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しょぼい起業で生きていく 持続発展編

えらいてんちょう イースト・プレス 2020.12.21
読書日:2021.8.5

生き残るだけならしょぼい起業でもなんとかなるが、店を続け、さらにゆとりを持つには人を使い、さらには普通の起業家に発展していかないといけないと指南する本。

しょぼい起業で生きていく」を出したえらいてんちょうが続編を出したのは、そのビジネスモデルの象徴となっていたしょぼい喫茶店が閉店してしまったからだろう。なにしろ象徴なのだから、しょぼい起業のビジネスモデルに大きな懸念が出てきてしまったのだ。しょぼい喫茶店の閉店についてはここに書いた。

しょぼい起業は当然ながら成功を約束するものではない。少ない資金で始めて、生活費も抑えれば、なんとか生きていくこともできるし、失敗しても傷が少ないというリスクを減らす起業モデルにすぎない。

だが、しょぼい喫茶店の店主のように、結婚して家族ができればそんなに気軽に失敗できないし、豊かに生きるためにはぎりぎりの生活では困る。

しょぼい喫茶店が失敗したのは、店主本人も書いているが、人を使うことができずに自分で作業をすべてやっていたため、事業の次の展開を模索する時間がとれなかったからだ。

そこで、えらいてんちょうも仕事を人に任せて自分の時間を作ることの重要性をあげているのだが、しかし、どうもその発想が変だ。

しょぼい起業はなるべくコストをかけずに事業を行うことが大前提だから、人を雇うというリスクには抵抗感が強い。そこで、えらいてんちょうが提案するのは、やりたい人を募集して任せるという方法なのだ。

この方法をえらいてんちょうは自分が開いたバーで行っている。1日とか数日単位で店長を募集するのだ。確かにバーの店長なら、酒好き、パーティ好きの中には、1回やってみたいというひともいるかも知れない。そしてこの方法なら、店長の友達がひやかしにやってくるから、店は大繁盛する可能性が高い。数日ごとに店長が変わればいつでも大繁盛だ。なにより、店長とは雇用関係にはならないのが最大の特徴で、どちらかというと酒場の営業経験を売るという体験サービス業に近い。

でも、バーなら分かるけど、このシステムが他の業種に使えるだろうか? たとえば成功例のひとつのシナモンロールが売りのパン屋には使えないだろう。それにまさかしょぼい起業全部にバーを勧めているわけではないだろうし。

でもまあ、わしが特に気になったのは、この人の労力をただで使おうという発想が、ボランティアとか宗教とかの勧誘の発想に近いように思えることだ。こういう運動はひとびとの熱意に支えられているが、下手をすると、やりがい搾取に繋がりかねない危うい発想ではないかという気がする。

などと考えながら読んでいったら、あとで成功例として登場する「不謹慎マン」も「難民社長」もどちらかというと運動家チックな人たちなのだった。彼らはもともと社会を変えようとする人たちで、人々に働きかけて影響を与えることに躊躇しない人たちだ。そして人々を組織する傾向が大きいように思える。

不謹慎マンのひとは、事業モデルを真似されると抗議して裁判も辞さない人だ。それ自体は別にいいが、えらいてんちょうは、起業家は従業員を守るためにはここまでする覚悟が必要だ、みたいなことを述べる。なんともしょぼい起業は、気軽でもなんでもなくてなかなか大変なのだ。

こういう社会を動かそうとする運動家系の人たちを否定するわけではないし、こういう人たちがけっこう成功しているのも知っている。たとえばすき家ゼンショーはもともと革命を目指していた運動家が興した会社で、食で世界革命を目指しているんだそうだ(笑)。だから否定するわけではないし、組織をオーガナイズするいうという点では普通の人よりは秀でているのかもしれない。でもなんとなく、左翼系っぽい発想で、そこには搾取の香りがほんのりするんだよね、その理念とは裏腹に。

だからわしとしては、しょぼい(コストをかけない)という部分はまったくそのままに、正々堂々とした起業のほうがいいと思います。そう、わしが推奨するのは華僑の人たちがやっているこの方法だ。

最初の方で、えらいてんちょうはビジネスはシャンパン型とカレー型があると説明する。シャンパン型とは流行りに乗ったり、SNSなどで自ら流行りを作り出したりして稼ぐ方法だが、この利益は一時的だという。いっぽうカレー型は地味だが継続性があり、当然しょぼい起業は後者を目指すというのだが、どうかんがえてもえらいてんちょうの仕事の仕方はシャンパン型だ。これぐらい言ってることとやってることが違っていいんだろうか?

えらいてんちょうに関しては、半分だけ話を聞いて、残り半分は捨てるのが正解だと思う。

★★★★☆(反面教師としての点数)

 

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