ヘタレ投資家ヘタレイヤンの読書録

個人投資家目線の読書録

橘玲の中国私論

橘 玲 ダイヤモンド社 2015年3月5日
読書日:2017年08月20日

前にも書いたが、橘玲は、ごく少ない自分の経験から仮説を作り、膨大な引用文献でそれを理論づける作風。

これも、中国をまず旅行して、その印象から、中国のすべても問題は人が多すぎること、という仮説を構成。中国の特徴をそこに結び付けて説明する。例えば人が多すぎるため国家の統制が地方に及ばないので、中国人は親族およびグワンシ(関係)という私的なネットワークに頼るというふうに結びつける。

この論理構成を多数の引用文献で補強するので、世間に中国に関してどんな文献があり、何が分かっているのかをこの本を読むだけでおおよそ分かってしまう。この辺がすごい。

橘玲はいったいどのようにこれらの本を収集しているのだろうか。おそらく関係する資料を数10冊、ことによると数百冊単位で集めて集中的に読み、短期間でこの分野のおおよその輪郭を得てしまうということに慣れているのだろう。そして、重要と思った文献のあちこちをつなぎ合わせているのだろう。ある意味古典的な手法であるが、それで何冊もの本をかけてしまうのだから、有意義な方法なんだろう。

この辺の手法について、自分の経験を語っていただければ、ぜひその本も買いたいと思います。(それとも、もうあるのかしら?)

★★★★☆


橘玲の中国私論---世界投資見聞録


言ってはいけない中国の真実--橘玲の中国私論 改訂版--

貝と羊の中国人

2006 新潮社 加藤 徹
読書日:2017年09月02日

橘玲の本に紹介されていたので、興味を持ちました。

章別に中国を理解する断片が書かれていますが、貝の文化・羊の文化、人口から見た中国史、地政学から見た中国、が興味深かった。

わしは中国が遊牧民族の影響を受けるようになったのは、元の頃からかと勝手に思っていたが、最初の王朝、殷は農耕民族系で、次の王朝、周は遊牧民族系なのだという。歴史の最初からこうだから、最初から漢民族は農耕系とまじっているわけだ。で、「天」の概念は遊牧系の一神教の概念なんだそうだ。これだけでも、目からウロコだ。

他にも、人口が増えすぎると世の中が乱れ、その結果、人口が半減するような淘汰の後、新しい王朝が誕生するという話や、あまりにも国境が厳しかったため(万里の長城とか)、火薬などの科学をなかなか発展させる余裕がなかったとか、面白い。

こういう話を読んでいると、今の中国で民主主義は相当厳しくてぶっちゃけありえないし、中国共産党がどのくらいうまくやっているのか、あるいはどうなると厳しいのかがなんとなく理解できた。

★★★★☆


貝と羊の中国人(新潮新書)

小室直樹の中国原論

1996 徳間書店 小室 直樹
読書日:2017年09月12日

1996年の本であるが、原論というだけあって、現在でもりっぱに通用する。最終章の中国経済の分析だけはさすがに役に立たないが。

まずは中国人特有の人間関係、ホウ(邦の下に巾、幇の異字体)、チンイー(情誼)、宗族について教えてくれる。これらについては三国志などの歴史物を読めば理解できるという。これにはとても納得できる。

次に中国での支配は儒教ではなく、結局は法家の考え方で行われているという。立法という考え方を世界で初めて成立させたが、その考え方は西洋とは大きく異なっているという。つまり、西洋では国民を主権者(国の絶対権力者)から守るために発達したのに対して、そういう観念がない。これについては、中国には主権という考え方が欠落していることが根本原因なのだという。

あと、所有の概念の違いについては日本人すらも中国人に近いという。

しかし、この本で一番感銘したのは、中国人は結局、歴史原論者であるという、その点です。中国は世界で最初に発明したものがたくさんあるにもかかわらず、中国から周りの文明に影響を与えたということがあまりに少ない、という。しかし、歴史だけは世界に最高のものを持っていて、中国人の最大の願いは歴史に名を残すことだという。そして中国人は、(過去に学んで次の新しいものに発展するわけではなく)同じことを延々と繰り返す。そしてそれは共産党の時代でも全く変わらず、同じことを繰り返している。結局のところ、歴史を読めば、中国と中国人のことが分かるというのです。

なるほどなあ、と感心して、三国志を読み始めましたが(横山光輝のマンガ版ですが(笑))、なぜかとても納得できます。

★★★★☆


小室直樹の中国原論

 

サピエンス全史(上下)文明の構造と人類の幸福

ユヴァル・ノア・ハラリ 河出書房新社 2016年9月2日
読書日:2018年02月12日

全史というのを付けなくて原題の通りただの「サピエンス」でよかったのでは? しかし、科学的な情報も織り交ぜながら、常に歴史という視点で語られている著作であるから、それを明確にするためにも、「史」という言葉を入れたかったのかもしれない。

この著作は数年に1冊出るかどうかのエポックメーキングな作品。ひとつひとつの項目は知っている内容であっても、こういうふうに語られて、まとめまれると、人類とはなにかについて非常に見通し良く考察ができて、これから人類がどうなるかについての見通しもつけやすい。たぶん、わしはこの本をこれからも何回か読むことになるんじゃないだろうか。

まず著者は人間は他の動物とどこが違うのかについて述べて、それは言語だろうという。では言語で何が違うのかというと、言語により、虚構の世界を構築して、それを信じることにより、人間のネットワークは生物学的な限界である150人を超えて、数千人、数万人、さらには数億人でもまとまることができるという。そしてこの虚構の世界を変えることで、瞬時にして、世界の構造も変えることができるという。(たとえば革命などで、瞬時に社会構造を変えることができる。日本でも敗戦時に瞬時に社会が変わった)。

この辺は日本人では、吉本隆明の共同幻想論でなじんでいるから、さほど違和感がないのでは。

そして、グローバル化に関しては、3つのものがあり、貨幣と帝国と宗教が与えられる。貨幣と宗教については多少ともなじみがあるが、帝国に関しては日本人にはなかなかなじみがなく、非常に参考になる。政治的には帝国以外には成功した手法はないのであり、いまでも帝国的な手法しかありえないという。この点についてはもっと考えてみる必要がある。

宗教については、人間の信念に関するものはすべてこれに含まれ、例えば共産主義や資本主義もこれに含まれる。自由や平等に関するものももちろん含まれる。宗教でグローバル化が達成されたものは、仏教とキリスト教、イスラム教が挙げられるが、どれも布教という概念、他の民族にも教えを広めるという概念が入っているかどうかでグローバル化するかどうかが決まった。だから、ユダヤ教はユダヤ人のローカルな宗教にとどまり、キリスト教は世界宗教になりえたわけだ。ただし、マニ教なども世界主教になる可能性があったのに、そうなっておらず、どの宗教が選ばれてどの宗教が落ちたのかは、確たる理由はないという。

そして資本主義がこれほど勢力を伸ばした理由について説明、この資本主義の説明については全く納得できるもので、非常に明解。

そして資本主義と科学革命の幸福な(?)結びつきについて、説明がある。かつては人類は過去に素晴らしい文明があったがそれが失われたという考え方をしたが、科学革命により初めて未来がもっとたくさん知識が増えると信じられるようになった。この未来を信じる傾向が資本主義と結びついたのだという。科学はすでに無尽蔵といえるエネルギーを手に入れているという説明は、わしもそう思っているが、異論がある人も多いかもしれない。

こうしてサピエンスの発展の理由が語られるが、しかし、著者はさらにこれが人類の幸福につながったのかどうかについて考察している。例えば、農業革命によって人類の人口は増えたが、幸福度でいえば、各段に下がってしまった可能性があるという。我々の社会も豊かになったはずなのにあくせく働いている。はたして幸福につながっているのか、本当に疑問だ。次の世代では、ぜひ、人類の本当の豊かさに挑戦すべきだ。特に家畜の幸福について考察していることは、秀逸。将来、タンパク質は人工栽培的に作られるもかもしれないが、そうなったら逆に家畜は必要なくなり、数が激減してしまうのかもしれない。

今後、人類がどうなるかについても考察している。生物学的に超人類になるのか、サイボーグになるのか、ネットワークに意識がアップロードされるのか、そういった未来についてもシームレスに思考できる点が、この本の素晴らしいところだ。

近い将来、もう一度、読むことになるだろう。素晴らしい本をありがとう、ハラリ。

★★★★★


サピエンス全史 上下合本版 文明の構造と人類の幸福

3億人の中国農民工 食いつめものブルース

山田 泰司 日経BP社 2017年11月9日
読書日:2018年03月17日

最初の安徽省で出会った少年たちのエピソードにぐっとくる。岩の上に座って仙人のように達観した様子で遠くを見つめる少年たちと出会い、その後も関係をとぎらせずにその後を追ったものだ。

絶望するわけでもなく、楽観するわけでもなく、淡々と暮らしているように見える農民工たち。著者と関係を結んだ人たちの生きざまになぜか強く心惹かれる。農民工の中にはそれなりに成功してサバイバルした人もいるが、そうではなく落ちぶれてしまう人もいて、そちらの方がやはり気になる。

日本はどうだったのだろうか。高度成長時代に、中学を出てすぐに上京した人たち、朝ドラのひよっこの世界だが、彼らもやっぱりそれなりになった人もいれば食い詰めた人たちもいただろう。

これは激変する中国の本の一こまを切り取ったもので、これからもっともっと変わっていくだろう。著者はこの先も彼らを追いかけて、どうなったかを報告する義務があると思う。

わしはこの本を読んで、中国の人たちがとても好きになった。願わくば、彼らが皆、豊かにならんことを。

★★★★★


3億人の中国農民工 食いつめものブルース

 

習近平の真意: 異形の大国を操る

長谷川慶太郎 徳間書店 2018年6月12日
読書日:2018年06月17日

長谷川慶太郎氏の衰えを知らない洞察力には驚くばかりで、ときどき氏の意見を読んでみたくなる。

最初の方に朝鮮半島の情勢について説明があり、金正恩はまったくアメリカに降伏した状態と言い、朝鮮半島は統一の方向に進むとみている。仮に統一したときは、北朝鮮へ莫大な投資が必要になるが、その金は日本が出すことになるという。ひと昔ならいざ知らず、いまでは日本よりも中国の方がお金があるんじゃないかと思ったが、氏によれば、中国はGDP4年分の4000兆円の借金(氏の試算)があり、とても金を出せないという。

これはびっくりの見解で、ほんまかいな、という感じ。これが本当なら、中国はいつ破綻してもいおかしくないことになる。どんな根拠でそんなことを言うのかと思ったが、これに関してはそれ以上の話はなく、もう少し詳しい話が聞きたいものだ。(本当に根拠があるんでしょうねえ。いちおう、つぶせないゾンビ国有企業の不振、シャドーバンキングなどの話がでるが、それらを足しても4000兆円には程遠いのでは?)。

最近、中国は南シナ海などのサンゴ礁を埋め立てて軍事要塞化しているが、軍事的にはアメリカには全く歯が立たず、心配する必要はないという。尖閣諸島も、占領する実力はまったくない、という。歴史的にも共産党の軍隊がこれまで勝利した経験はないという。いや、それどころか、歴史を振り返っても中国が周辺地域を征服してうまくいったことなどないという。この辺は全くその通りだと思うので、このような断言は心強い。

米国と中国の貿易戦争に関しては、お互いに本気ではなく、国民向けのポーズだけなので、心配はないという。もっとも本気で貿易戦争をやっても中国に勝ち目はないという。なぜなら、中国もドルで貿易をしているので、ドルを抑えているアメリカに勝てるはずがないというのだ。これは納得である。

一帯一路については、ビジネスと割り切って取りに行けばいいという。わしは一帯一路はそれなりに素晴らしい着眼点と思っているので、大いに協力すべきだと思う。

中国は国民を監視するための、グレートファイアーウォールなどの投資を行っているが、氏によればこの予算は軍事予算を上回っているという。これは驚きの話で、つまり共産党は外からの脅威ではなく内からの脅威の方をより恐れているということになる。

中国の問題として、戸籍問題があるが、習近平はこれを解決するつもりだという。そうでないと、国家が持たなくなるからだ。つまり、ITで強力に監視しながら、農民の国籍の人たちを開放して、自由にするつもりだという。しかしそうなると、ますます共産主義からのずれが大きくなり、最終的には共産党の独裁は崩壊し、中国が民主化するというのが氏の見立てだが、はたして本当にそんな日は来るのだろうか?

★★★☆☆


習近平の真意: 異形の大国を操る

チャイナ・エコノミー: 複雑で不透明な超大国 その見取り図と地政学へのインパクト

アーサー クローバー 白桃書房 2018年3月5日
読書日:2018年07月20日

中国経済の現状を認識するには最適な本。

中国経済については問題ないという声も多かったのですが、一方で、土地バブルが崩壊する、影の銀行での負債で恐慌が起きる、統計がでたらめ、などという物騒な話題も出て、どれが本当なのかさっぱりわからない、という状況でした。この本を読んで、ようやく全体像がはっきりと認識できた気がします。

結論を言えば、これまでのところ中国経済にはさほど問題はなく、中国共産党はとてもよくやっているようです。日本などの他の国の経験を十分に勉強して、政策に反映させているように思えます。これはとても安心できることです。

いちばん気になる住宅バブル、影の銀行などの負債に関しては、負債は増えているものの、コントロールできないほどではないとしています。

一方、今後については、少し厳しめです。

人口ボーナスが終わり、日本のような少子高齢化に世界に向かうこと、資産を投入すれば成長できたこれまでと異なり効率化を推進していかないと成長できないことと、などにについて詳しく説明されています。

また中国では、全てのことが政治と絡んできますが、腐敗摘発などの最近の動きも単なる権力闘争ではなく、ちゃんと経済的な意味があることが示されます(→資本投入の経済成長から効率化の経済成長への転換)。今後うまくいくかどうかは別として、中国共産党はしたたかという気がします。

意外だったのは、中国のイノベーションについてかなり辛口なことです。著者は世界を席巻した新技術やサービスはほとんどない、としています。また世界から閉じられた世界になっており、イノベーションが起こりにくい状況だといいます(中国のガラパゴス化?)。特許件数の伸びや深圳発のドローンなどの新技術、スマホ決済やシェア経済の展開などの話を聞いていますと、中国はイノベーション真っ盛りのような気がしていましたが、それほどではないのでしょうか。個人的には、もっと楽観していいと思いますが。

今後の国際的な中国経済の発展はいかがでしょうか。例えば一帯一路、AIIBはどう展開するのか。AIIBは2400億ドルというとてつもない資金を提供するという話でしたが、実際には400億ドル程度に収まってしまいそうです。つまり期待ほど大きな話にはならないということになりそうです。

まとめると、中国は大きくなるが、世界をリードしたりするような存在にはならないということです。いまのところアメリカの優位は揺らぎそうにありません。かといって無視もできない巨大さです。軍事的な地政学的にも、私は同じような印象を持っています。つまり、中国は大きいけれど、軍事的に世界に影響をもたらすほどではないというものです。どうもアメリカと中国の間で、日本はかなり有利なポジションを押さえられそうな気がします。

1989年の天安門事件に関して少し。これは国民が自由を求めた政治的な運動、という印象をつい持ってしまいますが、著者によると、インフレや雇用などの経済的な不満、役人の腐敗への怒りから起きたもので、経済的な面が大きいようです。現在も国民は共産党に対してあまり不満はなさそうです。豊かになると人は自由を求める、などという神話は信じない方がよさそうですね。

★★★★★


チャイナ・エコノミー: 複雑で不透明な超大国 その見取り図と地政学へのインパクト

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