ヘタレ投資家ヘタレイヤンの読書録

個人投資家目線の読書録

賃金の日本史 仕事と暮らしの一五〇〇年

高島正憲 吉川弘文館 2023.9.1
読書日:2023.10.30

賃金とは生活そのものであるから、賃金を通して過去の生活の水準や質を考えるとともに、その分析方法に種々の方法があることを伝える本。

そもそも古代の賃金をどうやって測定するのか、とか、その水準や質をどう判断するのか、という疑問はもっともなことで、この本の中で主に述べられているのはそういう話である。

しかしわしがもっとも驚いたのは、昔は一度賃金が決まると、長いこと、それこそ100年、200年というスパンで、賃金が変わらないことだった。

たとえば14世紀から16世紀の後半まで、熟練職人の賃金はほぼ100文に、非熟練職人の場合はほぼ10文に固定されていたのである。変動分は熟練職人で10文で、つまり10%の変動幅しかなかった。

これはもちろん名目の賃金で、実際には物価によって実質の賃金は変動する。この物価については、ほぼ米の価格しか継続的な指標がないので、米価で割った値を実質として計算する。そうすると米が不作のときには物価が上がることになるので実質の賃金は下がり、豊作のときには実質の賃金は上がることになる。米の価格で考えている限りは、米の豊作不作で実質の賃金は決まるということになる。

さらには職人の場合は泊まり込みの場合もあり、その時の提供される食事(賄い)の問題や、ときに割増金のようなものも支払われたみたいだから、まったく固定というわけでもなさそうではある。

確かにそれはそうなのだが、しかし名目の賃金がこれだけ変化しないというのはどう考えればいいのだろうか。この辺について本書はごちゃごちゃいろいろ書いてあるのだが、はっきり書いていない。なので、どうもすっきりしないのである。

これは経済が成長していないということなのだろうか。とくに一人あたりのGDPが変化していないということなのかもしれない。技術革新もさほどないだろうから、生産性が伸びるということもなく、一定だったということを示しているのだろうか。

貨幣供給量の問題だろうか。このころは日本に貨幣をつくって流通させるような権威が存在していなくて、中国から渡ってきた銭をそのまま使っていたから、なかなかお金の総量は増えるような状況ではなかった。お金の総量が厳しく固定されていたので、貨幣の価値が落ちようもなく、インフレが起きなかったということだろうか。

でも、これは江戸時代の近世でも幕末をのぞけば同じ傾向だ。徳川幕府は自分で通貨を発行していたから、通貨供給量の問題とも思えない。

質の評価に関しては、得ていた賃金で手に入るカロリーを比較するという考え方が紹介されていて(生活水準倍率法)、まあそういう新しい方法についても紹介されているけど、わしとしては、ずっとこの動かない固定賃金のことが頭から離れなかったのでした。不思議〜。

★★★☆☆

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