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危機と人類

ジャレド・ダイアモンド 小川敏子・川上純子・訳 日本経済新聞出版社 2019/10/26
読書日:2020/1/28

久しぶりに日本の出版社の題名の付け方に殺意を抱いた。普通こういうような題名で著者がジャレド・ダイアモンドなら、人類がこれまで絶滅の危機にどのように立ち向かったか、という話だと思うじゃない、少なくとも数千年のスケールの?

でも、原題は「UPHEAVAL: Turning Points for Nations in Crisis」で直訳すれば、「大変動:危機における国家のターニングポイント」というわけで、人類というスケールではまったくなく、危機に陥った国家(それも近代の国民国家)がどうやって危機を乗り越えるのかという話なのでした。

最後の方で、人類全体の危機についても述べるから、間違っているわけではないが、非常に誤解を招く題名で、もちろんわざとやってるんだろうけど、わしのようにジャレド・ダイアモンドの新作なら中身も確認せずに読もうとする人は、きっと不意打ちを食らってしまったことでしょう。(しかもこのページ数で上下2冊に分冊とは)。

さて、ダイアモンドは、国家の危機を分析するにあたって、個人が危機に陥ったときの対処の方法と比較している。それによると人は危機に陥ったときの対応として、12の要素に分けられるといい、それをフォーマット化している。例えば、まず危機に陥っていることを認め、対処するべき部分を明確にし、周りに助けを求め、一度で諦めずに別の方法を試す、などといったことである。こういう分析用のフォーマットを作るのは悪くない。

前半では、ここ200年内に起こった危機を迎えた国家をいくつか述べている。とくに日本についての言及が多く、明治日本の対処方法は典型的なケースとしてかなり詳細に語られている。その他では、フィンランドインドネシアの例が、わしには興味深かった。

後半では、今起こっている危機についてダイアモンドが語ってくれるのだが、それにも日本のことが詳しく書かれてある。ダイアモンドにとっては日本は危機だらけの国のようだ(苦笑)。

それによると、日本は戦争を起こした歴史を直視ないことで韓国と中国と関係が問題になっているとしている。だか、韓国との関係では従軍慰安婦や徴用工問題を例に出しているのはいただけない。この2つはどう考えても捏造なのだが、ジャレド・ダイアモンドのような人もこれを事実と捉えられていることにすこしめまいを感じる。

とはいえ、日本が戦争を直視していないことは事実で、学校でも教えていないし、こちらから攻めたことについては何ら反省もせず、なんかひどい目にあったぐらいの自己憐憫の感情しかなさそうに思える。戦前と戦後で歴史的な感覚が繋がっておらず、なにか別の国の話をしているかのように感じるのはわしだけではないのでは。

たぶん日本人はまだ負けたショックから本当に立ち直っていないと思う。事実を客観的に直視できないのではないだろうか。このショックから立ち直るにはまだ時間が必要で、わしの見立てでは、たぶんあと数世代かかるんじゃないの? もしかしたらそのためには新しい戦争の危機に直面する必要すらあるのではないかという気がする。(そういう意味では中国に期待(苦笑))。

日本についてはその他に、資源収奪的な外交を続けているという。日本には資源が少ないから、石油、鉱物の資源を確保することに全力をあげなければという思い込みのようなものがあるという。したがって本当は先頭を切って脱石油に邁進し、環境問題にコミットしなくてはいけないのに、そうなっていない。これには賛成で、国は再生可能エネルギーに投資をもっと振り向けてくれないだろうか。

日本の他には、アメリカ自身のことについて詳しく書かれてあり、その危機の中には戦時的な分断と非寛容により、民主主義が危機に陥っているという部分が強調されている。アメリカがチリのように民主主義から独裁国家になる可能性すらあるという。でもアメリカの国としての地政学的な盤石さは羨ましい限りです。

人類全体の危機に関しては、核兵器と環境問題をあげている。これまで、人類はこのような全地球的な危機を解決した例はないが、希望はあるようだ。国際連盟国際連合のような超国家組織をいくつも作ってきたし、複数の国家でグループをつくり交渉してきた経験もある。牛疫や天然痘のような病気を撲滅するのに全世界が協力した例もある。

しかし、彼が、そもそも国民国家というシステムになんら疑問を持っていないのはどういうことなの? わしも国民国家は少なくともあと数百年は存続すると思うけど、ジャレド・ダイアモンドくらいのレベルなら、国民国家自体について議論してほしい。でも、彼も86歳だそうだから、そろそろ限界かしらね。この本からなにか新しいものを得た人は少ないんじゃないの?

驚いたのは彼の経歴で、彼は最初は生理学の研究者だったそうだ。鳥類の研究や人類学の研究を始めたのはかなりあとのことで、何度も研究分野を変えながら、世界に影響を与えているのいだから、これはとてもすごいことですね。

★★★☆☆


危機と人類(上下合本版)

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