらに面白いのは、人脈の考え方だ。現代では、ギブ、ギブ、ギブで与えることを重視することが多いと思うが、永野さんは借りを作ることも重要だという。小さな借りでもいいから、借りを作ることで、その人はいつか永野さんにものを頼みやすくなる。だから、すぐに「ジュースおごって」などと言って小さな借りを作るようにしているのだという。これなんかは、デヴィッド・グレーバーの「負債論」に出てくる話と同じだ。人脈を作るにはギブだけでなく、気軽にギブされることも必要なのだ。この部分はとても重要だと思う。

永野さん、偉いなあと思ったところである。とても32歳とは思えない。まあ、歳は関係ないですけど。

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