アーサー クローバー 白桃書房 2018年3月5日
読書日:2018年07月20日
中国経済の現状を認識するには最適な本。
中国経済については問題ないという声も多かったのですが、一方で、土地バブルが崩壊する、影の銀行での負債で恐慌が起きる、統計がでたらめ、などという物騒な話題も出て、どれが本当なのかさっぱりわからない、という状況でした。この本を読んで、ようやく全体像がはっきりと認識できた気がします。
結論を言えば、これまでのところ中国経済にはさほど問題はなく、中国共産党はとてもよくやっているようです。日本などの他の国の経験を十分に勉強して、政策に反映させているように思えます。これはとても安心できることです。
いちばん気になる住宅バブル、影の銀行などの負債に関しては、負債は増えているものの、コントロールできないほどではないとしています。
一方、今後については、少し厳しめです。
人口ボーナスが終わり、日本のような少子高齢化に世界に向かうこと、資産を投入すれば成長できたこれまでと異なり効率化を推進していかないと成長できないことと、などにについて詳しく説明されています。
また中国では、全てのことが政治と絡んできますが、腐敗摘発などの最近の動きも単なる権力闘争ではなく、ちゃんと経済的な意味があることが示されます(→資本投入の経済成長から効率化の経済成長への転換)。今後うまくいくかどうかは別として、中国共産党はしたたかという気がします。
意外だったのは、中国のイノベーションについてかなり辛口なことです。著者は世界を席巻した新技術やサービスはほとんどない、としています。また世界から閉じられた世界になっており、イノベーションが起こりにくい状況だといいます(中国のガラパゴス化?)。特許件数の伸びや深圳発のドローンなどの新技術、スマホ決済やシェア経済の展開などの話を聞いていますと、中国はイノベーション真っ盛りのような気がしていましたが、それほどではないのでしょうか。個人的には、もっと楽観していいと思いますが。
今後の国際的な中国経済の発展はいかがでしょうか。例えば一帯一路、AIIBはどう展開するのか。AIIBは2400億ドルというとてつもない資金を提供するという話でしたが、実際には400億ドル程度に収まってしまいそうです。つまり期待ほど大きな話にはならないということになりそうです。
まとめると、中国は大きくなるが、世界をリードしたりするような存在にはならないということです。いまのところアメリカの優位は揺らぎそうにありません。かといって無視もできない巨大さです。軍事的な地政学的にも、私は同じような印象を持っています。つまり、中国は大きいけれど、軍事的に世界に影響をもたらすほどではないというものです。どうもアメリカと中国の間で、日本はかなり有利なポジションを押さえられそうな気がします。
1989年の天安門事件に関して少し。これは国民が自由を求めた政治的な運動、という印象をつい持ってしまいますが、著者によると、インフレや雇用などの経済的な不満、役人の腐敗への怒りから起きたもので、経済的な面が大きいようです。現在も国民は共産党に対してあまり不満はなさそうです。豊かになると人は自由を求める、などという神話は信じない方がよさそうですね。
★★★★★