ピーター・ディアマンディス、スティーブン・コトラー、訳・土方奈美 株式会社ニューズピックス 2020.12.24
読書日:2021.2.28
進化するテクノロジーがお互いの進化を加速することで、2030年にはとんでもない時代が訪れる主張する本。
2030年に何が起きるのかを予見するのは難しいが、この本では、詳しいことはそれぞれの参考文献に任せるような形で省略し、未来に向かってテクノロジーが現在どんな動きがあるのかを、大量に、網羅的に提示することで、猛烈な勢いで進んでいるテクノロジーの加速を具体的に実感させることに注力している。
描かれていることの内容のほとんどは事実であることを疑う理由はない。というか、だいたいのことは知られていることばかりだ(と思う)。わしすらも知っていることが多かった。だが、これらのことがお互いに影響しあって、進化を「加速」していることは、まあ、確かに感じることが難しいかもしれない。特に指数関数的な進化の場合、よく言われることだが、人間のリニアな思考パターンとは異なっているので、なかなか実感することが難しい。指数関数的な進化は最初はゆっくりに見えて、ある瞬間から爆発的に増えるように見えるからだ。
この辺の感覚は慣れるしかないんじゃないかと思う。
さて、このテクノロジーの加速で、人々が一番恐れているのは、たぶん「雇用」だろう。長寿命化するとしても、将来、自分のできる仕事は無くなっているかもしれない、という恐れだ。
雇用に関してはAIとロボットが仕事を奪うという立場と、新たな雇用がたくさん生まれるという立場とが常に対立している。著者らの立場はもちろん後者で、AIが発展するとAIがとんでもない量のデータを創出するために、それを評価する人がますます必要になるので雇用がふえるのだという。実際、これまでのインターネットの発展では、減った雇用よりも増えた雇用の方が多いという。
個人的には、AIとロボットの発展で、仕事をしなくても生きていけるような社会になってほしいのだが、著者らの言う通りなら、どうも人間はかえって忙しくなるようだ。あれま。
ところで、このようにあらゆる分野において変化が加速するとすると、個人投資家はどこに投資すればいいのだろうか。技術革新により、儲かる製品が無くなって危機に陥る企業が続出するだろうし、一方では新しく生まれた分野では新規参入する企業が続出するだろう。どれが消え去り、どれが生き残るのか予想するのは難しいだろう。どうするべきか。
ひとつはソフトバンクのように、例えばAIというテーマをあげるとしたら、関連した企業に広く投資をする方法があり得る。しかし正直に言って、個人投資家が投資するのはせいぜい10から20だろうから、現実的とは思えない。
わしが思うのは、資本力で決着がつくような分野では投資をせずに、技術的な工夫が必要な領域の企業に投資をするということだ。
たとえば、EV(電気自動車)を例に挙げると、EVが今後増えていくことは誰も異論はないだろう。でもどこに投資すればいいのだろうか。電気自動車というくらいだから、電池だろうか?
だが、電池はいったん技術が確立されたら、大量の資本を投入してコストを下げたところが勝つに決まっている。なので、最終的な勝者は誰にも予測がつかない。(あり得るとしたら、特殊な材料を独占的に供給できる化学メーカーだが、わしにはそんな企業は思いつかない)。
もちろん、自動車メーカー自体に投資するのもためらわれる。電気自動車ではパソコンや携帯電話のようにデザインと製造が分離するといわれていて、アップルやソニーがデザインによる参入を狙っている。こんなに参入障壁が低いなら、いまの自動車メーカーのうち何社が生き残るのか心もとない。
わしが唯一安心して投資できるのは、モーターの会社だ。モーターはEVで必須部品で、しかも参入障壁が大きい。つねに改良して効率をあげなくてはいけないし、自動車メーカーの仕様に合わせて微妙な調整ができるような技術力が必要になる。そうすると、例えば日本電産という会社が思い浮かぶ。というか、日本電産くらいしか思い浮かばないくらいだ。ここは生き残り、成長するであろうことが強く確信できる。
そういうわけでわしは日本電産に投資させていただいているわけだが、EV以外でも、こういうふうに確信できる企業が見つかればいいなあ、と思う。
つまり、この本に書かれているような技術進化の方向が確実視されていても、どこに投資すべきかはまた別の話である、ということですね。いや、別にこの本は、投資を勧めている本ではないんですけどね。
★★★☆☆