ヘタレ投資家ヘタレイヤンの読書録

個人投資家目線の読書録

プロジェクト・ヘイル・メアリー

アンディ・ウィアー 訳・小野田和子 早川書房 2021.12.20
読書日:2023.9.22

(ネタバレあり。注意)

自分の名前すら忘れた記憶喪失状態で目覚めたぼくは、自分が宇宙船の中にいて、どうやら別の星系にいるらしいことに気がつく。どうやら人類の危機を救うためにここに来たらしいが、仲間は冬眠中に死亡していて、状況がわからない。徐々に記憶は戻りつつあるが、果たしてこんな状態で、人類を救えるのか……。

デビュー作の「火星の人」は読んでいないが、映画の「オデッセイ」は見たことがある。という状況で本作を読んだわけだが、本作の印象は、なんというか、古き良きSFという感じ。どのくらい古いのかと言うと、19世紀のジュール・ヴェルヌまでさかのぼる、って感じ。

もちろん太陽を食べる宇宙生物アストロファージが出てくる部分は空想なんだけど、それ以外は徹頭徹尾、現代の科学知識を使っていて、そこから外れない。そして、出てくる人たちは、ほとんど科学者orエンジニアなんだけど、いかにも科学者的な思考方法で進んでいく。なので、科学オタクが現代の科学知識を最大限使って書いたって感じ。

読んでいて、わしはこの辺の科学ウンチクの部分が退屈で仕方なかったので、あんまり楽しめなかった。なにしろ主人公のグレースこそ、本当に科学者的な思考の持ち主で、常識人で、きちんと手順を踏んで考える人で、突拍子もないことは考えないし、行動もしない人だから。

でも、この本が英米圏で大ベストセラーになったのは、やっぱりこういう部分が受けたんだろうけど、日本では海外に比べてそんなに売れなかったのでは? そういう意味ではあちらの社会のほうが、科学に対して一定の尊敬の念があるような気がするなあ。もっとも図書館では予約がたくさん入っていて、ずいぶん待たされたんだけどね。

途中で、やっぱりこの星系に調査に来た異星人と接触するんだけど、これがまあ、大航海に出た西洋人が別の人種に出会ったときと発想があんまり変わってなくて、笑った。いちおう、同じ種が宇宙で枝分かれしたという設定なので、人類同士が出会った場合と似ているとしても、問題はないのだろう。異星人の和音で話す言語は、スピルバーグの「未知との遭遇」を思い出させる。

というわけで、あんまり面白くないなあ、と思いながら読んでいたんですが、最後の30ページは興奮した。主人公のライランド・グレースは親友となった異星人ロッキーの宇宙船が故障したので、地球に帰ることを諦めて、ロッキーを送っていくことにしたのだ。そうしないと、異星人の惑星が滅亡してしまうから。ちなみに、地球へは連絡用のロケットでどうすればアストロファージを抑えて助かるかを伝えてある。そして、グレースは親友の惑星エリドで歳をとって老人になってから、太陽がもとに戻ったことを確認して、人類が助かったことを知るのである。

これはねえ、実にアメリカ人らしい終わり方だと思ったのね。日本人なら、なんとしてでも地球に帰って、「何もかも懐かしい……」なんて言いながら死なないと気がすまないところがある。でも、アメリカ人は、故郷でないどこかに行って、そこに根をおろすことを厭わないところがあるじゃない。そういう部分がよく出ているなあ、という気がしたの。アメリカの小説や映画ってそういうところがあるって、昔から思ってたんだよね。なので、興奮した次第です(笑)。

しかし、日本人のどのくらいがこの作品を楽しめたのかしら。

(どうでもいい疑問)
アストロファージの出す赤外線でこの恒星間ロケットは飛ぶんだけど、この強力な出力にロケットのノズルが本当に耐えられるのかしらね。すぐに溶けちゃう気がするなあ。なんだかそこばかりが気になってしまった。(苦笑)

★★★☆☆

 

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