小林さやか 春秋社 2019.7.30
読書日:2019.12.11
香港の安宿のボスの話ということで、てっきり中国人の話なのかと思ってたら、アフリカのタンザニア人の話なのだった。いま中国には大勢のアフリカ人が一旗上げるために来ているのだそうだ。その中でずっと香港にすみ着いて、同国人から一目置かれているのが、チョンキンマンションのボスことカマラなのだった。
スワヒリ語を話す著者は、こうした出稼ぎのタンザニア人に興味を持ち、フィールドワークをしようと香港にやってくる。(実際には、香港に来てから具体的な調査対象を決めているわけだが)。
タンザニア人たちはビジネスは個人事業者としてやりたがるが、一方では同国人同士で助け合うといった、群れているような群れていないような微妙な距離感でビジネスをやっている。それは、余裕があれば「ついで」に人の分もやってあげるといった、無理のない協力関係であり、その「ついで」感覚が、多数の副業を持つことにつながり、メインの事業が失敗したときの保険になっているという。そして人間関係はとてもゆるい。
本を読みながら、これは単に狩猟民族の発想なんじゃないの、と思っていたが、やっぱり作者もそう思っていたらしく、まとめのところで狩猟民族における分配とか贈与経済とかについて議論していた。もちろん昔のままなのではなく、はやりのシェアリング・エコノミーやSNSとの関係なんかも議論されている。しかし、まあ、あんまり難しく考えずに、この本ではカマラの言動を面白く楽しめばそれでいいのだと思う。
もしかしたら、わしの発想はタンザニア人に近いかもしれない、と思った。まあ、ビジネス感覚においてはまったく太刀打ちできないでしょうけど。
★★★☆☆