ヘタレ投資家ヘタレイヤンの読書録

個人投資家目線の読書録

大読書日記

鹿島茂 青土社 2015年5月25日
読書日:2019年7月21日

日経新聞の書評欄に紹介されていたので、読んで見る。2001年ー2015年までの週刊文春に書かれた書評を集めたもの。

こういう書評集はたいへん面白いが、知らない本をたくさん紹介されて、読みたい本のリストがどんどん長くなることが問題。でも今回はリスト追加はなんとか20冊以下に収まった。ホッとした(笑)。

鹿島氏は過去のフランスが主戦場なので、どうしてもフランスの過去に関する本が多くなる。しかもとても細かい細部になるので、こういうのは特にフランスになんの思い入れもないわしには、リストに加える必要がない。しかもフランス以外でも、過去の文学者、芸術家に関することが多くなる。わしはどちらかと言うと、未来に関心がある方なので、なんとか少ない冊数に抑えられた。

しかし、コレクター気質があると大変だなあ、と思う。本をしまうところがなくなって、次々に引っ越しをして、場所を確保しながら、本代や家賃を稼ぐためにまたたくさんの仕事を引き受けて、その資料のためにさらに本が増えていく、悪循環。収入は最高税率に達するまで増えているのに、まだまだ稼がなくてはいけないらしい。しかも、正月にはパリに出かけていき、毎回数百万の新本、中古本を手に入れて空輸しているんだから。

中身が読めれば何でもよく、ほぼすべての読書を図書館で賄っているわしには、とうてい理解不能な心理であるが、しかし、鹿島氏、もちろん手に入らない本は図書館から借りていて、その本も読むのだ。すごいなあ。

読みたい本が多すぎて、人生を費やしても、読める本の数が限られているところが、わしの悩みだけど、まあ、鹿島氏は読書し続けて、本の上で倒れれば本望なのかもしれません。表紙をめくったところの、イラストもそんな感じのものが記載されています(^^;。

さて、鹿島氏によれば、読書の効用を事前に説明することは不可能だという。したがって、

「読書の効能が事後的である以上、それを事前的に説明することはやめて、「理由は聞かずにとにかく読書しろ」と強制的・制度的に読書に導くこと、これしかないのである。」

だそうです。まあ、そりゃそうだよね。

★★★★☆

 


大読書日記

宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃

加藤 文元/著 -- KADOKAWA -- 2019.4
読書日:2019年7月17日

数年前に不思議な数学の論文が出されて、査読に入っているという話を聞いたことがありましたが、どうもこれのことらしい。その時も宇宙と宇宙をつなぐなどという言葉が躍っていて、これはいったいどういう理論?と不思議に思っていました。

この本を一読するに、まあ、確かに宇宙と宇宙をつないでいることには変わりはありませんが、特に不自然な感じもせず、ちょっとがっかり(笑)。だって名前、宇宙際タイヒミュラー理論からして、よほどぶっ飛んだ理論かと期待してしまうではないですか。でも本にも書いてありますが、別にパラレルワールドをつなぐ話ではありません。

とはいえ、こういう発想は聞いたことがないので、確かに画期的な発想なのでしょう。

かいつまんで言うと、この世は足し算と掛け算が固く結びついていますが(A+A=2Aみたいな)、この固い結びつきによって解析が難しくなっている分野があります。例えば、素数というのは掛け算の世界の概念ですが、普通にやると足し算の話が入ってきて、掛け算の部分だけを取り出すのは難しい。そこで、

(1)足し算だけが成り立つ世界と掛け算だけが成り立つ世界を構築する。
(2)足し算の世界と掛け算の世界が通信をして、その通信でのみお互いの世界が結びつくとする。
(3)通信をする内容は、対称性の情報だけをやり取りする。
(4)通信の結果、どのくらい誤差が生じるかは計算で出てくる。この結果、足し算の世界と掛け算の世界が誤差の分だけの差がある不等式で評価できる。
(5)誤差を小さくできるように対称性を選べば(対称性の制限を多くする)、誤差は小さくなり、二つの世界はほぼつながる。

この結果、何が分かるかというと、例えば「ABC予想」という、数の足し算と掛け算の不等式で表現される式が証明できるんだそうだ。ABC予想が証明されると、いろんなことがすぐに証明できることになっている非常に重要な予想らしい。(現在1万ページあるというフェルマーの最終定理の証明が、1ページで終わるらしい。)

ここでは足し算の世界と掛け算の世界で考えましたが、この発想はあらゆる固く結びついた関係をいったん解消して、それぞれ別々に考えた後、再度結びつけて再構築する場合に、非常に役に立つそうで、そのへんが画期的なようです。

このIUT理論自体については意外に説明の分量が少なくて、そもそも数学者って何をやってるの?みたいな話が半分以上あって、それはそれで興味深いけど、ちょっとかったるいです。

でもまあ、この画期的な理論の概要、というか発想を、これだけ簡単に説明できるとは、まったく驚きで、IUT理論(宇宙際タイヒミュラー理論)を構築した望月新一教授と毎週議論、というか研究報告を受けてきた著者ならではです。この本は世界中で翻訳されるんじゃないでしょうか。誰かが翻訳すればですが。

ちなみに、論文の査読は、今現在もまだ、絶賛続行中のようです。(笑) いったい何年かかるんでしょうか?

★★★★★


宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃 (角川学芸出版単行本)

 

補足:2020.2.5に数学誌PRIMSに受理されて、特別号に掲載されるそうです。おめでとうございます。(2020.4.3追記)

大人の週末起業 本物の「稼ぐ力」が身につく

藤井 孝一/[著] -- クロスメディア・パブリッシング 2019.6
読書日:2019年7月8日

かつて週末起業という言葉が話題になったことがあって、わしも感化されたものでした。著者はITツールを駆使して、ビジネスを生み出しており、すごいなあと思ったものです。しかし、なんだか敷居が高そうで、なにをしたらいいか分からず、いつの間にか忘れてしまいました。

その続編となる今回の「大人の週末起業」は、50歳代を対象にしていて、人生100年時代に定年後に仕事を確保することを目標にしています。

そのために、リスクを極力排除、無理をしない、というふうに、50代ならではの起業を目指すというふうになっています。

とはいえ、業務終了後、週末の時間を使って、起業するのはそれなりに大変だなあ、と思いました。リスクは少ないかもしれないけど、お金が稼げるようになるためには3~5年ぐらいは覚悟しなくてはいけないようで、その期間の情熱を保てるだけの「好き」を事業にしないと持たないでしょう。

というか、起業しようとしなくてもどちらにしろやってしまう、ぐらいのものが望ましいのかもしれません。でも、わしが日々情熱を燃やしているものって、投資は別にすれば、なんかお金にならないものばかりなんですよね。

なんだかもんもんとしてしまいます。

★★★☆☆


大人の週末起業

カメラ?カメラ!カメラ?!―計算をはじめた未来のカメラたち (丸善ライブラリー)

2016/4/1 児玉 和也 (著), 財部 恵子 (著), 国立情報学研究所 (監修)、丸善出版
読書日:2019年7月7日

ちょっと前、ライトフィールドカメラとか、不思議なカメラが出てきた。興味を持っていたので、今頃だが、参考になるかと思って読んでみた。

昔からフーリエ変換が苦手で、(フーリエ変換自体は理解できるんだけど、フーリエ変換後に計算するという行為が、何を意味しているのかいまいち納得できないの)、この本でもその辺は同じだった。もしかしたら、自分で実際にいろいろ計算してみれば分かるのかもしれないけど、これまでフーリエ変換に縁がなかったんで、なんか面倒くさいので、たぶんやらない。

しかし、ピンホールカメラにさかのぼって考えることで、新しいカメラのコンセプトができたとか、基本的な考え方は理解できたように思う。

最後にカメラの未来が見えるのかと思ったら、なぜか多視点の表示装置の話になっていて、まあ、こういうのを一度で撮影できるカメラが必要という意味なんですかね。よく分かりませんが。

さらさら読めるように書いてあって、ときどき図面をにらんで考えるようなことが適度に配分されてて、読む分にはいいんだけど、書く方はきっと大変だろうな、と思いました。特に編集の人は。

★★★☆☆


カメラ?カメラ!カメラ?!―計算をはじめた未来のカメラたち (丸善ライブラリー)

レンタルなんもしない人のなんもしなかった話

レンタルなんもしない人 晶文社 2019年4月17日
読書日:2019年7月6日

自分自身を貸し出すが、何もしない、という人の体験談。現在いまも絶賛貸出中らしい。料金は無料だが、交通費となにか食べた場合の実費はもらうというスタイル。非常に人気で、日に数件の依頼があるらしい。

何もしないので、ただ存在していればいいという使い方に限定される。なので、借りる側の想像力が必要とされる。最初は行列並びとかゲームの員数合わせなどの使われ方を想定していたが、だんだん多様化していくのが面白い。

例えば、駅で待ち合わせをするというだけのレンタルがある。学校へ行きたくないが、レンタルなんもしない人と待ち合わせていれば、なんとか行こうとするというわけだ。

家で仕事をしていると、遊んでしまうので誰かそばにいてほしいとか、創造的な使われ方が開発されていく。

入ってみたい店があるが一人では入りづらいので一緒に入ってくれ、というのは非常に定番の使い方で、これはめずらしいメニューの店の場合は、いろんな食べ物が食べられて、ちょっとうらやましい。

このように使い方はユーザーが勝手に考えてくれるので、なんにもしていなのに、どんどん仕事の内容が開発されていくという、不思議な発展をしている。

面倒くさそうな依頼やヤバそうな依頼は断るので、これまで危険な目には会ったことがないという。

結婚していて、1歳の子供がいるという。嫁は面白がっているそうだけど、親は嘆いているらしい。

基本的にツイッターに書かれたことをまとめるという体裁を取っている。それなりに内容にバラエティーがあるので、読めないことはないけど、続けて読むにはちょっと辛い。やっぱり、ときどきツイッターでつぶやかれたことを読んで、笑うぐらいがちょうどいいのではないかと思う。

わしは全部読んだが、この本は全部読む必要はないと思います。ぱらぱら面白そうなところを読んで終わればいい。

現代ではこんなビジネスも成り立つというところなんだけど、江戸時代もキセルのかっこいい吸い方を教えるだけの人とか不思議な商売が成り立っていたそうだから、単に江戸時代の日本に先祖返りをしているだけという見方もできるのではないかな。

★★★☆☆

 


レンタルなんもしない人のなんもしなかった話

このままだと、日本に未来はないよね。 ひろゆき流時代を先読みする思考法

ひろゆき/著 -- 洋泉社 -- 2019.3
読書日:2019年6月31日

読書する楽しみのひとつに、自分がこれまで思ってもみなかった発想に出会えるというのがある。ひろゆきも、映画を観るのはそのためだそうだ。そういう意味では、この本にかかれてあることはそうとう微妙。なんか普通なんで。

とくに前半がひどい。第2章までは読む価値があるのか微妙。iphoneは売れないと予測したが、最初のiphoneが出た時点ではその予測はあってた、などとどうでもいい言い訳を聞かされても困る。

後半になるほど面白い。思いつきレベルだけど、すくなくとも笑いは取れるアイディアが披露されている。3章の国際情勢の予測に関しては、それなりに参考になった。

しかしまあ、全体として読んでも読まなくてもいいレベル。さくっと1時間ほどで読めばいいのでは。

★★☆☆☆


このままだと、日本に未来はないよね。

日本国紀

百田 尚樹 幻冬舎 2018年11月12日
読書日:2019年6月22日

ネットからのコピペとかが話題になっているが、この本はどう見ても歴史書ではないし、たんに百田の見方を語っているだけだから、あまりその辺を強調しても仕方がないのではないか、という気がする。

たぶん百田氏の言いたいのは明治以降の現代史にあるのであって、それ以外のところはそれを説明するための前提条件程度なのではないかと思う。実際に江戸時代には3分の1程度で達して、明治以降は約半分ある。

で、現代史の中でも特に言いたかったのは、まるで無かったことのようになっている戦前の歴史をもう一度取り戻し、日本人の誇りを取り戻してもらいたいというところなのだろう。

それで、GHQの教育で日本人に罪の意識を植え付けたというところが、強調されている。(「ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム」(WGIP:War Guilt Information Program))

しかしながら、わしがもっともうなずいたのは、日本人の言霊信仰が影響しているという説明だ。こっちの方が納得する

日本人には具合の悪いことはあえて口にしないという傾向がある。それはなぜかというに、日本人には言霊信仰があり、口にしたことが現実化するという発想があるというのだ。

これは百田氏が初めて言ったことではないだろうが、この本でとても納得することができた。

だから戦争中も悪いニュースについては語らないようにしたし、戦後も、戦前のことはあまり語らないようにしてきたように思う。まずは意識に上ること自体が良くないとする傾向だ。

都合の悪いことは意識に上らせないようにする、というのは特に日本人だけの特性ではなく、人間一般の特性の一つであるとは思うが、日本人の場合は言霊信仰と結びついていっそう強力だ、というのは、説明としてよくできていると思う。

最近では、年金だけでは2000万円足りないという金融庁が報告を出すと、じゃあどうするかという議論になるのかと思ったら、逆に炎上する結果になってしまい、報告書自体がなかったことになってしまった。これなんかも言葉にすること(=意識に上ること)事態を穢(けが)れとする、日本人的な発想だと思った。

この説明は応用範囲が広いので、とても便利だ。このような発想ができるのも、百田氏が物語を語る作家だからなのかもしれない。

この本は歴史書ではないかもしれないが、物語作家がみた日本史という意味ではよい本ではないかと思う。

★★★★☆


日本国紀

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