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個人投資家目線の読書録

アガサ・クリスティ とらえどころのないミステリの女王

ルーシー・ワースリー 訳・大友香奈子 原書房 2023.12.25
読書日:2024.2.23

遺族が提供した資料を交えたアガサ・クリスティの最新評伝。

母親がミステリ好きだったこともあって、わしの実家には結構ミステリがあったので、アガサ・クリスティももちろん読んだ。たぶん最初に読んだのは「アクロイド殺し」だったと思う。で、面白かったかと言えば、あまり面白くなかった。わしはミステリを読んでも、面白いと思ったことはほとんどない。(例外はシャーロック・ホームズ。これは気に入った)。

そんなわしでも、アガサ・クリスティがいまだ人気だということは知っている。ほとんどの作家に言えることであるけれど、ミステリ作家は使い捨てである。亡くなると読まれることはない。わしはエラリー・クイーンっていまだにミステリの古典なのかと思っていたが、本国のアメリカでは忘れられた作家なんだそうだ。売れているのは日本だけらしい。なのに、アガサ・クリスティはまだ世界中で売れているのである。何が違うのだろうか。

こういう話になると、すぐにブランド化に成功したから、などという説明がつくことが多い。でも知りたいのはなぜブランド化に成功したのか、そしてなぜブランドの魅力が衰えずに今でも売れているのか、ということだ。

アガサは最初の一作目はなかなか売れなかったが、安いお金で働いてくれる作家を探していた出版社に買われるとすぐに人気作家になった。

おそらくアガサが人気だったのは、内容がちょっとスキャンダラスだったからだ。彼女はこれまで当然と思われてきた約束事を破ることに躊躇しない。たとえば「アクロイド殺し」では信頼できない語り手(語り手が犯人)、という新ジャンルを開拓した。また、子供が犯人というジャンルも開拓した。彼女は新しいフォーマットを創造したのである。このような賛否両論の起こるような作品を書いて評判にならないはずはない。

そして本人自身もなかなかスキャンダラスだった。1926年の失踪事件は、いろいろな経緯があったにしても、イギリス中の話題になった。これによって謎めいた雰囲気に磨きがかかって、ますます売れるようになった。

そして、毎年、必ず何冊か本を出した。たゆまず新作を出し続けるというのは、ブランド化に必要なことだ。これはきっと若い頃に家が破産して、お金に苦労したからだろう。休むことを嫌っているのだ。そして、本人はこれは仕事だとはっきり認識していた。

そして彼女には、なぜか人生が苦境になると傑作を出すという習性がある。おそらく創作の世界に逃げ込んでいるのだろう。だけど、集中できるものがあるというのは幸いだし、それが結局彼女の場合はプラスになった。

つぎに文章の特徴だが、その時代のみに通用するような内容を入れないのだ。つまり、アガサの小説は、キャラクターだけで成り立っていて、情景描写は少ない。本人もできれば会話だけで書きたいくらいといっている。(なので、実際に脚本もけっこう書いていて、「ねずみとり」はロングランの記録を作っている。)。

そういうわけなので、こういうキャラクターのみの小説は、その時代特有のものが少なく、いつでも感情移入ができるので、古びず、時代を越える可能性が高いと言えそうだ。またキャラクターもちょっとだけ世間の動きを先取りしていた(とくに女性)。そして、そのようなキャラクターで成り立っている作品は映画やテレビドラマにも最適だということだ。時代背景ではなく、俳優の魅力で話をすすめることができる。なので、映画やドラマになるたびに、また本が売れるのである。

もうポワロはさすがに厳しいかもしれないけど、ミス・マープルはこれからもキャラクターとしては使えるんじゃないかと思う。きっと再ドラマ化されるんじゃないかな。

**** メモ *****
知らなくて、ちょっとびっくりしたこと。
(1)教育レベルは高くなかった
大学に行っていない。へー、そうなんだ。
(2)とてもモテた
若い時たくさんの求婚があったそうだ。でもちょっと子供っぽいパイロットのアーチーに猛烈にアタックされて、結婚。その後、浮気されて離婚。離婚後もモテて、再婚。
(3)家マニア
家を買うことが趣味みたいになって、最大で8件の家を買った。
(4)旅行好き
これは別に意外ではないが、旅行先の話は必ず小説に取り入れていた。これは税金対策で、旅行費用を経費で落とすため(苦笑)。
(5)子供は嫌い
自分の子供の面倒はあまりみなかった。
(6)子供時代は裕福だった
実家は破産する前はとても裕福だった。そのころの裕福な暮らしをずっと続けようとしていたので、じつはいつもお金に苦労していた。(高税率のイギリスだけでなくアメリカにも納税しなければならず、いつも税金に苦労していた)。
(7)どこにでもいる主婦を演出
失踪事件後、マスコミに追いかけられて嫌気が差したので、どこにでもいる主婦の雰囲気を醸し出し、皆に気付かれないことを楽しんでいた。職業欄には必ず「主婦」と書いた。

★★★★☆

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