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個人投資家目線の読書録

メディアの未来 歴史を学ぶことで、新聞、雑誌、ラジオ、テレビ、SNSの将来は導き出せる

ジャック・アタリ 訳・林昌宏 プレジデント社 2021.9.16
読書日:2021.12.16

ジャック・アタリが、過去にメディアに起こったことは未来でも同じことが起こるに違いないから、このままテクノロジーが進むと恐るべき未来が訪れる可能性があるとし、いますぐ行動を起こさなければならないと主張する本。

ジャック・アタリがこの本を書いたのは、もちろん、新聞、TVなどの従来のメディアが衰退し、インターネットの巨大テックであるGAFAがメディアを牛耳っていることに危機感をもっているからでしょう。

アタリが描く未来はとても悲観的です。

アタリはテクノロジーが発展するとメディアの形態も変わるが、どれも結局同じ事が起こると主張しています。具体的には次のようなことが起きると言います。

最新の情報を得るのは権力者や富裕層の上流の一部で、彼らはその情報を使ってますます富裕になり、権力を大きくする一方、情報をコントロールしたがり、検閲や隠蔽を行い、情報を統制しようとすると言います。さらには、メディアは庶民には娯楽を与えて時間を潰させ疑問を持たせないようにします。またメディアは自由に報道できたとしても独裁者の出現を阻止できないことも多い、といいます。

これらは非常に一般的に書かれており、遠い未来の夢のようなテクノロジー(AIとか)が発展した場合もアタリは描いて見せ、ついにはハラリのホモ・デウスで描かれた、人工的な不死の生命を得る世界まで行き着き、そこでおこる悲観的な未来も描いてくれます。けど、まあ、そんな未来のことは誰にもわからないのだからジョークと捉えてもらってもいいのではないかと思います。不気味な予言が続くので、読んでいて辛くなりますが、これは一種の脅しで、アタリが本気で気にしているのはそんな未来のことではなく、今後数10年程度のことでしょう。つまり、問題は巨大テック企業でしょう。

GAFAがテクノロジーを駆使して情報を活用してさらに富裕になり、われわれに提供する情報をコントロールするようになり、娯楽を与えて疑問を持たせないようにし、自らは国家をも越えた大きな権力を得て、このままではだれにも制御できない独裁者になるのだ、と主張したいのでしょう。

とくにアタリが危惧しているのは、新聞などが衰えることでジャーナリストという存在がよって立つところがなくなり、彼らが消えてしまうことになるかもしれない、というところにあるのだと思います。

自由に表現するジャーナリストの存在は民主主義の基礎だとアタリは考えており、彼らがいなくなると簡単に民主主義が破壊され、独裁が起きると考えているのでしょう。彼らはときに命をかけて真実を伝えようとする存在ですから。確かに新聞などはいまにも無くなりそうですし、ジャーナリストたちの生活がだんだん厳しくなっているのも確かなことのようです。(ただし、日本は唯一新聞はなくならないとアタリは言っている。これって日本だけはデジタル化に取り残されると言ってるのかな?)

では、どうすればいいとアタリは考えているのでしょうか。

結局、アタリはジャーナリストが自分自身のデジタルのメディアを立ち上げて、われわれがそれを支援するようにすればいいのだといいます。それをアタリは、デジタル・アッヴィージ(親書)と呼んでいます。でもこれって、投げ銭付きのユーチューブとどう違うのかよく分かりません。これで本当にジャーナリストを救えるのかしら。

まあ、わしは、GAFAの問題は、従来の対応で十分可能だと思っています。つまり独占禁止法とプライバシー保護、そして税制などで。一国だけではなく、国際的な取り組みも必要でしょうが、それは可能でしょう。アタリは難しいと言っていますが、それが可能なのは、いまの中国の巨大テック企業が中国共産党に対して何もできないことから明らかだと思います。中国と同じことをすればいい。

なので、わしはあまり心配していません。基本的にわしは未来に楽観的なのです。ジャーナリストがユーチューバーみたいになるっていうのは、そうなるんじゃないかなっていう気はしますけどね。

ところで、この本は3000年に渡るメディアの歴史の内容がほとんどで、未来の話は最後の2章しかないんですが(もともと原題は「メディアの歴史」)、歴史の方を読んでいて、ちょっと暗澹たる気持ちになりました。

というのは、メディアの検閲、隠蔽、発行の許可、などの規制は、ついこの前まで普通にあったっていうこと。全体主義だった日本やドイツでそうだったのは分かるけど、自由を尊重しているはずのフランスでも、検閲なんかは第2次世界大戦まで普通にやっていたし、メディアはメディアで政府にべったりだったようですから。英米系が多少マシだったというくらいで、世界的には70年くらい前までは先進国でさえそんな程度だったのです。

もしかしたら、フランス人のアタリは自国に対して厳しい目を持っているのかもしれないけど、こんな感じでは、わしらは専制国家の中国にお説教するなんて水準にはとうてい達していないでしょう。

民主主義って本当に脆いなあ、という気がします。これではアタリが心配するのももっともだなあ、という気がやっぱりするのですよ。

★★★★☆

 

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